イネの種子伝染病害を防ぐ温湯消毒+食酢浸漬(防除+催芽処理)
なぜ今、化学農薬に頼らない種子消毒が必要なのか?
イネの育苗期に発生する、ばか苗病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、褐条病。これらの病害は種子伝染性があり、難防除病害とされています。もちろん、播種前の適切な処理が非常に重要なのはご存じの通りです。
これまで、種子消毒といえば化学農薬による殺菌が主流でしたが、これにはデメリットがあります。一番の問題は、薬剤耐性菌の発生です。農薬が効かないケースが増えているのです。また、有機栽培や特別栽培農産物(減農薬栽培)では、化学農薬を使用出来ないケースもあります。また、廃液の処理が問題になる場合もあります。そのため、防除効果が高く、より環境負荷の小さい防除技術が望まれています。
そこで注目されているのが、「温湯消毒+酢酸処理」の組み合わせです!実際に複数の研究で、温湯消毒だけでは防ぎきれない細菌性病害(褐条病など)に対して、酢酸処理が有効であることが示されています。本記事では、よりわかりやすく、イネの種子消毒~育苗期の健康な生育を実現する方法をご紹介します。またこの方法は、馬鈴薯や里芋などの根菜類の種子消毒にも応用できますので、ぜひご参考にして下さい。
実際の処理方法:温湯消毒(温湯処理)+酢酸処理(防除+催芽処理)
では早速、実際の処理方法です。
1.温湯消毒(温湯処理)
温湯処理装置を用いて60℃、10分間の温湯処理を行います。
処理後は直ちに冷水中で冷却します。
※主に糸状病原菌(ばか苗病、苗立枯細菌病)の防除を目的としています。
2.酢酸処理(防除+催芽処理)
市販の食酢の場合は2.5%濃度(40倍希釈)、イーオスの場合は150~200倍希釈の液にて催芽処理を行います。
催芽温度は30~32℃、催芽時間は16~24時間です。
※市販の食酢は、酸度4.2%のものを想定した記述です。
※主に細菌性病原菌(褐条病、もみ枯細菌病)の防除を目的としています。
※食酢の場合は4.5%濃度以上(22倍希釈以下)、イーオスの場合は90倍以下で発芽不良が発生する可能性があります。しっかりと計算し、上記の希釈倍数で処理することをお勧めします。
※循環式催芽器による処理が推奨されます。
※処理後、洗い流す必要はありません。
※廃液は、畑に散布または流して利用できます。(酢酸は薄くなっているので防除作用はありませんが、植物の生育を助けます。)
※木酢液を使用する場合も、一般食酢と同様に40~50倍希釈程度で良いとされています。(木酢液は、農薬として認められません。)
面白い酢酸の防除作用
酢酸による防除については、科学的に評価され確立しています。実際に、エコフィット(クミアイ化学工業株式会社)という、酢酸15%含有の登録農薬も市販されていますから、半信半疑の方もぜひ安心してください。
この酢酸による防除効果の発見は、面白い現象から見つかりました。催芽処理にグルコースやガラクトースなどの糖を1%混ぜると、圧倒的に病害の発病率が下がる現象があったそうです。
その理由を解明するため、よく調べてみるとグルコースやガラクトースが酢酸やレブリン酸などの有機酸に変わっているようだと言うことが分かり、じゃあ酢酸でも防除できるのでは、と試してみたところ顕著な防除作用が見つかったと言うことなのです。
実に面白い発見、そして防除作用です。
(引用元)食酢を用いたイネ育苗期病害の防除
https://jppa.or.jp/archive/pdf/63_11_18.pdf
高酸度食酢イーオスは経済的な酢酸資材
高酸度食酢「イーオス」は、もちろん、この酢酸処理に使用出来ます。イーオスは、酢酸濃度15%を含有しており、先述のエコフィットと同等です。そして、食酢ですから特定防除資材(特定農薬)と認められ、防除を目的に使用して問題ありません。
そしてさらに嬉しいことは、市販の食酢よりもかなり経済的だという事です。

例えばですが、最も人気のあるミツカン社製の穀物醸造酢は、酸度4.2%とされており、その80%が酢酸とのことです。
つまり、ミツカン酢の酢酸濃度は約3.4%です。その実勢価格は、現在(2025.2)で@150円/500mlくらいでしょうか。(酢酸1kgあたりの単価で言うと@8,929円/kgとなります。)
(ミツカン酢は、大変美味しいお酢ですので、食べるならこちらのお酢がお勧めです!)

これに対して、イーオスは、酢酸濃度15%ですから、市販の食酢の4.5倍程度の濃度となります。
そして、イーオス20Lに含まれる酢酸は3kgとなりますので、現在の販売価格(2025.2)で計算しますと、酢酸1kgあたりの単価で言うと、@1,300円/kgです。
いかがでしょうか?
市販の食酢@8929円/kgと、イーオス@1300円/kgです。
つまり、市販の食酢と比べると、実にそのコストは、なんと約1/7です!!これは、最強のコストパフォーマンスです!
これが、酢酸を使うならイーオスをお勧めする理由です。
安全安心で、費用対効果も高い、温湯消毒+酢酸処理をぜひ実践してみませんか?
育苗期にもイーオスをお勧めします
ちなみに、育苗期にもイーオスを継続してお使いいただくと良いと思います。催芽処理と同じく、150~200倍希釈での頭上潅水や、500倍希釈で農薬と混用して散布するのも良いでしょう。上述の種子伝染病害の予防や、苗いもち病の予防にもなり、また発根促進作用があるため、健康で丈夫な苗の生育に繋がります。
なお、育苗期に菌力アップも使用される場合は、イーオスとは別に使用します。イーオスを施用し、数日後に菌力アップを施用するのが良いでしょう。
上記の技術を活用して、病気に強く、活着の早い丈夫な苗をぜひ作っていただきたいと思います。
麦類、いも類の種子消毒にも使える温湯消毒+酢酸処理!
そして、上記の方法は、実はイネ以外の作物にも応用できます。
例えば、小麦、大麦、はとむぎ、のなまぐさ黒穂病や裸黒穂病などには大変応用しやすいと思います。
(参考)コムギなまぐさ黒穂病に対する温湯種子消毒法(茨城県)
https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/noken/seika/h15pdf/documents/18.pdf
(参考)環境保全技術(農水省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/tuti26.pdf
(参考)ムギ類の各種種子伝染性病害に 対する種子消毒の効果(岡山県)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/739273_6759546_misc.pdf
たとえば、里芋(さといも)の種いも消毒に、温湯消毒+酢酸処理をお試しください。
(参考)サトイモ種イモの水選別と温湯処理の2段構えでサトイモ疫病の伝染リスクを低減(鹿児島県農業開発総合センター)
http://www.pref.kagoshima.jp/ag11/pop-tech/nenndo/documents/documents/86835_20210309142122-1.pdf
カンショ(さつまいも)の種いも消毒にも、温湯消毒+酢酸処理が有望です。
カンショの黒斑病、黒あざ病、つる割れ病などの病害は、温湯消毒の有効性が確立しています。
(参考)さつまいも(カンショ)農薬によらない消毒(愛知県)
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/517166.pdf
(参考)栽培技術(日本いも類研究会)
https://www.jrt.gr.jp/spmini/spmini_gijutu/
(参考)サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 (令和3年度版)(農研機構) p.43
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/stem_blight_and_storage_tuber_rot_of_sweetpotator03.pdf
そのほか、ナガイモやコンニャクのネコブセンチュウ、ラッキョウのネダニ、トマトのかいよう病などの消毒、駆除にも温湯消毒+酢酸処理が応用できます。