ノウハウ手帳

堆肥・ぼかし肥料の作り方

良質の堆肥・ぼかし肥料は、明らかに植物の栽培にメリットがあります。(以降、ここではぼかし肥料も堆肥に含めて話します。)しかし、未熟堆肥や間違った原料配合、不適な微生物による堆肥製造は、植物に害があります。
そこで、良質堆肥の製造法をご紹介します。良質堆肥の条件を踏まえて準備を進めましょう。

良質堆肥作りの条件

  • 好気性発酵(切り返しを行って発酵すること)すること
  • 60〜65℃温域で1ヵ月以上発酵すること
  • 原料には、木材以外の植物性のものを多めに含むこと
  • 放線菌を含む分解力の強い好気性有用微生物で発酵すること

良質堆肥作り

1.原料の準備と配合

腐葉土、堆肥、ぼかしなどを作るとき、まず考えるのは、原料をどういう割合で準備するか、ということです。これが一番重要です。このとき考慮するべきは、C/N比(シーエヌヒ)というものです。

C/N比の説明をしますと、これはつまり微生物が増えるための条件と考えてください。
微生物は、増殖したり、細胞分裂をするために、炭素=Cと、窒素=Nを体に取り込みます。この取り込むときの比率、割合が、C/N比です。これが、おおよそ20と決まっているのです。つまり、炭素が主食で20kg、窒素がおかずで1kg必要だ、という話です。

以上の原則があるので、堆肥の原料はC/N比=20から40で設計することが重要です。(ぼかしの場合は、さらに低くてもかまいません)参考までに、おもな原料のC/N比を以下に列挙します。

(C/N比高い順)あくまで平均値
おがくず=534、小麦わら=123、トウモロコシ穂軸=108、大麦わら=98、もみがら=94、稲わら=66、大豆わら=53、乾燥野菜=43、落ち葉=35、コーヒーかす=25、レンゲ・豆科植物=17、生ゴミ=15、おから=11、牛フン=17、豚フン=11、鶏フン=7、油かす・魚かす=6

これを見ると分かるかと思いますが、固いものはC/N比が高いと覚えればOKです。この値は、堆肥製造後には5前後低下します。それは、微生物が増殖し呼吸することで、二酸化炭素として炭素が放出されるからです。基本的にC/N比が100を超える原料は使用しない方がベターです。
複数原料を配合した場合のC/N比が重要なのですが、これは正確にはそれぞれの原料の乾物あたりの炭素、窒素の重量を計算し、合計して算出します。が、入門者の場合には、面倒ですね。
大まかに、メイン(6割程度)とする原料にはC/N比20以下のものを選び、その他の原料に30から100のものを選ぶと、大丈夫でしょう。

なお、酸性の原料を使用する場合は、それを中和するため石灰などのアルカリ資材も混合します。微生物の活動や植物への影響を考え、pHが6から7になるようにしましょう。

2.水分率と好気性微生物

原料を準備したら、次に重要なのは水分率と、好気性微生物を用意することです。

水分率から説明します。水分率は、一般に60%が好適といわれています。これは、手で原料を握り締めると、水が垂れないで固まる。そしてその固まりを指で軽く押すと、すぐに崩れる。これくらいの水分率といわれます。

実際は、水分率は原料によってまちまちです。おからなどは、水分率70%から75%でもよく発酵します。つまり、水分率で重要なことは、湿度と通気性が十分に保てることなのです。
水分が多すぎて、団子状になるようでは、内部環境は嫌気発酵となり、分解は進みません。それどころか、腐敗してしまうことが多いですね。水分が少なすぎると、微生物はあまり増えることができません。入門者の方は、まず決して団子にならないように、注意しましょう。

つぎに、好気性微生物を用意する、ということです。これは、菌力アップをお勧めします。
それぞれの発酵ステージで活躍する有用微生物を選抜し、配合してあります。分解力、繁殖力が強いため、発酵が非常にスムーズで、多少原料バランスが悪くても失敗することなく発酵します。

しかし、菌力アップがなくても、発酵促進のための好気性微生物であれば、だいたい大丈夫です。たとえば、良く発酵した完熟堆肥を発酵促進として、全体の1割ほど混ぜる方法もあります。これを戻し堆肥といいます。完熟堆肥には、発酵に必要な好気性微生物が含まれているので、微生物資材として使えるのです。

ここで注意点があります。一部の農法などでは、堆肥づくりに嫌気性微生物を推奨するものがあります。これは、お勧めできません。
嫌気性発酵というのは、空気と遮断し、無酸素の状態で発酵するということです。が、これには、技術的な問題点が非常に多いため、ほとんどが失敗します。
まず、堆肥製造において無酸素状態を作ることをは極めて困難であるため、中途半端な酸素不足環境となり、雑菌・腐敗菌が増えること。
好気性に比べ、分解力が非常に遅いため1-2ヵ月程度ではほとんど未熟のまま残ること。
分解力が遅く代謝が低いため、温度が上がらず、雑菌や雑草の種が死滅しないこと。
雑菌が繁殖し、腐敗する場合が多く、硫化水素やメタンなどのヘドロの悪臭を発生すること。
そういったガスが害虫を呼び寄せ、害虫多発に悩むこと。

味噌やヨーグルトなど食べ物における嫌気性微生物の有用性は認められていますが、実際の農業現場ではあまり役に立たない場合がほとんどです。ただし、通性嫌気性といわれる酵母や乳酸菌には、農業現場でも活用方法があります。

3.切り返しと温度管理

原料を配合し、空気、水分、微生物がそろうと、2〜3日で温度が上がり始めます。早ければ4〜5日目には、60℃を超えるでしょう。こうなればひとまず安心です。
重要なことは、かならず切り返しをすることです。切り返しというのは、すべてを撹拌しなおすことです。これにより、全体の均一性が保持でき、また空気が入ることにより、さらに発酵が進んでいきます。
切り返しは、通常1週間から10日に一回行います。エアレーションなどの設備がある場合は、切り返しの間隔はさらに長くしても大丈夫です。切り返しの際に、水分が足りないようであれば、水をかけながら撹拌します。

また、温度が70℃を超えるようなときも、切り返しを行います。切り返しを行うことで、温度が下がります。原料によっては75-80℃まで温度が上がることがありますが、これは良いことではありません。せっかくの有機成分が、熱で変性し、燃えカスのような状態になってしまうためです。
あまり温度が上がるようであれば、切り返しを頻繁に行うか、堆積の高さを低くし、表面積をふやすことで温度が上がりにくくする必要があります。

発酵の様子

発酵温度は、60〜65℃で推移するようにしましょう。温度計が短い場合は、左の写真のよう少し掘って、中心に近い部分を計測します。その温度帯を、1ヵ月以上保持することが重要です。
これよりも早く温度が下がるようであれば、原料の選別やバランスが悪いと思われますので、見直しましょう。

4.堆肥の完成か

放線菌

原料によって違いますが、1〜2ヵ月間発酵すると、写真のように原料全体に白い粉の様な菌がふき、においもほとんどなくなります。この菌は、放線菌です。これが、農業では非常によい働きをする微生物です。

この放線菌が目に見えるほど増えてきたら、土のにおいがしはじめ、完成が近いです。(ちなみに、白い綿のような菌はカビであることが多いです。)あとはどれだけ熟成させるか、ということになります。

堆肥製造の放線菌

堆肥をどの段階で完成とするかは、いろいろな考え方があります。おもに中熟堆肥派と完熟堆肥派で分かれます。
しかし、基本的には、「堆肥・ぼかしの見分け方」に書いた点を検査してから使用します。すくなくとも、製造現場においては、においと手触りで判断することが多いと思います。

技術的な品質面でのポイントは、C/N比が20〜25であること。(ぼかしはもっと低くなります。)C/N比は、発酵前が30であれば、発酵後は25くらいになります。さらに一般的には、完成した堆肥の肥料成分は低いほど良いといわれます。
つまりNPKがゼロに近いほど良いということです。(機能性堆肥、ぼかしは別です)色は黒く、原料の判別が難しいほど分解している。そして、水分は25%程度です。

さらに一点注意することは、畜産農家の堆肥には、乾燥=堆肥の完成、と考えている方が多いことです。乾燥していれば、扱いやすく、においも少ないのは確かです。
しかし、乾燥というのは、単純に熱が上がり、水分が気化しただけのことですから、堆肥の品質とはほとんど関係がありません。この点を誤解しないでください。

堆肥は、基本的に土壌改良資材です。しかし、一般に流通している堆肥のなかには、土壌を悪化させる堆肥が多すぎることが問題です。
まずは良い微生物を増やすことが、物理性、化学性、生物性を改善するポイントになります。ぜひ自家製堆肥製造の参考にしてください。