ケタ違いの収量を実現したミカン栽培

和歌山県でみかんを栽培するSさんのミカン栽培をご紹介します。Sさんは、農業雑誌では有名な「現代農業」でも取り上げられた実力派の生産者です。
和歌山県有田地区は、言わずと知れた高品質ミカンで最も有名な産地ですが、その地域でもトップレベルの栽培技術を追求していらっしゃいます。栽培面積は、みかんと中晩柑を合わせて3haほど。主にお母様と二人で栽培管理をされていらっしゃいます。
基本的な栽培スタイルは、細根のある強い樹を作ってしっかり光合成させることで収量も品質も上げていこうという考え方です。そのため、マルチ被覆やフィガロンはせず、堆肥をやらない代わりに除草剤を控えて草生栽培に近い状態です。土づくり、根作りを重視することによって、驚異的な実績を上げていらっしゃいます。
大変参考になる栽培技術が満載ですので、ぜひ皆様の栽培にもご参考にしていただければと思います。
「現代農業」に掲載された、反収13トンの脅威!

現代農業2024年10月号p.222に掲載されている記事、ざっと読むとさらっと通り過ぎてしまうような内容となっています。
しかし、ざっと読んではいけません!!記事の中で思わず見逃してしまいそうで、とても重要な注目点は、反収13トンという脅威の収穫実績の部分です!
記事に掲載されている園地は、日南1号(極早生)品種で、定植後15年程度。前の生産者から譲り受け、数年前からSさんが管理することになりました。驚くなかれ、Sさんが栽培を始めて1年目の収量はなんと12トン。続く2年目の収量は、なんと13トンだそうです!そして記事には記載されていませんが、3年目(昨年)の収量は12トンだったそうです。本当に聞いたことのないような収量ですよね!この数字、10a当りですよ!反収です。
ちなみに、この園地の植栽本数は、反120本程度だそうです。樹冠の大きさは見たところ2m強くらいで、樹高も人の背より高くありませんから、そんなに大きな樹ではないです。そして広くはないですが歩くスペース(通路)も取ってあり、畝間、株間ともそれほど過密な感じでもありません。この普通の園地で、その実績は凄いと思います。
一番驚くのは、3年連続12トン超というところですよね!単年度で10トン超えの反収というのは、私も少なからず何度か見たことがありますが、そういう園地では必ずと言って良いほど隔年結果がひどく、翌年は半分以下、ひどい場合は3トンも取れないということも少なくありません。しかし、Sさんのこの畑では、3年連続で10トンを大幅に超える収量を実現し、隔年結果がほとんど無いというところが非常に素晴らしいところです。
もちろん、収量だけではなく、品質も伴っています。こちらの日南(極早生)でも、大体10.5~11度くらいにはなるそうです。そして、これだけたくさん成り込むと色づきが心配されますが、予想に反して、地域の生産者の中でも色づきはかなり早い方だといいます。農薬の適期防除も徹底していて、秀品率も優秀です。
まったく素晴らしいですね!いやー、これだけ聞くと本当に不思議なことだと思います。よほど、圃場の条件が良いのか、通常よりも何倍も手間暇を掛けて育てているのか。。。
「何をしたらそんなことになるんですか?」と聞いてみると、もちろん畑の条件や品種によって収量の少ない圃場もあると言うものの、実は思い当たる最大のポイントがあると言うのです。
なに!?ポイント?それは気になりますね!
教えてください!というと、帰ってきた答えは意外なものでした。「潅水ですよ。」と。
潅水ですか~、意外な答えに私もすこし拍子抜けする部分もありましたが、「サンビオティック資材は、本当に良い商品が多いですけど、うまく使えば効果がもっと上がるなって感じてるんです。その一つが潅水で、現代農業さんもそれを聞きに来ましたよ。」というお返事でした。
Sさんがサンビオティックを使い始めて、もう10年弱になるでしょうか。サンビオティック資材の内容をしっかりと研究し、誰よりも使いこなしているので本当にありがたい生産者です。「肥料や資材は、いろいろ試してきた」と言います。でも、サンビオティックのコーソゴールドや本気Caなど、どれもコスパがずば抜けていて、いまではサンビオティック資材をほとんどフルコースで活用しています。
そんなSさんのサンビオティック資材の活用技術を、特別に教えてもらいましたので、今回はそれを詳細にご紹介したいと思います!
根に直接効かせる、微生物、アミノ酸、そしてミネラル。
早速ですが、Sさんが潅水に使用しているレシピをご紹介しましょう。
潅水レシピ(基本)
・菌力アップ 5リットル
・糖力アップ 5kg
・硫酸マグネシウム 2kg
(または本格にがり 2kg)
・マジ鉄 100g
・純正木酢液 500ml
※すべて10a当りの原液使用量
※水量は500~1000リットル/10a。
※純正木酢液を最初に投入し、マジ鉄、硫酸マグネシウム、糖力アップ、菌力アップの順に混ぜるのがベスト。
※葉色が濃ければ、硫酸マグネシウムやマジ鉄は省いても良い。
この潅水は根の成長時期(4~6月)に月1回のペースで実施します。中晩柑の場合は4月~7月まで。
やり方は、樹冠下(根のある部分)に、ホースで撒いていきます。できれば、雨の日または雨上がりにやると、水量は500リットルでも十分に根に浸透するので良いと言います。水量が半分になれば、時間も半分になりますから良いですよね。
レシピもよく考えられていますが、4~6月の一次発根期に合わせて潅水を実施しているのもポイントでしょう。ミカンの場合、一次発根期にしっかりと発根促進できるかどうかは、果実品質を上げるためにも、また隔年結果を軽減するためにも非常に大事なポイントだからです。
そして収穫後の潅水もとても大切と言います。樹勢回復のためには、収穫後できるだけ早く(遅くとも1か月以内に)この液肥潅水を最低1回は実施します。また中晩柑は、秋口からの乾燥で果実品質が低下しやすいので、10~12月も液肥潅水を実施しています。
潅水作業は、手間が掛かるようですが、この作業で収量がしっかり上がるようになるのであれば、やるしかないですよね!
さらに葉面散布による養分補給で果実品質を上げる!
葉面散布というのは、補完的な養分補給技術です。葉は元々栄養の吸収器官ではないので、根ほどの吸収力はないとされます。
しかし、確実に吸収していることも分かっています。無機肥料はもちろん、アミノ酸や糖類などの有機物も葉から吸収していて、その効果は決してバカにできません。回数を重ねるほど、やっぱり違いが出てくるのが葉面散布なんですよね。
Sさんも、葉面散布は非常に重要視しています。防除のタイミングや防除以外でも、大体月に1回は葉面散布で栄養分を入れ込んでいくことを実践しています。特に農薬の散布は樹に負担があると感じていて、防除のときは必ず何らかの栄養分を入れていくべきだとおっしゃいます。
葉面散布で使用する資材は、以下の通りです。
葉面散布のレシピ(基本)
・特濃糖力アップ 2000倍希釈
・海王(うみおう) 10,000倍希釈
・コーソゴールド 500~1000倍希釈
・本気Ca(マジカル) 1000~2000倍希釈
・硫酸マグネシウム(本格にがり) 1000~2000倍希釈
※7~9月(猛暑期)はコーソゴールドは控えるか、薄めに800~1000倍希釈で実施(緑斑予防のため)
※本気Ca(カルシウム)は基本1000倍希釈だが、発芽期(4月)や果実肥大期(7~8月)に細胞の肥大を優先する場合は2000~3000倍と薄めに実施。
葉色が薄いときは、これにマジ鉄5000倍を加えることもあります。Sさんは言います。「葉が薄いときに、尿素より鉄をやるようにしてるんですよ。尿素で見せかけの葉色出すより、鉄で葉色を濃く持って行った方が、光合成能力があると思うんです。」
大変面白い考え方だと思います。単に葉緑素をつくるだけでなく、光合成する力のある葉緑素をつくろうということなのでしょう。
この葉面散布は、ほぼ1年を通して毎月1回は実施します。農薬と混ぜてやることもできます。これにより樹勢が安定し、果実品質を向上させ、また花芽分化が安定しやすい内容になっていると思います。
「葉果比は多分20より低いと思うんですけど、サイズもSMくらいになりますし味も良いです。葉っぱの数も大事ですけど、葉の厚みって言うか、光合成する力が大事なんじゃないですかね。こういう葉面散布していれば、樹勢が落ちないんで疲れないで成ってくれますよ。」とSさん。
さらに面白いことに、この葉面散布は樹勢も維持するため中晩柑にもお勧めだそうです。清見やデコポンなど、この葉面散布を12月まで実施すると虎斑症が激減すると言います。
細根があるから少なめの施肥設計でも効く
Sさんが重視しているのは、まずは根をしっかり作ることです。そのために潅水や葉面散布をされているということですね。そして、根ができていれば肥料の吸収も良いのでしょう。施肥設計をお伺いすると、Sさんの施肥量は地域の半分程度で実施されているそうで、基本的には春肥を中心にしています。
(施肥例)
・春肥 3~5袋
・夏肥 2袋
・秋肥 基本ゼロ(樹勢を見て1~2袋やる場合もある)
※使用肥料は、JAの配合肥料(みかん用)や化学肥料(硝酸カルシウムや硫安)など気温や樹勢を見て、2~3回に分けて施肥する。
※石灰資材は、3月頃有機石灰を施用。(省力のため、2年に1回程度)
「大事なのは細根を作ることだと思うんですよ。細根がしっかりあれば、少ない肥料でもちゃんと効いてくれますね。今年も3月下旬に硝酸カルシウムをやったら、すごい良い芽がでました。花も多かったですけどね!春肥は早めからやって、発芽量をしっかり確保するようにしてます。」
「そういう意味では、やっぱり乾燥をできるだけ避けるように注意してますね。夏でも冬でも、しばらく雨が降らないと、スプリンクラーで潅水がてらに液肥を入れて水をやりますし、しっかり水をやって細根を作ることと、光合成ができることが大事だと思うんですよね。」
今年も良い花がすごい多かったです!
3年連続12トン超えの園地ですが、今年の状況も気になりますよね。「今年はどんな感じですか?」と聞くと、素晴らしいお返事でした。
「今年も良い花がたくさん来て、いやー、あれそのまましとくと多分15トンくらい成ってたと思うんですよね。でもさすがにそれは樹勢が心配なので、剪定して花を少し落としましたよ。たぶん今年は10トンか、12トンくらいじゃないでしょうか。まあ、今からですけど。」と4年連続の大記録を予感させる状況だそうです。
本当にすごいですね!
Sさんの栽培方法、いかがですか?
潅水で根を作り、葉面散布で樹勢や果実品質をしっかり確保されています。労力の掛かる地道な作業ですが、コツコツと積み重ねるようにして実施されているところが素晴らしいですよね。そしてもちろん、固形肥料の使い方も、その年の状況や環境を考えて、その時その時で、何が足りないか、何を与えるべきかしっかり考えてやっていらっしゃるのが分かります。
「去年は高温で、着色が問題になりましたね。和歌山は全体的でしたし、うちでも色が遅れた畑がありましたから、今年はその辺りも対策を考えていきたいと思って。またいろいろ教えてくださいね!」と、みかん作りを楽しみ、そしてより良い高い技術を追求し続けるSさんでした。
今年も、素晴らしいミカンや雑柑ができるよう、心から応援していきたいと思います!Sさん、たくさんの技術情報を公開していただいてありがとうございました!ぜひ、みかん農家の皆様や、他の果樹や果菜類を栽培している皆さんのご参考になれば嬉しく思います!
(参考資料)
サンビオティック みかん・中晩柑栽培マニュアル