発根がすべての基本。菌力アップを高品質ミカンの栽培に活かす!
豪雨災害の翌日、、、ミカンの畑は無事?
「マジでやばい!ひどか雨やったですね!!」
長崎県で先進的なミカン作りをしているHさんのことが心配になり、圃場に伺ったのは、7月8日。実は、その前日と前々日のたった2日間で、なんと290ミリもの雨が降った直後でした。
畑では、あちこちで石垣が崩れていました。普段温厚なHさんも、見たこともないような濁流が畑の脇を流れているので、さすがに恐怖を感じたそうです。長崎だけでなく、今年の梅雨は全国的な大雨です。
特に線状降水帯という集中豪雨に当たると、想像を絶する水の量が襲い掛かってきます。
「さすがに、命の危険を感じるよね。異常気象には困ったものだよ。」という言葉が、あちこちで話題に上っています。
しかし、Hさんの畑は、あれほどの雨が降った後なのに、翌日には普通に入れる水はけのよさです。本当に雨が降ったのか、という感じです。石垣のだんだん畑とはいえ、もともとは、赤土の粘度の混ざった土壌です。
やはり、土づくりで団粒構造ができていることが、水はけのよさの理由でしょう。
Hさんと畑を歩いてみて、目に飛び込んできたのは、地表が削られてしまった様子でした。ものすごい雨が、土をもっていってしまったのでしょう。地表の一番大切なところが流されてしまっていました。
しかし、よく見ると、そこにはむき出しになったミカンの根が。それは、おびただしいほどの根の量です。白く、ち密な細根がびっしりと張っていて、土を捕まえてくれていました。
流れされて見えた、驚くほどの発根が露わに!
「それにしても、すごい根の量ですね!」と話しかけると、「そうですなんですよ。ここに菌力アップが役に立っていますよ。私も、これだけ根が張ってきているっていうことが、土が流れてみてよくわかりましたよ。これが、ミカン作りの基本ですから、間違ってなかったなと思います。発根が悪いと何をやっても駄目ですからね、菌力アップは大事ですよ。」とHさんは答えてくれました。
土づくり重視のこだわり減農薬、少肥料栽培
Hさんのミカン作りは、とても変わっています。何が変わっているかというと、それは肥料がとても少ないことです。
それも、驚くほど少ないのです。私が、これまで見てきた農家さんの中でも、最も施肥量が少ない栽培体系です。
Hさんが、年間に施用する窒素量(成分)は、なんと10a当たり5キロ程度しかやっていないというのです!
おからなどを菌力アップで発酵させた自家製のぼかしを中心に、ほとんど春肥のみの施肥設計です。
あとは、生育を見ながら葉面散布で補っていきます。これには、驚きました!ふつうの考え方では実践できないやり方です。
もちろん、肥料代をケチって減らしているわけではありません。意図的に、窒素肥料を減らして、高品質、安定生産を実現しているんですね。
その違いは、葉色を見れば一目瞭然です。同じ品種でも、隣の農家さんのミカンの樹は、黒々としていますが、Hさんの樹は、色が全く違います。これで大丈夫なのか、心配になるほどです。
「そんなに(肥料が)少なくて、ミカンは毎年なるんですか?」
「これでいいんですよ。見てください、今年は一般の畑は、生理落果がひどくて、ミカンがあんまり付いていないでしょう。うちのミカンは、まだまだ摘果しないといけないくらい、良く成ってますよ。着果ホルモンがでてるから、毎年ちょうどよく成るんですよ。」
Hさんは、ホルモンバランスの管理に特に注目しています。切り上げ剪定という剪定法で行う事で、サイトカイニンやオーキシンなどのホルモンの流れが良くなり、樹がもっている本来の樹勢や働きが高まります。
そのため、むしろ肥料を少なくした方が、花数が安定し、品質が良くなるんですね。
植物生理を本当によく理解して栽培していると感心しました。普通なら、肥料に頼るところ、Hさんは剪定の仕方、草の生やし方、肥料のタイミング、それらを総合的に考えて、少ない肥料で収量を安定させ、品質を最大化させる方法をとっているんですね。根とホルモンコントロールで育てているという意識が伝わってきます。
異常気象、温暖化に強い柑橘栽培
Hさんの圃場には、下草がびっしり生えています。草生栽培と言っていい状況で、除草剤は数十年もほとんど散布していないそうです。少ない肥料(窒素)で済む理由も、このへんに理由がありそうです。
園内に生育したこの草が有機物となり、それが微生物を育て、土の中には多くの窒素固定菌が活躍していることが想像できます。窒素固定菌は、通気性が良く、窒素肥料の少ない畑では増えやすく、10aあたり5〜10kgもの窒素を生み出していることもあります。
そしてさらには、この20年近く、ダニ剤をほとんどやっていないというから驚きです。これも、下草や有機物の豊富な畑では、いろいろな微生物や昆虫などが増え、生態系が形成されて、ダニの天敵が増えるからだと思います。
Hさんの畑は、ミカンの畑でありながら、まさに『自然の森』のような生態系や生物多様性を形成しているのかもしれませんね。
「毎年収量は3t以上は取れますし、ミカンが腐れにくいんですよ。糖度もまあまあで、いつも長崎県のトップブランドのミカンに行ってますよ。」と、品質にはHさんも自信満々です。
それもそのはず、毎年味見させていただくHさんのミカンの味は、本当に絶品です。糖度で表すのはバカらしくなるくらい、深い味わいと後を引くうま味があります。
糖度はもちろん、長崎県のトップブランドを軽くクリアーするレベルです。
「そのためには、『菌力アップ』は大事なんですよ。やっぱり、根づくりが大切ですよ。糖力アップやリン酸の『鈴成』や『コーソゴールド』も大事ですね。今年からは、『海王(うみおう)』もやりますよ。マジ鉄も楽しみですね。これからも、お世話になります。」と、にこやかに話してくれました。
最低限の窒素で、地力やホルモンの力を使って安定的な栽培を目指す。低投入、高品質・安定生産。これからの時代に必要な、異常気象、天候不良のリスクに強い農業の考え方ですね。
さらには、できるだけ草や虫と共存する環境保全の考え方。こういった農業の考え方が、これからもっと普及していけば、日本の農業は、まだまだ面白い方向に行くように思います。
これから柑橘栽培を目指す若い農家には、ぜひご参考にしていただきたい園地でした。