ミニトマト栽培 高品質・多収穫のコツは?
ミニトマト栽培 サンビオティック歴9年の逸話
長崎県平戸市のHさんは、サンビオティックに取り組んでもう9年ほどになります。しばらくご無沙汰にしていましたので、久しぶりにHさんの圃場をお伺いしました。
ハウスに入るなり、驚きました。感動するほど美しい、見事なミニトマトが鈴なりになっています。
Hさんには、初めてサンビオティックを導入したときの逸話があります。
以前は6連棟のハウスでしたが、センチュウ対策のためにサンビオティックに出会い、菌力アップや鈴成、糖力アップなどを使ってみると、それはもう面白いように花が来て、実がなっていくのです。
これまでにない手ごたえにすっかりハマってしまい、どんどんサンビオティック資材を流していたら、ついには寝る時間も取れないほど収穫やパック詰めの作業が忙しくなってしまいました。
これまでにない、あまりに極端な増収に、奥様からは「忙しすぎるからやめて!」と怒られてしまったと言うのです。
なにしろ、その時は40日間で3万パック/10a出荷し、2ヵ月で5万パック/10aも出荷したというので驚きです。
夫婦二人で、畑の管理からパック作業までやっていますので、寝る間もなくなるのもうなずけます。
これは嘘のようなホントの逸話で、それから徐々に畑を減らし、今では6連棟あったハウスの半分だけで栽培をしていて、以前と同じか、それ以上の収量(売上)を上げているというから、素晴らしいです。
サンビオティックのやり方が良いという噂になり、地域の振興局の方たちと実地確認をしたうえで、地元のミニトマト部会では全員サンビオティックを導入しています。10aあたり元肥に鈴成10袋を混和し、菌力アップを使用することが、地域の栽培暦において推奨されています。
環境制御がなくても平気
近年は、ミニトマトやキュウリなどの施設栽培で、光合成を増やすために環境制御を導入される方も増えています。
Hさんのことなので最新技術を導入しているのかと思って、「環境制御は入れてないんですか?」と聞いてみました。
すると、Hさんは「いやー、ワラ敷くだけで十分ですよ。」と余裕の返答です。環境制御は、初期投資がかかるし面倒。そんなことしなくても、十分に収量はあげられるということでした。素晴らしい自信です。
たしかに、これだけワラを敷き詰めれば、徐々に微生物が分解し、相当膨大なCO2を吐き出すことと思います。
特に、微生物が活動するのは、気温の高い日中ですから、光合成の盛んな時間帯に重なり、知ってか知らずか、自然と環境制御のような状態になっているのかな、と感じました。
高品質・多収穫のやり方
Hさんのやり方は、面白いのでご紹介したいと思います。まず基本の元肥は、下記のとおりです。
品名 | 使用量 (10a当たり) |
---|---|
豚糞堆肥 | 1t |
鈴成 | 10袋(200kg) |
セルカ(有機石灰) | 2袋 |
なんと、これだけです!もちろん、前年の状況や作付けの計画によっては、有機肥料などを付け加えることもあるんですが、一般的な施肥量からすると、とても少ないですね。
そして、栽培管理も簡単です。潅水チューブで以下の資材を定期的に流していく方法です。
品名 | 使用量 (10a当たり) | 施用方法 |
---|---|---|
菌力アップ | 5L | 10日に1回潅水 (定植直後から継続) |
コーソゴールド | 2kg | 10日に1回潅水 (開花時から継続) |
上の表は横スクロールで確認できます。
基本的には、これだけです。継続的に好気性微生物「菌力アップ」と植物酵素ベースの発酵リン酸「コーソゴールド」を施用することで、トマトはどんどん根を張り、チッソやミネラルを吸収していきます。
成り疲れを防止するために、収穫が増えてきたら「糖力アップ」を施用するくらいで、基本的にはとても低チッソ栽培なんですね。
Hさんが、面白い事を言っていました。「サンビオは、効きすぎるけん注意せんば!はっはっは!」というのです。
何でですか?と聞くと、「コーソゴールドば、4kgやったらだめやった。色むらが出たもんね、やっぱり言われたごとせんばね!」と言って笑いました。コーソゴールドが効きすぎて、バランスを崩したということでしょうか。
Hさんのミニトマトの品質は素晴らしく、赤色が濃く宝石のように光り輝きます。食べてみると張りがあり、弾ける果肉感と、しっかりとした甘味があり、食味が良いのです。
Hさんのミニトマトは年々評価が上がっており、福岡の市場では一番競りで扱われているそうです。
「年明けから、毎日200キロ/12aくらいは採ってますよ。」と収量も立派です。
菌力アップのお陰で、センチュウや青枯病などの土壌病害もほとんどないし、葉っぱの病気や害虫もほとんど来ないので、農薬はめったに使わないそうです。素晴らしい事ですね!
これからも、美味しいミニトマトを作って、産地のブランド化を頑張ってもらいたいな、と思います。
低チッソ栽培についての考察
ところで、少し余談となりますが、このような低チッソ栽培には、疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
ここで少し考察してみたいと思います。
ミニトマトの栄養成分を調べると、100g中にたんぱく質はわずか1.1gしか含んでいません。(日本食品標準成分表2015年より)ということは、1kg中には11gです。1000倍して、ミニトマト1tには、たんぱく質11kgが含まれていることになりますね。
たんぱく質にはおよそ16%の窒素が含まれていますから、11kg×16%=1.8kg、ということですから、つまりミニトマトは収量1tにつき、畑から窒素が1.8kg収奪されるということになります。
葉の生育を含めると、一般的には収穫1tあたり3kg程度の窒素を与えれば、畑の栄養収支がバランス取れることになります。例えば10tのミニトマトを収穫する圃場では、窒素は30kgはなければならないということです。
しかしHさんの圃場では、基本は堆肥の窒素のみ。時より入れる有機肥料も少なめです。
これで、本当に10t以上の多収穫ができるのでしょうか??
しかし、見落としている点が一つあります。
それは、微生物です。窒素固定という仕事をする微生物がいるんですね。
窒素固定とは、空気に含まれている窒素を体の中で変換し、アンモニア態窒素に変えることです。
菌力アップに含まれているアゾトバクターという細菌は、窒素固定微生物の代表格です。
特に、圃場の条件が良ければ、菌力アップに含まれている放線菌と共生して、想像以上の窒素固定を行います。
このような細菌は、堆肥やぼかし肥料を多用している有機質の多い圃場で増えやすく、化学肥料の多い圃場では増えにくくなります。
Hさんの圃場では、毎年大量の有機質を入れ、菌力アップを継続的に施用しているため、窒素固定菌がかなり繁殖していると考えられます。驚くべきことですね!
これからの「持続可能な農業」というのは、こういう部分から考える必要がありますね。
Hさんが以前言われていた言葉ですが、「根っこさえ張っとけば、窒素はどっかからでも吸うとよ。」
なるほど、そういうことなんですね。