ミニトマト青枯病対策 2年目の成功!やはり予防が大事!
元営農指導員 ミニトマト青枯病との闘い
宮崎県は、全国でも有数の先進的な農業地域です。中でも、微生物や生物農薬などを使った安全安心な農産物生産への取り組み、環境保全型農業への取り組みは、全国的に高く評価されています。
今回は、そんな宮崎県のHさんをご紹介します。Hさんは、JAで営農指導員を経験し、退職されミニトマト農家になった若き生産者です。
JA勤務時代には、その行動力と栽培知識の豊富さから、組合員からの信頼の厚い営農指導員でした。Hさんは、家業である農業を引き継ぐことになり、JAを退職し、ミニトマトを栽培し始めていました。
今回、Hさんが、試験を依頼されてきたのは、ミニトマトの青枯病対策です。ミニトマトを作っているHさんの圃場では、土壌消毒をしているのに、なぜか青枯病が毎年出るようになり、年々ひどくなっているというのです。
そんな時耳にしたのが、菌力アップの評判でした。管内の農協でも、菌力アップで実績を上げている人がいるらしい。
微生物資材のことは、これまでもいろいろな資材を聞いたり、試したりしたことがありましたが、実際にこれがいい、というものに出会ったことがありません。まして、病気の対策となると、なかなか思うようにいかないものです。
「本当に微生物で青枯病が止まったら、これは革命的なことですよ!」とHさんは、これまでの指導員としての経験を総動員しても、微生物資材に対して半信半疑でした。
しかし、前評判を聞いて、今回は違うかもしれないと、試してみることにしたのです。
田んぼに隣接する青枯病発生圃場
青枯病は、一度出ると非常にやっかいな病気です。青枯病の病原菌は、細菌で、水気が多いと水に乗って移動してきます。基本的には、根の細胞を破壊するほどの力はありません。根についた、傷口から侵入するケースがほとんどです。
たとえば、植え付け時にポットから引き抜いたり、植え付けたりするときのこすれや、栽培中に多湿や乾燥で根が傷つき、そこから感染する事が多く、特に着果負担がかかるころや、梅雨時期などに発生が多くなります。
実は、ネコブセンチュウなどにより傷つけられたところから青枯れが入ってきていることもよくあります。
地中の割と深くにも生存できるため、土壌消毒でも完全に殺菌することが難しい、いわゆる難防除病害です。
Hさんの圃場に最初にお伺いしたのは、今から2年前です。ハウスに入ってみると、すでに青枯病がまん延しつつあるときでした。全体の2〜3割は罹病しているように感じました。
「周辺環境にも問題はあるんですよ。」と言われる通り、圃場は、田んぼに作ってあるハウスで、周りには水が溜まっていて、水はけの悪さが見受けられる状態でした。
青枯病の対策に菌力アップ
Hさんが単刀直入に「治りますか?」切り出したので、お答えしました。
「ここまで進行していたら、圃場全体に病原菌は広がっていると思いますから、やってみなければわかりませんね。すでに、株に侵入している病原菌を殺すことはできませんから、『治る』ということはないですけど、これ以上のまん延を少しでも食い止めることはできるかもしれません。」
菌力アップは、微生物資材であり、殺菌剤ではありませんから、当然にトマトの株の内部に入った病原菌を死滅させることはできません。しかし、土壌微生物のバランスや微生物の数自体が増えると、病原菌は、一気に勢いを失って、感染拡大しにくくなることが分かっています。
このような一般的拮抗作用が働くためには、非常に多くの微生物種が増えて、菌密度が高い状態を維持する必要があります。菌力アップには多種多様な微生物が、含まれており、土壌に施用されたあと、即座に増殖を開始します。
Hさんは、すぐに菌力アップを試してみることにしました。
それから、約3ヵ月後
それから、約3ヵ月後。状況確認のため圃場をおたずねしました。
どうでしたか?とお伺いすると「すこし遅かったかな〜、やるのが。」とHさん。菌力アップをやったことで、その後の大きな感染拡大は免れたものの、大きな手ごたえを感じるほどではありませんでした。
「効果があったとかもしれんけど、でもちょっと遅かったかな。来年は、最初からやってみますよ。」と、Hさん笑いながら答えられました。
「はい、まずは感染がひどくならなかったなら、良かったです。やっぱり、基本は予防的に使用してもらうほうが、費用対効果は高いですし、収量も上がりますから、いいですよ。」とお答えいたしました。
トマト青枯病 2年目の戦い
ハウスの連作圃場で土づくりをする際に、最も重要なポイントの一つは、土壌消毒後に速やかに微生物相を作ることです。これだけで、病原菌の増殖を抑えることができます。菌力アップなら、水に溶いて散布するだけですから、簡単にこの処理ができます。
そこでHさんは、次作では太陽熱消毒をする際に、堆肥等と一緒に菌力アップ10L/10aを散布し土壌消毒を行いました。
そして、太陽熱消毒が終わり、被覆をはいで数日間、土を乾かした後、もう一度、菌力アップ10L/10aを散布し、耕耘しました。これで、土壌の微生物相は、一気に理想形に持っていけます。
その後は、トマト定植後から、一週間に一回、継続的に菌力アップを潅水していただきました。潅水チューブで流すだけですから、手間いらずで簡単です。
2年目にみごと青枯病を克服
2年目の正直という事でしょうか。結果的に言うと、試験は大成功でした。青枯病は、罹病の可能性がある株が生育の終盤の5月ごろに1〜2本見られただけで、ほぼパーフェクトな状態で栽培を終えることができました。
生育・収量・品質アップ!
ご覧ください、ビッシとそろったこの生育。この写真は、1月中旬ごろの一番寒いころでしたが、樹勢が衰えることなく、生長点の鮮やかな緑は、根の働きが高いことを表しています。
ミニトマトの収量も、昨年以上に採れ、品質も良いとのことでした。葉には、ツヤが出てとてもいい状態のように感じました。菌力アップの良いところは、病害予防と同時に、生育を良くして収量や品質の向上もさせてくれるところですね。
この時に青枯病の発生をお聞きすると、まだ発生していないという事でした。
つややかな葉っぱを見ていると、もはや、葉っぱが美味しそうです。
花も、旺盛に咲き、例年より調子が良いという事でした。
これからの作付の時期、ぜひご参考に!
これまで毎年のように悩んでいた青枯病がこんなに簡単に抑えられたと、Hさんにもとても喜んでいただきました。栽培も順調にいき、昨年以上に収量が上がり、十分に元は取れたので『来年もぜひ継続していきたい』ということでした。
病害予防は、殺菌するという発想だけでは、限界がありますね。
病原菌が増える前に、良い微生物をいっぱいに増やし、自然に病気になりにくい環境を作ることができれば、それほど怖がることでは無いということです。
皆様のこれからの作付けの時期、ぜひご参考にしていただければと思います。
青枯病対策の追記
青枯病の出やすい圃場の特徴は、やはり過湿状態であることと、低pHで、かつカルシウムの吸収が不足していることのように思います。また、青枯病の病原菌は、柔らかい有機物を好む細菌です。そのため、堆肥の施用後、十分に分解する時間をおかず、間もなく作付けをしたような圃場で出やすいように感じています。
そこで、青枯病の対策には、下記の注意点をアドバイスしています。
青枯病の対策 注意点
- 堆肥は1〜2t程度、柔らかい素材と、若干硬めの素材が入ったものを使用し(C/N比が20〜30程度)、施用後に菌力アップを10L/10a散布して、混和し、約1ヵ月の養生期間を設けること。
これにより、バランスよく多種多様な微生物が増殖し、まただ土壌団粒化により、排水性の改善が図られる。(土壌消毒をする場合は、土壌消毒後、菌力アップを施用し、約1ヵ月の養生期間を設けること) - 土壌pHは、元肥施肥後6.0〜7.0になるように、牡蠣殻石灰と、苦土、加里などを施用し、栽培期間中もカルシウムを液肥等で与えること。カルシウム液肥には、土壌pHを大きく変動させず、吸収のよい本気Ca(マジカル)をお勧めしています。
- 栽培期間中にも、微生物の活性を高く保つため、菌力アップと糖力アップを継続的に、週に1回程度の間隔で施用する。調子が良ければ、施用量は半分くらいまで減らしてよいが、継続して施用する方が良い。
糖力アップには、アミノ酸態窒素が豊富に含まれており、ヒスチジンやアルギニンやリシンなどのアミノ酸も含んでいます。農研機構の研究により、これらのアミノ酸が青枯病に対する抵抗性を高めることが実証されています。
(参考)農研機構:トマトの青枯病にアミノ酸が効くことを発見
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/072039.html - 日照不足や低温時には、光合成が低下することにより、糖の生成が不足し、根の壁が軟弱となり、青枯病菌の侵入を許してしまうことがあります。そのような場合には、純正木酢液や酢酸などの有機酸を潅水し、光合成不足をカバーすることが、有効な対処法になることがあります。その点でも、有機酸カルシウムである本気Ca(マジカル)の利用はお勧めです。