農業用語集(栽培管理)

あ行

秋肥
あきごえ

秋(8月以降)に行われる植物への追肥。一般には果樹等の収穫後の樹勢回復(お礼肥)と、冬期に備えるための栄養補給などを目的とする。即効性の窒素をメインとする場合が多い。

うね

水はけ改善や畑の通路確保、根腐れ防止のために、直線状に一定間隔を空けて土を盛り上げた栽培床のこと。平坦地では、南北方向に沿った畝が日当たりの面で有利とされているが、傾斜の強い圃場では、表土の流亡防止や、雨水の均一な浸透を目的に等高線に沿って畝を立てる場合も多い。また、果樹栽培ではあえて、水はけを良くするために勾配のある方向に畝を作る場合もある。
畝を作ることを「畝立て」と呼び、畝の作り方や高さは栽培する作物や地域の環境によって異なる。

裏作
うらさく

主な作物を収穫した田畑に、次の作付までの期間、他の作物を栽培すること。後作(あとさく)とも言う。日本では耕地面積が狭く、その有効利用を図るため裏作が発達した。二毛作における主たる作物栽培を表作、その収穫後の別の作物の栽培を裏作という。また緑肥として栽培されるレンゲソウやソルゴーなども裏作と呼ばれる。連作障害を避けるためにも裏作の作物の選択は重要である。

煙霧機
えんむき

施設栽培において使用される防除機・葉面散布機である。数リットル~10リットル程度の薬液(溶液)を霧状に噴射し、ハウス内に充満させることにより、葉にゆっくりとまんべんなく薬液(溶液)を付着させる仕組み。
登録された農薬を噴霧したり、液体肥料や活性剤を、非常に省力で葉面散布できるため利便性が高い。

晩生
おくて・ばんせい

晩生とは、品種や作型の成熟期が遅いタイプを指す。栽培期間が長く、開花から収穫までの生育期間も長いため、味や品質に優れた品種が多い。また、収穫時期を遅らせることで出荷の調整やリスク分散にも役立つ。

一方で、収量が伸びにくい品種が多いことや、果樹などの永年作物では樹勢の回復が遅れ、翌年の花芽形成や着果が不安定になることがある。そのため、より丁寧な土づくりや施肥管理が求められる。

お礼肥
おれいごえ

花が終わった後や実を収穫した後に植物に施す肥料のこと。生長や開花、実をつける過程で消費した栄養素を補給し、再生や新たな生長を促すために施される。一般的に、お礼肥えには速効性のある化成肥料や液肥が使用される。

か行

活着
かっちゃく

移植した植物や接木、挿し木などが、新しい植え替え場所で根付き、生長を続けることを指す。活着不良は、多くの農業現場で発生しており、土の物理性が悪い場合(土塊がごろごろしているなど)や化学性が悪い場合(pH、窒素過多など)、水不足、高温、低温、根量の不足、病原菌の発生、などの原因が活着を阻害する。
ほとんどの作物で、活着をスムーズにすることが初期生育の最重要ポイントである。初期生育の差が、全体収量の差になることが多いため、定植時に微生物資材や発根促進剤を利用し、活着促進する価値がある。

環境制御
かんきょうせいぎょ

環境制御(環境制御型農業)とは、温室栽培や植物工場、水耕栽培などで生育環境(光、CO2、温湿度、気流)を調整することで、安定した収穫量や品質を維持するための農業技術。主に植物の光合成速度を最適化することを中心に設計されており、科学的な農業の実践を実現するものである。近年では植物の生育を最適化するだけで無く、省力化や農薬の低減などといった観点から、様々な機器や管理法が開発されている。

潅水
かんすい

人工的に作物に水を供給すること。
近年では、配管と潅水チューブを敷設し、株元だけを潅水していく方法が普及している。また水の節約や水はね防止のため、点滴で株元をぬらす点滴潅水(ドリップ潅水)を利用する人も増えている。

潅水チューブ
かんすいちゅーぶ

水やりに用いられる農業用ホースの一種。等間隔に配列された小さな孔から水やりを行うことで、水やりの労力と時間を節約しながら、効率的に潅水、散水できる。液体肥料や土壌改良資材の施用や、防除などを同時に行うこともある。潅水チューブには、畝(うね)間に設置して使用するタイプや、ビニールハウスなどの天井部に設置して使用するタイプなど、様々な種類がある。また、点滴式の潅水チューブなどもある。

潅注
かんちゅう

広義には、植物の根域に水や薬剤・液体肥料等をそそぎかけること。(=潅水)
より狭義には、潅注器を用い、土中の10~30Cm程度の深さに液体を注入すること。
土壌病害が発生した場合に薬液を根域に浸透させる場合や、生育を改善するため微生物資材や液体肥料等を施す場合がある。また干ばつ時に、土が乾き水が浸透しない場合も潅注が有効な手段となる。

希釈
きしゃく

希釈とは、薄めること、すなわち濃度を低くすることである。希釈の方法は、通常倍数で表され、パーセントでの表示よりも一般的である。例えば、「100倍希釈」とは、原液1に対し水99を加えて薄めた状態を指す。これは、全体溶液が原液の100倍の量になった状態、つまり1.0パーセントの濃度を意味する。1000倍希釈は0.1パーセント、2000倍希釈は0.05パーセントに相当する。

次に、より複雑な希釈の例を考える。5倍希釈した液体をさらに200倍に希釈した場合、全体の希釈倍率は5×200=1000倍となる。また、A液を100倍に希釈し、B液も同様に100倍に希釈した後、これらを同量混合した場合、結果的にはそれぞれが全体に対して200倍に希釈された状態となる。(100+100=200倍)

見逃しやすい事例を挙げる。500リットルのタンクにA液とB液をそれぞれ100倍希釈になるよう5リットルずつ入れた場合、A液もB液もそれぞれ100倍希釈である。しかし、重要なのはA液とB液を合わせた液体肥料の希釈倍率が、500÷(5+5)=50倍希釈になる点である。この状態では、溶液の濃度が濃すぎる場合があり、葉に障害を起こす可能性がある。

以上のように、希釈倍率の計算は基本的な知識であり、農業において重要である。

切り上げ剪定
きりあげせんてい

枯れ枝や余分な枝を切除することを剪定というが、主に上に伸びようとする枝を残し、下や横に伸びる枝を切除する剪定法をいう。このことにより、植物ホルモンの生成や流れがスムーズになり生育が安定するという考え方から来ている。
植物ホルモンでは、主にオーキシンが重要視される。オーキシンは、主に枝や葉の先端部分から生成され、重力方向(下方)に移動する。(「オーキシン」を参照)全体的に上向きの枝を残すと言うことは、オーキシンの生成量が確保され、また下方への流れがスムーズになると言うことである。これにより、根系が発達し、肥料や水の吸収力が向上する。樹勢が安定し、果樹においては花芽分化が促進され、着果量が確保される。十分に着果した枝は、肥大期以降には下垂することで、成熟ホルモンが安定して作用することになる。
少ない肥料で、安定した着果量と高い品質を実現する方法として、果樹栽培で導入される例が増えている。また肥料が少なくなることにより、環境に優しく、気象変動にも強い生育が実現できるという副次的なメリットもある。

クロルピクリン
くろーるぴくりん

クロルピクリンは農業分野で広く使用される土壌燻蒸剤である。クロールピクリン、クロピク、ドジョウピクリン、ドロクロールなどの商品名で販売されている。クロルピクリンは、毒ガス兵器として使用された歴史もあるほど危険性の高い物質であるが、潅水チューブで処理が可能なフロー剤や、固形で処理しやすい錠剤のように、より安全性に配慮したものも開発されている。本剤は、毒物及び劇物取締法に基づき劇物に指定されており、使用には厳しい規制が適用される。

この化学物質は病原菌の駆除、土壌害虫や線虫の駆除、雑草の種子の除去に効果的である。特に、苗立枯病、萎黄病や萎凋病、つる割れ病のような糸状菌による病原菌や、ネコブセンチュウ・ネグサレセンチュウのような寄生性線虫の駆除、防除を目的として使用される場合が多い。しかしデメリットとして、土壌内のほとんどの生物、微生物にも影響を及ぼすため、再汚染の場合に病害等が激発する場合がある。そのため、土壌消毒後には土壌生態系の速やかな回復も同時に考慮し、対策されなければならない。(「土壌消毒」を参照。)
また、クロルピクリンの使用により、窒素の施肥効果が向上する現象があるため、元肥の施肥設計の変更も重要である。具体的には、元肥の窒素施肥量を2割程度減らすことが推奨されている。(「硝化菌」「乾土効果」を参照。)
※(参照)クロルピクリン工業会「クロルピクリン等による土壌消毒はなぜ必要なのでしょうか?」https://www.chloropicrin.jp/pdf/dojou_202201.pdf
※(参照)クロルピクリン工業会「クロルピクリン剤の適正な取扱い」https://www.chloropicrin.jp/pdf/h22_anzen.pdf

耕盤層
こうばんそう

耕盤層は、トラクターや耕うん機などで何度も田畑を耕うんすることにより、機械の重みなどが原因となり、作土のある特定の深さの下にできる硬い土壌層のことを指す。耕盤層は、通常は最も肥沃で、根の生長や水分の保持に重要な役割を果たす。しかし、耕うんのしすぎで耕盤層があまりにも硬くなってしまうと、土壌の水はけが悪くなったり、根張りが悪くなるため、収穫量の減少や冠水のリスクの増加に繋がる。

さ行

作付け
さくつけ

農地に農作物を植え付けること。

残渣
ざんさ

残渣は、作物の栽培を終えたときに圃場に残る実以外の茎や葉、つる、根などの残骸物を指す。残渣は、病害虫や病原菌に侵されやすい傾向にあり、そのままにしておくと次の栽培に悪影響を及ぼす可能性が高くなるため適切な処理が求められる。残渣処理の方法には主に2つあり、残渣は圃場から持ち出し処分や堆肥化する場合と、できるだけ細かく裁断し、他の有機物や窒素肥料などと土壌に混和(すき込み)する場合がある。その場合、十分に分解させることが、病原菌の持ち越しを防ぐため、微生物資材などを利用して分解促進するケースも多い。

代掻き
しろかき

代掻きは、田起こしが完了した田んぼに水を張り、土を細かく砕いてかき混ぜ、土の表面を平らに整える、田植えの前に行われる重要な作業を指す。
昔は、牛や馬に馬鍬(まぐわ・まんが)と呼ばれる農具を引かせたり、人力で代掻きを行っていたが、現代ではトラクターにロータリーなどを装着して代掻きを行うことが一般的。

施肥
せひ

施肥とは、作物や植物の生長や生育を促すため、土壌や栽培環境に肥料で養分を供給することを指す。

ソルゴー
そるごー

ソルゴーは、イネ科の穀物。農業分野では、ソルガムとも呼ばれる。植物学的にはモロコシ、雑穀としてはタカキビ、茎から甘味料を得る時はソルゴーと呼ばれる。アフリカ原産で、暑く乾燥した地域でもよく育つのが特徴。
アブラムシが多く発生するので、それを食べる天敵も多く発生するため、バンカープランツとして利用されることがある。また、風や風害からの保護や土壌の保全を目的とした防風対策や、土壌の改良や栄養補給のための緑肥としても広く栽培されている。

た行

台木
だいぎ

台木とは、接木をするときに土台となる植物のことを指す。

太陽熱消毒
たいようねつしょうどく

太陽熱消毒とは、太陽の熱エネルギーと微生物の発酵熱を利用して土壌を加熱し、病害菌やセンチュウ、雑草種子を死滅または不活化させる物理的な土壌消毒法である。農研機構では、単なる病害防除にとどまらず、土壌の健全化や作業の簡素化を目的とした「陽熱プラス」という考え方を推奨している。「太陽熱養生処理」と呼ぶことがある。
化学農薬を使用せずに土壌の病害リスクを低減できるため、環境負荷が少なく、有機農業や持続可能な農業の手法として注目されている。

方法としては、まず土壌を耕し、適度に水分を含ませた後、透明なポリエチレンフィルムで覆う。水分は熱伝導を高め、病原体の死滅を促す役割を果たす。夏季の高温時にこの状態を数週間維持すると、地温が50~60℃程度まで上昇し、病害菌やセンチュウが死滅する。また、雑草の種子や未熟な有機物の分解が進むことで、雑草抑制効果や土壌改良効果も得られる。詳しくは、サンビオティック太陽熱消毒マニュアルを参照されたい。

この技術は病害抑制効果が高い一方で、土壌微生物全体にも影響を与えるため、消毒後の土壌回復が重要となる。特に硝化菌などの有用微生物も減少しやすいため、堆肥や微生物資材を施用し、土壌微生物群の回復を促すことが推奨される。

近年では、太陽熱消毒と有機物分解を組み合わせた還元消毒も注目されている。土壌に有機物を投入し、密閉することで嫌気的な条件を作り出し、病原菌の生存を困難にする方法である。太陽熱養生処理と還元消毒を組み合わせることで、病害抑制と土壌の健全化を同時に実現することが可能となる。

弾丸暗渠
だんがんあんきょ

田畑の土中に下水管の様な穴を作ることで土中の水を排出し、土を乾きやすくするための技術。弾丸暗渠の手順は、文字通り、「弾丸」の形をした金属をトラクターに付けて引っ張り、田畑の土中に「排水管(暗渠)」の役目を果たす孔を作る。

長期取り
ちょうきどり

長期取りとは、野菜を長期間収穫し続ける栽培方法で、トマト、キュウリ、ナス、ピーマン、イチゴなどで一般的に行われる。収量と品質を維持するには、適切な栄養管理、病害虫防除、土壌管理が不可欠である。

長期栽培では、根の衰退による成り疲れや芯止まり、連作障害、土壌病害が発生しやすい。根の健康を維持し、土壌の硬化を防ぐために、有機物や微生物資材の施用、適切な水管理が重要である。また、カルシウムやホウ素などの微量要素を補給し、根や果実の生育を支えることも必要となる。また近年では、海藻エキスやアミノ酸資材など、肥料だけで無く、植物の生理活性を高めることにより収量を安定化させる技術も普及している。

追肥
ついひ・おいごえ

栽培途中に追加施用する肥料である。固形肥料だけで無く、液体肥料によるものも含む。作物の吸収曲線に合わせ、必要時期に必要量を分施する。窒素は硝酸態・アンモニア態の比や供給速度を設計し、リン酸、加里・カルシウム・マグネシウムとのバランスを取る。
過剰施用は徒長・病害感受性・品質低下を招くため過不足無く適時に施用することが重要である。特に長期間栽培する果菜類では、計画収穫量に応じて施肥を配分設計することで、安定した生育を実現しやすい。

定植
ていしょく

育苗した苗を本圃に植え付ける作業である。
活着不良や立枯病などの病害に罹病しやすい時期でもあり、またその後の生育を大きく左右する作業であるため、十分な土作り、施肥設計、そして潅水が重要である。

低窒素栽培
ていちっそさいばい

窒素施用量を意図的に抑え、栄養成長の過剰を抑制して生殖成長を優位にする栽培法である。光合成産物のシンク強度を果実・塊根へ高め、糖度・硬度・香気の向上や硝酸蓄積低減が期待できる。
また、窒素施肥量を低下させることで、リン酸や加里、カルシウムの要求量も低下するため、全体に肥料コストを下げながら、品質や着花・着果を向上させることが可能となる。水切り栽培は、同時に窒素の吸収を抑制するため、結果的に鄭窒素栽培になる場合も多い。
過度の窒素制限は落花・落果や早期老化を招くため、品種、栽培管理法、生育ステージとの関係を熟慮し、施肥設計を行う必要がある。

手潅水
てかんすい

ジョウロやホースで人が直接与える潅水である。水量・位置・タイミングを細やかに制御でき、発芽期や定植直後、鉢物の局所乾燥への対処に適する。
苗の一つ一つを見ながら潅水量を調節したり、活着促進剤、発根促進剤や液肥等をしっかりと効かせることができるため、初期生育の促進に大きなメリットがある。

土壌消毒
どじょうしょうどく

土壌伝染性病害虫や雑草種子の密度を低下させる処理である。物理法(太陽熱消毒・蒸気)、化学法(クロルピクリン・D-D剤等)、生物法(土壌還元消毒:ASD)などがある。目的、環境負荷、作業安全、コストを総合して選択する。いずれの方法であっても土壌消毒によって、すべての病害虫が駆除されるわけではない。あくまでも軽減する方法であり、土壌消毒後の作業、処置の重要性も高い。
そのため土壌消毒後は善玉菌の回復を促すため、微生物叢の回復作業が重要である。

な行

中生
なかて・ちゅうせい

成熟期の分類で、早生と晩生の中間に位置する品種群である。

夏肥
なつごえ・なつひ

夏季に施す肥料で、果樹や多年生作物では樹勢維持と花芽分化の基盤を整える位置づけである。

ネマトリンエース
ねまとりんえーす

ネマトリンエース粒剤は、ホスチアゼート(ホスホロアミジオチオエート系)を有効成分とする殺線虫剤で、ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウなど広範な線虫類に効果を示す。主に定植前の土壌混和または畝間散布によって使用され、線虫の神経伝達を阻害して死滅させる。

速効性と残効性を併せ持ち、初期被害の抑制と密度低減の両方に寄与する。粒剤であるため取り扱いやすく、土壌中で安定しやすいのも特徴である。線虫防除のほか、根張り改善や作物初期生育の促進にもつながるため、収量安定に寄与するケースが多い。

類似剤には、フルフェノズスルフロンを有効成分とするネマキック粒剤や、ダゾメットを有効成分とするバスアミド微粒剤などがあるが、ネマトリンエースは神経毒性による速効的な殺線虫活性が特長で、特に定植前の防除として利用される。

なお、過度な連用は耐性リスクや土壌微生物叢への影響も懸念されるため、有機質資材や微生物資材との併用など、統合的な線虫管理(IPM)が推奨される。

農薬
のうやく

農薬とは、農作物の生育を妨げる病害虫や雑草を防除するために使用される薬剤であり、農薬取締法に基づき使用・販売には登録が必要である。農薬には殺虫剤、殺菌剤、除草剤などがあり、それぞれに有効成分や作用の仕組み、使用基準が設定されている。登録には、効果の有無だけでなく、人畜や環境への安全性も審査される。

特定農薬とは、農薬取締法において農薬に該当しながらも、人の健康や生活環境への影響が極めて少ないと判断され、例外的に登録を免除された資材を指す。現在(令和7年8月時点)、特定農薬として認められているのは、重炭酸ナトリウム(重曹)、食酢、エチレン、次亜塩素酸水がある。

近年では、農薬に依存しない病害虫対策として、植物や土壌に働きかけて耐病性や環境ストレスへの耐性を高めるバイオスティミュラント資材や、土壌および周辺環境を整えることで病害虫の発生を抑制するIPM(総合的病害虫管理)の考え方も重要視されている。

は行

播種
はしゅ

種子を圃場や育苗床にまく作業である。条播、点播、ばら播きなどの方法があり、作物の種類や栽培目的に応じて選択する。均一な発芽のためには、適正な播種深度、覆土、土壌水分と温度の管理が重要である。

春肥
はるごえ・しゅんぴ

春肥は、早春から夏にかけて、作物に施す肥料を指す。

微生物資材
びせいぶつしざい

微生物資材とは、農業において有用な微生物または微生物群を活用することで、作物の健全な生育を支援し、土壌や環境の改善を図るための資材である。主な用途としては、養分供給、病害の抑制、植物のストレス耐性の向上に加え、土壌物理性の改善や土壌生態系の構築などが挙げられる。これらの資材に含まれる微生物には、自然界に広く分布する土着菌や有用菌が多く、バチルス属、トリコデルマ属、リゾビウム属、放線菌、酵母、光合成細菌、乳酸菌、菌根菌などが代表例である。

微生物の代謝活動によって生成される多糖類、有機酸、菌糸などは、土壌粒子間の結合を促し、団粒構造の形成を助ける。これにより、通気性・保水性・排水性のバランスが改善され、根が張りやすい物理的環境が整えられる。

さらに、微生物資材の施用によって土壌中の微生物多様性が高まり、土壌生態系のバランスが再構築される。微生物を捕食する有益な原生動物や自活性線虫が増加し、それに伴って多様な昆虫や小動物も土壌中で活動するようになる。これらの土壌動物群は、分解、混和、団粒化といった土壌生成プロセスに関与し、植物の生育に適した環境を形成する。

また、有用菌と病原菌との間に競合環境が生まれることで、病害の発生リスクが軽減される。加えて、菌根菌・窒素固定菌・硝化菌などの共生的微生物との相互作用により、植物の養分吸収能力が向上する。

良好な微生物資材とは、これらの機能をすべて備えており、かつ効果的で、使いやすく、経済的であることが求められる。微生物資材は、単なる肥料の代替手段ではなく、土壌という生態系を健全に再構築し、持続可能な農業の基盤を支える重要な資材である。有機栽培はもとより、化学肥料や農薬を活用する現代農業において偏りがちな土壌を蘇らせるうえでも、重要な役割を担っている。

品種
ひんしゅ

品種とは、植物や動物の中で特定の形質(形態、生理、生化学的特徴など)を安定して次世代に伝えることができる集団を指す。農業分野では、食味や収量、耐病性などを目的として選抜・交配を繰り返すことで作出され、農産物の品質や収穫安定に直結する重要な概念である。日本では種苗法により、登録された品種は育成者権として保護され、無断での増殖や海外持ち出しが禁止されている。近年の改正で、登録品種の海外流出防止や権利侵害対策が強化され、例えばシャインマスカット、ゆめぴりか、べにはるかなどが対象となっている。登録は農林水産省への出願から審査・公告を経て行われ、登録期間は原則25年(樹木は30年)である。

分類学上では、植物は階層的に界–門–綱–目–科(family)–属(genus)–種(species)–亜種・変種・品種(variety, cultivar)などに区分され、国際的には学名をラテン語で表記し、属名は頭文字を大文字、種小名は小文字で記す。品種名(cultivar name)は単引用符で囲み、英語では"cv."や"Cultivar"を用いる。例えばイネ(Oryza sativa L. ‘Koshihikari’)のように記載する。

交配種のうち、異系統をかけ合わせて作った一代雑種はF1(First Filial Generation)と呼ばれ、雑種強勢により収量や耐病性が高いが、次世代では形質が分離するため、自家採種には適さない。

従来は形態形質による分類が主流だったが、近年はDNA解析による分子系統学が進み、従来の分類が再編される例も多い。これにより品種識別の精度が向上し、権利保護や侵害証拠の科学的裏付けにも活用されている。品種・種苗の保護は、農業生産者の知的財産を守り、国内外での競争力を維持するために不可欠な取り組みとなっている。

BLOF理論
ぶろふりろん

BLOF理論(Bio Logical Farming理論)は、小祝政明氏が提唱した、有機農業を植物生理学や土壌学に基づいて体系化した栽培理論である。有機肥料や微生物資材の潜在能力を最大限に引き出し、作物の生理機能と土壌環境を最適化することで、収量の向上と品質の向上を同時に実現することを目的とする。健全な生育環境を確立することで病害虫の発生は最小限に抑えられ、有機栽培であっても慣行栽培を上回る成果が得られることを特徴とする。
基本的な考え方は、作物の生育に必要な栄養素を適正なバランスで供給し、土壌中の微生物群集を活性化させることで、作物本来の生産力や耐病性を高める点にある。この理論では、単に有機物を施用するだけでなく、微生物を活用して養分を作物が吸収しやすい形に変換させることや、アミノ酸やミネラルバランスの精密管理を重視する。施肥設計においては、体積法による土壌分析に基づき、主要三要素(窒素・リン酸・カリウム)に加え、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、亜鉛、鉄、マンガン、銅、モリブデンなどの微量要素を適正比率で供給する。これにより、葉緑素合成、酵素活性、光合成効率、根の伸長などの生理機能が全般的に向上する。また、アミノ酸や水溶性炭水化物などの低分子有機化合物の機能を重視しており、それらを施用することで、養分吸収や代謝が促進されることも特徴である。さらに、炭素率(C/N比)の管理や、土壌微生物の種類と機能に応じた資材の組み合わせを考慮することが推奨される。高品質な作物を得るためには、団粒構造の形成や根圏環境の安定化が不可欠であり、そのために太陽熱養生処理を導入することも技術的特長の一つである。

防除
ぼうじょ

防除(ぼうじょ)とは、農作物や樹木、貯蔵物などに被害を与える病害(病気)、虫害(害虫)、雑草などの有害生物を防ぎ、または発生・被害を抑えるための一連の行為を指す。防除の目的は、被害を最小限に抑え、作物の収量や品質を維持・向上させることにある。
防除の手段は大きく分けて、物理的防除(遮光ネット、防虫網、温湯処理、機械的除去など)、化学的防除(農薬散布、殺菌剤・殺虫剤の使用)、生物的防除(天敵昆虫や有用微生物の利用)、および耕種的防除(輪作、適切な播種期の設定、品種の選定など)がある。実際の農業現場では、これらを組み合わせた**総合的病害虫・雑草管理(IPM:Integrated Pest Management)が推奨されている。
防除の考え方には「予防」と「駆除」があり、予防は発生前に被害を未然に防ぐ行為、駆除はすでに発生した有害生物を除去・抑制する行為である。予防的防除は、被害が大きく広がる前に対策を打てるため、環境負荷やコスト低減の面でも有効とされる。
また、防除を実施する際には、農薬の適正使用が求められる。具体的には、農薬取締法や関連ガイドラインに基づき、使用対象作物、希釈倍率、使用回数、収穫前の安全日数(PHI)などを遵守しなければならない。近年は、化学農薬の使用削減や環境への影響軽減の観点から、微生物資材、フェロモントラップ、抵抗性品種の導入などの非化学的防除が注目されている。

持続可能な農業を実現するためには、防除を単なる害虫駆除の技術としてではなく、作物・環境・経済性のバランスを考えたリスク管理手段として位置づけることが重要である。

甫場
ほじょう

甫場(ほじょう)(一般に圃場と書く。)とは、農作物を栽培するために区画された農地を指す。水田や畑などの形態があり、土壌条件や水利、地形などに応じて整備される。農作業や生産管理は、多くの場合この単位で計画・実施されるため、農業経営における基本的な管理単位となる。

ま行

マルチ
まるち

マルチとは、作物栽培において地表をビニールフィルム、不織布、紙、藁などで覆う資材およびその方法を指す。主な目的は、地温の上昇や安定化、土壌水分の保持、雑草の抑制、雨滴による土壌のはね返り防止による病害軽減、肥料成分の流亡防止などである。資材の種類により特性が異なり、黒色マルチは雑草抑制と地温上昇、透明マルチは地温上昇と太陽熱消毒、銀色マルチはアブラムシ類など飛来害虫の忌避に有効である。紙マルチは使用後に廃棄処理が容易で、除去作業の手間を減らすとともに環境負荷が低く、生分解マルチは微生物分解により自然に土へ還るため、持続可能な農業に適している。
有機物マルチには非常に重要なメリットがあり、土壌の保湿、温度調節、養分供給、土壌微生物の活性化、団粒構造の改善などが期待できる。古来より行われてきた敷きわらも有機物マルチの一種である。ハウス栽培では通路に細断ワラやモミガラを敷く通路マルチも有効で、作業性向上や泥はね防止に加えて有機物供給源としての役割も果たす。適切な資材選定と管理により、作物の生育促進や品質向上に寄与する一方、労力も掛かり、また逆に白絹病などの病原菌の温床となる場合もあり、適切な微生物コントロールが必要な場面もある。

マルドリ栽培
まるどりさいばい

マルドリ栽培は、主にミカンやその他の柑橘類で用いられる高品質生産技術であり、地表被覆(マルチング)と点滴かん水(ドリップ灌水)を組み合わせた方法である。マルチングでは樹冠下や果樹列の地表をフィルムで覆い、過剰な雨水の流入や土壌の過度な乾燥を抑制し、土壌水分や地温を安定させるとともに雑草を抑え、肥料分の流亡も防ぐ。ドリップ灌水では、地表面に設置したチューブから必要な量の水や液肥を点滴状で供給し、根域の水分と養分を精密に管理することができる。この組み合わせにより、収穫期前に軽度の水分ストレスを与えて糖度を高めたり、裂果や浮皮の発生を抑え、果実のサイズや糖酸バランスを安定させることが可能になる。また、かん水施肥によって施肥と灌水を同時に行えるため、肥料の利用効率が高まり、作業の省力化にもつながる。さらに、マルチによる泥はね防止や雑草抑制により、病害の発生リスクを低減できる。運用にあたっては、樹齢や土壌条件に応じたドリップラインの配置や吐水量の調整、フィルムの材質や色の選択、樹体の生育ステージや天候に合わせた水分管理など、きめ細かな対応が求められる。

元肥
もとごえ

元肥(読み方:もとごえ、もとひ)とは、作物を植え付ける前にあらかじめ土壌に施す肥料のことで、栽培初期から生育全般にわたって必要な栄養を土中に確保する役割を持つ。主に窒素、リン酸、カリウムの三要素に加え、カルシウムやマグネシウム、微量要素をバランスよく含む肥料が用いられ、耕起や植え付け前の土づくり段階で土に混和される。施用量や成分比は作物の種類、栽培期間、土壌の養分状態によって異なり、特に長期栽培の果菜類や多年性作物では全期間の養分供給源として重要である。
肥効は地温や降水量により大きく左右されるため、元肥の施用時期と量を調整することが求められる。一般的に春から夏は少なめでも効果が出やすく、秋から冬はやや多めの施用が必要とされる。ただし近年の温暖化傾向により、秋植え作物では元肥を省略または減量し、追肥で調整する栽培法も増えている。
施肥設計は土壌分析に基づくことが重要で、過剰な施肥は植物の生育障害や養分流亡の原因となるうえ、施用後に取り除くことはできないため、慎重な判断が求められる。元肥には有機質肥料、化成肥料、緩効性肥料など多様な種類があり、それぞれ溶出速度や肥効持続期間が異なるため、作物特性や土壌条件に適した肥料を選択することが望ましい。

や行

薬剤土壌消毒
やくざいどじょうしょうどく

薬剤土壌消毒(やくざいどじょうしょうどく)は、土壌中の病原菌や線虫、雑草種子などを化学薬剤で殺滅・抑制し、作物の健全な生育環境を整える方法である。かつては臭化メチルが広く利用されていたが、オゾン層破壊物質に該当することから、モントリオール議定書に基づき日本を含む多くの国で原則使用禁止となった。
現在は、クロルピクリン、1,3-ジクロロプロペン、ダゾメットなどの薬剤が主に用いられ、ガスくん蒸や土壌混和などの方法で処理される。これらは短期間で広範囲の病害虫抑制が可能だが、残留ガスによる薬害防止のため、施用後には十分な換気・分解期間が必要である。また、薬剤による土壌微生物叢のバランス変化や環境負荷への配慮も欠かせない。
近年では、薬剤だけに依存せず、太陽熱消毒や有機物施用、拮抗微生物の導入などを組み合わせた総合的防除(IPM)が広まりつつある。これにより、病害虫発生の抑制と同時に、健全な土壌生態系の維持・回復が図られている。

有機
ゆうき

「有機」とは、化学的には炭素を含む化合物を指し(ただし炭酸塩や一酸化炭素など一部の例外を除く)、有機物・有機化合物は主に炭素骨格を持つ分子から構成される。
農業分野では、この化学的定義を踏まえつつも、日常的にはより広義に使われることが多い。有機物は「生物由来のもの」や「自然界に存在するもの」という意味合いで用いられ、有機農業は「化学合成資材を使用しない農業」という意味で使われることが多い。また、本来の趣旨に近い形で「生物多様性や地球環境を守る農業」や「有限資源に頼らない持続的な農業」という意味合いで用いられる場合もある。
このように、「有機」という言葉は文脈や人によって意味が異なるため、その使用には注意が必要である。

陽熱プラス
ようねつぷらす

陽熱プラスとは、農研機構が提案する太陽熱土壌消毒の拡張体系であり、消毒前に肥料や資材を先入れして十分に灌水し、透明フィルムで被覆して地温を高め、処理後は土をかき混ぜず、そのまま作付けができる。消毒済みの土層を混和することが無いため、再汚染を避けられるメリットがある。従来法の見直しを基盤に、病害抑止のみならず土づくりまで位置づけた栽培管理である。
現場では温度記録計や気象情報を用いて「積算地温」を指標化し、対象病原菌の死滅に必要な温度×時間を満たしたかを判定することで、消毒効果の“見える化”を行う。消毒中の高地温は窒素の無機化やリン酸の可給化を促すため、土壌の肥沃度と地温実績に応じて基肥を適正化でき、目安として基肥窒素を約2割削減可能とされる(条件により変動)。また、処理の影響を土壌DNA解析で評価し、生物相の回復を確認する枠組みも含む。これらを組み合わせることで、臭化メチルに代わる物理的防除でありつつ、省肥・省エネ・環境負荷低減を同時に狙う体系である。

葉面散布
ようめんさんぷ

葉面散布とは、肥料や微量要素、植物ホルモン、病害虫防除剤などの水溶液を、植物の葉や茎に直接噴霧して施用する方法である。葉の表面および裏面には気孔やクチクラ層が存在し、施用された成分はこれらを通じて吸収される。かつては葉裏の気孔から主に吸収されると考えられていたが、現在ではクチクラ層や微細な孔からの浸透による吸収量が多いとされる。そのため、乾燥後も浸透は続くが、乾燥までの間に吸収される量が多いため、夕方から夜間、あるいは湿度の高い時間帯の散布が理想的である。特に鉄、亜鉛、マンガン、ホウ素などの微量要素は、根からの吸収が困難な場合でも葉面散布によって迅速に補給できる。
葉面散布の利点は、必要成分を少量で効率的に供給できること、また低温・過湿・高pH・乾燥などの根圏条件に左右されず施用効果を発揮できる点にある。成分は速やかに葉内へ移行するため、急を要する栄養補給や生理障害の予防・改善にも有効である。カルシウムや微量要素の葉面散布は特に効果的であり、若い組織ではワックス層が薄いため、生長点付近で吸収率が高いとされる。
一方で、葉面から吸収される養分量は根からの吸収量に比べて少なく、長期的かつ継続的な栄養供給には適さない。さらに、温度が高い場合や濃度が過剰な場合には葉焼けを起こす危険があり、気温・湿度・散布時間帯によって吸収効率は大きく変化する。そのため、作物の種類、生育段階、気象条件に応じた濃度設定と散布間隔の調整が不可欠である。

ら行

連作障害
れんさくしょうがい

連作障害とは、同じ作物または同じ科に属する作物を同一圃場で繰り返し栽培することにより、生育不良や収量・品質の低下が生じる現象をいう。原因は複合的であり、特定の作物に寄生する病害虫が土壌中や作物残渣に蓄積して被害が拡大する場合、同一作物の栽培によって土壌中の微生物相が偏り有害微生物が優占化する場合、作物が特定の養分を集中的に吸収することでその養分が欠乏しやすくなる場合、根から分泌される有機酸やフェノール類、アレロパシー物質などの有機化合物が発芽や根の伸長を阻害する場合などがある。これらは単独ではなく複合的に作用することも多い。
対策としては、作付け作物を周期的に変える輪作、抵抗性品種の利用、土壌消毒や太陽熱処理、堆肥や緑肥による有機物の補給と土壌微生物相の改善などが有効とされ、複数の方法を組み合わせることで被害の軽減が図られる。また栽培期間中の対策としては、菌力アップの活用によりほとんどの原因に対応が可能である。

露地栽培
ろじさいばい

露地栽培とは、施設や温室を用いずに屋外の圃場で作物を栽培する方法である。自然環境の影響を直接受けるため、季節や気象条件に応じた作型設計と栽培管理が不可欠である。露地栽培は設備投資が比較的少なく、作物本来の旬や風味を活かした生産が可能である反面、降雨や高温、低温、風害などによるリスクも大きい。適切な露地栽培のためには、排水性や保水性に優れた圃場の選定、防風・防霜対策、適期播種・定植が重要である。また、病害虫防除においては、発生時期の予測と物理的・生物的防除の組み合わせが有効である。地域の気候特性を踏まえた品種選定と栽培暦の調整が収量・品質の安定に直結する。

わ行

早生
わせ・そうせい

早生(わせ)とは、同種または同品種群の中で生育期間が短く、比較的早い時期に収穫できる性質や品種を指す。早生品種は市場への早期出荷による高価格販売や作期分散によるリスク低減に有効である。例えば、果樹や野菜では、早生系統を導入することで端境期に供給でき、収益性向上につながる。一方で、早生品種は一般に果実の品質や保存性で晩生品種に劣る場合があり、また高温や日照不足など環境条件の影響を受けやすい傾向がある。そのため、栽培計画においては早生・中生・晩生を組み合わせ、安定した供給体制を確保することが望ましい。育種や選抜では、早生化と品質・耐病性の両立が重要な課題となっている。