あ行
秋(8月以降)に行われる植物への追肥。一般には果樹等の収穫後の樹勢回復(お礼肥)と、冬期に備えるための栄養補給などを目的とする。即効性の窒素をメインとする場合が多い。
アゾトバクター(Azotobacter)は、土壌や水中に広く分布する窒素固定菌の一種である。自然界における窒素循環の役割を果たしている。菌力アップにも含まれている。
窒素固定とは、空気中の窒素をアンモニア等の植物や動物が利用できる窒素に変化させることで、いわば空気から肥料を作る仕組みである。これからの環境再生型農業や持続可能な農業においては、非常に重要な働きであり、アゾトバクターの働きをいかに高めるかは重要な農業技術の一つとなる。
アゾトバクターが活躍できる土壌づくりとして、土壌pHを中性に保ち、粗大有機物や堆肥等の有機物を施用することや、窒素施肥を減らすこと、水はけ・排水性の良い環境を確保することなどが重要である。
窒素成分としてのアミノ酸のこと。窒素成分の形態が有機態となっており、タンパク質がアミノ酸に分解された状態であるもの。
植物の三大栄養素である窒素、リン、カリウムのうち、窒素成分は植物の生育に最も大きく影響する栄養素であるが、窒素成分は大きく無機窒素と有機窒素に分類される。さらに有機窒素は、タンパク質とアミノ酸に分類されるが、タンパク質は複数のアミノ酸が結合したものであるので、ほぼ同義(広義)としてアミノ酸と表現されることもある。狭義には、酵素等でタンパク質を分解したものや、微生物等を使いアミノ酸を生成・濃縮したものをアミノ酸態窒素(アミノ酸資材)ということが多い。
土壌に有機肥料を施用すると、そのうちのタンパク質が微生物の影響を受け分解され、アミノ酸に変わり、それがさらに分解されアンモニアに変化するが、アミノ酸はその変化の過程の一つである。
植物生理学においては、植物が吸収する窒素源は、無機窒素であると考えられているが、近年ではアミノ酸態窒素も根から直接吸収されることがわかっている。栄養としての吸収率が高いのは圧倒的に無機窒素であるが、アミノ酸態窒素を吸収することが、生育に対しては大きな良い影響を及ぼしていることが明らかとなりつつあり、アミノ酸態窒素の施用技術に注目が集まっている。
EM(Effective Microorganisms)とは、乳酸菌や酵母、光合成細菌など、自然界に存在する有用な微生物の総称。特にEM菌として販売されている物は、それらを培養したもので、特定の種の細菌を指すわけではない。農業や畜産、環境浄化などに活用されているが、EM菌は、嫌気性微生物をメインとした微生物であるため、有機物の分解能力は低く、また一般的な畑などの自然環境では増殖能力も低い。また、EM菌がうまく増殖した場合は、乳酸菌がpHを低下させるため、他の細菌の活動を抑制する働きがあると考えられているため、土壌への施用については不向きであると思われ、主に葉面散布のような使い方に活用の場面があると考えられる。
葉面散布においては、糖類を乳酸菌や酵母等で発酵させたEM発酵液が市販されており、糖類が植物への炭水化物の栄養源となると同時に、それらの細菌が生産するビタミン類やアミノ酸、植物生長ホルモン様物質が植物の生育を促進する可能性がある。
EMぼかしというEM菌で米ぬかや籾殻等を発酵させる資材がある。米ぬかにも天然の乳酸菌や酵母等が含まれており、発酵菌としてEM菌を混ぜなくても同様の物が出来るが、製造方法に注意が必要である。EM菌(乳酸菌や酵母など)は、基本的には嫌気的環境を好むため、EMぼかしを製造する場合は密閉された容器で、できるだけ空気を含まない作り方でなければならない。乳酸菌が増殖すると、分解力の高い好気性菌の活動を抑制するため、発酵熱はほとんど上がらない。発酵熱が40℃以上に上がるようであれば、「EMぼかしとしては」失敗である。EMぼかしは、いわゆる「未熟有機物」であるが、乳酸菌が増殖したEMぼかしであれば、十分にpHが下がっているため、土壌施用後に急激に分解が進まず、そのため未熟有機物施用の弊害であるフザリウム菌等の増殖や、発酵熱、ガス害などが軽減されると考えられている。
EM団子というEMぼかしを主原料にした団子を、ヘドロの分解や水質浄化のために川や浜辺に投入する活動が一時期広がったが、有機物分解能力の低い嫌気性微生物をいくら投入してもヘドロは分解できず、EM団子という「未熟有機物」を大量に川や海に投入するのは逆に環境汚染であるとの批判が多く上がり、近年ではあまり見かけなくなっている。
水田などの泥土質の場所に多く生息する土壌生物で、頭部を泥の中に突っ込んだ状態で生活する。泥に埋まっている頭部から有機物を摂取し、尾の側から糞を排出する。イトミミズが排出する糞は栄養豊富な層(「とろとろ層」といわれる)を形成するため、土壌の栄養循環を促進し、微生物叢(びせいぶつそう)を改善し、また雑草の発生を抑制するなど非常に良い働きがあるとされる。イトミミズの多さは、水田土壌の生物相(微生物叢や生態系)の善し悪しのバロメーターである。
稲わらや野菜や雑草の残渣を多くすき込み、ガス(メタンや硫化水素)が発生する田んぼにはイトミミズが増えにくく、稲の生育も悪くなりやすい。秋処理などの作業で未熟有機物を減らし、好気性微生物やイトミミズを増やすことが、稲の健康で強い生育を実現する第一歩である。
固形物を溶解させた後に、沈殿物の上に浮いている透明な液体のこと。特に、ぼかし肥料(発酵した有機肥料)などの上澄み液は、アミノ酸類や多糖類、ビタミンやホルモン類などの貴重な水溶成分を含むため、葉面散布や潅水散布などの方法で利用されることがある。
液体肥料のこと。液肥は、文字通り水に溶けた液状の肥料を指し、花や野菜などあらゆる植物に使用できる。土壌潅注や潅水だけでなく、葉面散布による施用も可能なものがある。使用する際には、用途に合わせて希釈して施用する。液体肥料は即効性があるが、水と一緒に流れやすいため、効果が持続しにくい傾向があり、継続的な使用を前提としていることが多い。
また液肥には化成肥料をベースにした液肥が多いが、有機肥料や有機原料を配合したものの人気が高まっている。
土壌中に含まれる主要な塩基であるカルシウム(石灰)・マグネシウム(苦土)・カリウム(加里)のバランスを指す。塩基とは、水に溶けるとアルカリを示すもの、または酸を中和するもので、土壌のpHの適正化に重要な役割を持っている。
また、これらの成分は、植物の健全な生育と、花芽分化や養分の転流機能などに深く関わっているため、栄養素として非常に重要であるが、互いに吸収を阻害(拮抗)する傾向がある。そのため、これらの吸収率に合わせて、適切なバランスを維持することが、バランスの良い生育に繋がるとされる。
植物への吸収率(吸収の容易さ)は、カリウム>マグネシウム>カルシウムの順で高く、特にカリウムは「ぜいたく吸収」という言葉があるほど、土壌中にあると多量に(過剰に)吸収する。一方で、カルシウムの吸収は遅く、大きなエネルギーを使いながら吸収される。これらは、一つの同じ水路を通って流れるようなもので、例えば、カリウムが過剰に吸収されると、マグネシウムやカルシウムの吸収が少なくなる、拮抗関係にある。
そのため、これらの成分を植物がバランス吸収するためには、土壌中のバランスとして、カルシウム(石灰)>マグネシウム(苦土)>カリウム(加里)の順に含有していることが望ましい。一般的にその含有比率は、カルシウム:マグネシウム:カリウム=5:2:1が理想的なバランスとされる。なお、この比率は当量比(分子量)で表現されているため、成分分析値を元にした重量比で考える場合は、大まかに4:1:1が理想的なバランスだと考えて良い。
花が終わった後や実を収穫した後に植物に施す肥料のこと。生長や開花、実をつける過程で消費した栄養素を補給し、再生や新たな生長を促すために施される。一般的に、お礼肥えには速効性のある化成肥料や液肥が使用される。
か行
カリウム・カリ(K)は、植物の生育に必要な肥料の3大要素の一つ。一般的な植物の主成分では、窒素の次にカリウムが多く含まれているが、キュウリやスイカなどのウリ科作物や、トマト、じゃがいも、かんきつ類などは、窒素よりも多量のカリウムを含んでいる。このような作物の栽培においては、特にカリウムの施用が重要である。
カリウムは、古くから根の発育を促す「根肥(ねごえ)」と呼ばれてきた。その理由は、炭水化物の転流に関わっており、カリウムが光合成により生産した炭水化物等の栄養を根に転流させ、根の生育が良くなる現象があるからである。しかし、転流方向は葉から根の方向だけではなく、根から生長点や、葉から果実への転流にも深く関与している。また植物にとっても最も重要な水分調整機能にカリウムが使われている。その他、光合成や、酵素反応の活性化など多岐にわたる生理機能に関与しており、植物の耐病性や耐寒性を高める効果もある。
土壌へのカリウムの供給は主に肥料によって行われる。硫酸カリ、塩化カリ、硝酸カリなどが一般的なカリウム源。有機カリでは、草木灰やパームアッシュなどが代表的である。前者の化成肥料は水溶性、即効性であり、後者の有機カリはく溶性といわれ遅効性である。
カリウム不足は植物の成長障害を引き起こす。葉の枯れや黄化、成長の遅延、収量減少などの症状が現れる。特に果物や根菜類の品質に大きな影響を及ぼす。逆に、カリウムの過剰な使用は土壌の塩基バランスを崩し、他の栄養素の吸収を妨げる場合がある。
カリウムは、「ぜいたく吸収」という言葉があるほど、植物は優先的に吸収してしまう性質があり、カルシウムやマグネシウムの吸収を阻害するため、特に栄養成長期の過剰なカリウムの施用は、軟弱徒長、品質低下を招くことともある。そのため、施用量や質(即効性と遅効性の組み合わせなど)または収穫量を考慮し、適切なカリウムの施用を考慮する必要がある。
キチナーゼはキチンを分解する酵素の一種である。この酵素はキチンを構成するN-アセチルグルコサミンの結合を切断し、キチンを単糖やオリゴ糖に分解する。キチンは主に菌類(糸状菌を含む)の細胞壁や昆虫の外骨格など、多くの生物にとっての主要な構造成分である。キチナーゼはこのキチン多糖をより小さな単位に分解する能力を持っている。
キチナーゼを生産する生物には植物と微生物が含まれる。微生物の中で放線菌(Actinomycetes)が特に有名である。代表的な例としてはストレプトマイセス(Streptomyces)、アクチノマジュラ(Actinomadura)、ストレプトスポランジウム(Streptosporangium)などがある。バチルス菌の中にもキチナーゼを生産する種が存在し、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)やバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)が知られている。また、トリコデルマ(Trichoderma)やアスペルギルス(Aspergillus)などの一般的な真菌もキチナーゼを生産する。これらの微生物はキチナーゼを利用して死んだ昆虫や線虫、他の菌類などを分解し、栄養源としている。特にトリコデルマは他の糸状菌との競争において優位を確保するためにキチナーゼを積極的に生産する。
植物においてはキチナーゼは自己防衛機構の一部として機能する。植物が病原体の侵入や感染を感知すると免疫反応が働き、キチナーゼを含む防御関連タンパク質が活性化される。これにより病原体の成長を阻害し、植物を保護するための物理的及び化学的障壁が形成される。
このような反応を利用した病害虫予防の方法も考案されている。キトサンや微生物の培養物、β-グルカンなどを葉に散布し、植物に噴霧することで植物が病原体や害虫に侵入されたと誤認し、免疫反応を促進する仕組みである。
キチンはエビ・カニなどの甲殻類や昆虫類、線虫などの外骨格(殻)の主成分であり、カビ・キノコなどの真菌の細胞壁にも含まれる。硬くて軽く、タンパク質等との組み合わせによる柔軟性、水や油、温度変化への強さなど、優れた骨格材料として活用されており、菌類や昆虫類の地球上での大繁栄を支えている。その構造はN-アセチルグルコサミンの単位がβ(1→4)結合で連結しており、これにはアミノ基(窒素含有基)が含まれる。難分解性の高分子多糖である。
自然界においてキチンを主に分解するのはキチナーゼという酵素である。(「キチナーゼ」を参照)
キチンとキトサンは構造が似ているが、化学的特性は異なる。キチンはN-アセチルグルコサミンの長い鎖からなる多糖類で、キトサンはキチンを加水分解することで得られ、多くのアセチル基が除去される。そのため、キトサンはより多くのアミノ基を持ち、キチンよりも反応性が高く、水溶性である。
キチンとキトサンは植物の防御反応を誘発するエリシター(誘引物質)としての働きを持つ。エリシターは植物の免疫系を活性化し、病原体やストレスに対する防御機構を強化する物質である。(「エリシター」を参照)キチンとキトサンによる植物の反応は以下のようである。
① 細胞壁を強化し、病原体の侵入を防ぐ。リグニンやセルロースなどの細胞壁成分の合成。
② 抗菌物質や抗害虫物質による病害虫の侵入を阻止し、成長を阻害。キチナーゼ、ファイトアレキシン、ペルオキシダーゼ、パタンニンなどの生成。
③ シグナル伝達の活性化。植物の細胞内でシグナル伝達カスケードを活性化し、システミックな免疫応答(全身性獲得抵抗性)を引き起こし、病害虫に対する抵抗性を向上させる。
④ 非生物的ストレスへの耐性。塩害や乾燥などの非生物的ストレスに対する耐性を高める可能性がある。
このように、キチンおよびキトサンは自然由来のエリシターとして化学農薬の使用を減らすための代替手段として研究されている。
植物との共生関係を築き、植物の周辺で活動する微生物の総称。共生とは一般的には相互に利益をもたらす相利共生を指し、植物から炭水化物を受け取り、植物へ水や栄養を渡すという関係が代表的である。ミクロで見ると微生物側にだけ利益がある片利共生の様に見える場合でも、病原菌や線虫の侵入を防いだりしていたり、土壌環境を改善するなど、広い視点では相互にメリットを享受している場合も多いと考えられる。
人も腸内に多くの微生物と共生していることが知られている。健康な人の体には100兆個もの腸内細菌が共存しており、食べ物の消化吸収や免疫システムに重大な働きをしており、さらには感情や精神の安定にも大きな影響があることが発見されている。人の健康と豊かな腸内細菌叢が密接に関わっている。これと同じことが植物においても指摘されている。
植物にとって、根は消化吸収機関であり、微生物との共生関係があってこそ必要活十分な栄養の摂取が可能になると考えれる。また栄養面だけで無く、土壌の物理性や化学性、生物性の観点からも微生物が果たす役割は非常に大きいものである。共生微生物の存在が、健康な植物の生育に大きく関わっており、決して無視できない重要な働きである。
近年学術的に特に注目されている共生微生物は、根粒菌と菌根菌である。根粒菌はマメ科植物の根に共生し根粒を作り、窒素固定することによって宿主に窒素(アンモニア)を供給し、その見返りとして炭水化物などの栄養を受け取っている。菌根菌は、非常に多くの植物と共生し、根よりも細い菌糸を広く伸ばし、水分やリン酸などの栄養分を植物供給している。(「菌根菌」を参照)
これらの代表的な微生物以外にも、糸状菌、放線菌属、バチルス菌属、アゾトバクター、その他の細菌など、まだ発見されていない種や働きを含め、植物の周りには非常に多くの共生微生物が存在していると考えられており、これらの共生微生物を活性化することが植物の健康な生育を支えていることは重要な視点である。
特定の有機化合物が金属イオンを包み込んで形成される安定したリング状の構造のことをキレートという。錯体構造の一種である。キレート剤を使い、キレート構造を作ることをキレート化という。この構造により、金属イオンはより生物利用可能な形となり、植物による吸収が容易になることが知られている。
農業においては、特にキレート化した微量要素が普及している。鉄や亜鉛、銅などは、土壌ではリン酸塩などと結合、固定化され植物への吸収が難しくなる。また水耕栽培等でも同様の現象があり、植物に微量要素欠乏が発生しやすい。そのため、キレート化した微量要素肥料を使用する場合がある。主なキレート剤として、EDTAやEDDHA、DTPA、シトリン酸などがあり、そのほかにもアミノ酸キレートという新しい技術を活用した資材も生まれている。
また、中量要素であるカルシウムやマグネシウムについては、キレートカルシウムなどという表現は化学的・技術的にはふさわしくないが、有機化合物であり、植物への吸収性を高めるもとして、広い意味でキレートと呼ぶ場面が多い。
植物にとって、ミネラルを効率的、かつ安定的に吸収することは、健康な生育に欠かせない条件であるため、キレートミネラル資材の活用は非常に重要な技術である。
菌根菌はエンドファイトの一種であり、植物の根と共生する菌類(糸状菌)である。植物と共生することにより、相互に様々なメリットがあるとされる。菌根菌には、内生菌根菌(arbuscular mycorrhizal fungi、AMF、AM菌)と外生菌根菌(ectomycorrhizal fungi)の二つの主要なタイプがある。AM菌には、特にVA菌根菌(vesicular-arbuscular)が含まれ、これらは植物の根細胞内に侵入し、植物の細胞内に侵入して栄養交換用の細かく分枝した樹枝状体(arbuscule)と、しばしば栄養貯蔵用の嚢状体(vesicle)とを形成する。以前は、VA菌根菌として知られていたが、現在では嚢状体を形成しないものもあるため、AM菌と呼ばれることが多い。VA菌根菌資材は、地力増進法に指定された政令指定土壌改良資材である。これに対し、外生菌根菌(ectomycorrhizal fungi)は、植物の根の表面や間細胞に存在し、菌糸鞘(mantle)を形成する。マツタケやホンシメジなどのきのこは、外生菌根菌である。
地球上での植物の陸上進出は、まさに進化の大冒険であった。当時の陸地は有機物や腐植に乏しく、土壌は乾燥し、非常に栄養が限られた環境だった。この厳しい環境において、菌根菌は植物に不可欠な栄養素、特にリンなどを供給することで、植物の陸上での生存と進化を支えた。菌根菌と植物との共生関係は、生命の進化において極めて重要な一歩であったと言われている。
そのような背景から、菌根菌は、ほとんどの植物種と共生するとされ、自然界の非常に多くの植物が菌根菌の恩恵を受けている。農業現場においては、主にAM菌が重要視され、AM菌資材も複数市販されている。AM菌は維管束植物の80%もの種に共生するとされ、イネ科、ユリ科(ネギ類)、ナス科、ウリ科、バラ科、マメ科など、アブラナ科以外のほとんどの作物と共生する。
農業現場では、播種床や育苗時に菌根菌資材を添加し、生育初期に感染(共生)させる手法が一般的である。菌根菌資材が、根系の発達を促進し、栄養吸収を改善するため肥料の低減(減肥)することや、病害虫への抵抗性、または悪天候等へのストレス耐性を高める効果があるとされる。
菌根菌の働きとして重要なことは、根の代わりに水分や栄養分を供給することである。植物は根を伸長させるためのエネルギーや栄養分を節約でき、菌根菌は栄養分を供給する代わりに植物から糖類などのエネルギーを享受できる。菌根菌が根に供給する栄養分として特に重要なものはりん酸である。土壌中にりん酸が少ない環境の場合、植物は菌根菌と共生するメリットが特に大きい。菌根菌はりん酸以外にも、窒素や微量要素なども供給している。森林や草原など、自然の植物が肥料もないのに旺盛に生長している理由は、菌根菌の働きによるものが大きい。
しかし逆に、肥料を散布し、栄養豊富な土壌では、植物は菌根菌と共生するメリットが少ないため、菌根菌との共生関係は解消され、菌根菌は減少する。多くの研究では、土壌中のりん酸が20mg/100g以上で、菌根菌が減少する傾向にあるとされる。また同様に、土壌中の化学肥料や水分が多い場合や、トラクター、管理機等での土壌の攪乱には非常に弱く、菌根菌は急激に死滅する。その他、土壌pHや地温など、菌根菌が働きやすい環境には制約があり、菌根菌を活用する場合はその点を考慮しなければならない。
菌根菌の働きとして近年の研究により明らかになった重要な事は、草原や森林全体に、菌根菌が地下ネットワークを張り巡らし、それぞれが繋がって、栄養や水を共有しているという働きです。大きな樹木とその周りの小さな木や草などが、地下で繋がっているということです。日当たりや栄養や水分の偏りや、ここの植物の能力の差があっても、地下ネットワークを通じて栄養を共有しており、全体がまるで一つの大きな生き物のように生命活動を営んでいると言うことです。このような大きな生命活動の中で、菌根菌が果たす役割に注目が集まっている。
ケイ酸カリウム(化学式: K₂SiO₃)はカリウムのケイ酸塩であり、無機化合物の一種である。「珪酸加里」または「ケイ酸加里」とも呼ばれ、農業における肥料としての用途がある。また、建築、溶接、洗剤など多岐にわたる分野でも使用されている。
農業分野では、ケイ酸カリウムは作物の細胞組織を強化し、病害抵抗性を高める効果がある。水稲の土づくり肥料として広く用いられ、水稲以外の園芸作物にも活用されている。水稲への施用により、光合成能力の向上、根の酸化力の強化、いもち病などへの耐病性の向上、倒伏耐性の強化など様々なメリットが認められている。また、ケイ素は全身獲得抵抗性誘導(SAR)の性質を持ち、イチゴやきゅうりのうどんこ病、ウリ科作物のつる割れ病などに対する一定の防除効果が認められ、注目される栄養素である。かんきつ類の果皮にケイ素が集積する例もあり、その活用法が模索されている。
水稲においてケイ酸の吸収量は窒素の10倍であり、最も重要な栄養素の一つである。玄米600kgの収量に対し、ケイ素が120kgも必要とされるが、土壌中に豊富に含まれるケイ酸は非常に水に溶けにくく、また近年は灌漑用水に含まれるケイ酸も減少している。そのため、肥料としてケイ酸肥料を施用することが重要性を増している。
ケイ酸質肥料にはケイ酸カルシウムも含まれるが、これは比較的ケイ酸の溶出量や吸収量が低いため、ケイ酸をメインで考える場合は、溶成りん肥(ようりん)や加工鉱さいリン酸肥料、ケイ酸加里、シリカゲルなどのケイ酸肥料が推奨される。有機資材では、もみ殻くん炭が可溶性ケイ酸を多く含んでいる。
土壌中には多くの二酸化ケイ素が含まれており、これらは微量ながら溶出し植物の生育を助ける。しかし、土壌微生物が減少するとケイ酸の溶解が進まず、植物の耐病性などが低下する場合があるため、好ケイ酸植物では土作りにおいて土壌微生物の働きを考慮すべきである。水溶性ケイ酸を含む液体肥料も市販されているが、高価であるため、まずは土作りにケイ酸質肥料を取り入れるところから始めると良い。
酸素の供給が制限された状況で生育する微生物の一群。土壌中では好気性微生物と嫌気性微生物が共存し、それぞれが土壌の生態系において重要な役割を果たしている。嫌気性微生物は、水没した領域や土壌中の深層部、または土壌団粒の内部に生息している。有機物を腐敗させたり、まれに植物病原菌として認められる嫌気性菌(ジャガイモ軟腐病菌など)もあり、嫌気性微生物にも植物に有害なものもある。
嫌気性微生物は、嫌気的環境下でのみ発育できる「偏性嫌気性微生物」と、嫌気的環境でも好気的な環境でも発育増殖できる「通性嫌気性微生物」に分類される。前者の代表例はメタン生成菌やクロストリジウム属菌、後者の代表例は酵母や乳酸菌、大腸菌などである。
酸素を利用して生育する微生物の一群。土壌中では好気性微生物と嫌気性微生物が共存し、それぞれが土壌の生態系において重要な役割を果たしている。
とくに植物が生育する環境は、好気的環境が多く、好気性微生物の影響は非常に大きい。好気性微生物は、酸素を使って糖からエネルギーを取り出す「好気呼吸」を行う。これは、嫌気呼吸と比べて、はるかにエネルギー生産量が大きく、そのため、好気性微生物は嫌気性微生物と比べ、増殖スピードや代謝のスピード、また有機物を分解するスピードが格段に速い。また、植物の根圏や葉圏に生息する微生物のほとんどは好気性微生物であり、好気性微生物の善し悪しが、植物の健康な成長を支えている。好気性微生物の代表例は、糸状菌(カビの仲間)、硝化菌、窒素固定菌、放線菌など。
酵母菌(Yeast)とは、単細胞性の真菌(菌類)の総称であり、多くが通性嫌気性に分類される。代表的なサッカロミセス属(Saccharomyces)などは、好気的には糖を分解して二酸化炭素(CO₂)と水(H₂O)を生成し、効率よくエネルギーを産生する。一方、嫌気的にはアルコール発酵を行い、エタノール(C₂H₅OH)と二酸化炭素(CO₂)を生成する。食品では、パンや味噌、醤油、酒など様々に活用される。農業では、乾燥菌体が肥料として利用されるほか、培養液や細胞壁破砕物がバイオスティミュラント資材として活用され、作物の成長促進やストレス耐性向上に寄与する。ただし、酵母菌は土壌中では一般的に多く存在せず、増殖もしにくいため、土壌改良材として直接活用されることは少ない。農業資材としては、培養液や有益な成分を抽出・加工した形で利用されることが多い。糖類を主な栄養源とし、最適pHは4~6。
植物の根の周囲数ミリの範囲(根圏)に生息し、植物と相互作用を持つ微生物の総称。主に細菌(Pseudomonas, Bacillus)、糸状菌(Trichoderma)、放線菌(Streptomyces)などが含まれる。植物の成長促進(PGPR)、病害抑制、リンや窒素の可溶化、ストレス耐性向上に寄与するが、病原菌も含まれるためバランスが重要である。
根圏では、植物が分泌する根酸(クエン酸やリンゴ酸など)や、腐植酸(フェノール類など)といった有機酸などをエサに微生物が繁殖し、その微生物が窒素固定をするなど、作物と微生物が共生する活性の高い場となっている。土壌環境の改善により有益な根圏微生物の活性を高めることができる。
根粒菌(Rhizobia)とは、マメ科植物と共生し、根に根粒を形成して窒素固定を行う細菌の総称。主要な属にはRhizobium、Bradyrhizobium、Mesorhizobium、Sinorhizobium などがあり、植物が分泌するフラボノイドに応答してノード因子(Nod Factor)を産生し、共生を開始する。根粒内ではニトロゲナーゼを用いて大気中の窒素(N₂)をアンモニア(NH₃)に変換し、植物に供給する。根粒菌はやや酸性~中性(pH6.0~7.0)の土壌で増殖しやすく、有機物が豊富な環境を好む。炭素源としては植物の根から分泌される有機酸(クエン酸、マロン酸など)や糖類を利用し、リン酸やモリブデン(Mo)は窒素固定の活性を高める。逆に、土壌中の窒素が多い環境では、根粒菌の働きが低下するため、マメ科植物では窒素施肥量を減らすことが多い。ただし、マメ科植物においても根粒菌の働きが低い生育初期や、栽培の後半には窒素が不足するため、施肥によって補う必要がある。農業ではマメ科作物の窒素供給を向上させるため、接種菌が活用される場合もある。菌力アップには、根粒菌が含まれている。
さ行
糸状菌(Filamentous fungi)は真菌界に属する生物群であり、特徴的な糸状の構造を持つ菌糸を形成する。一般的に糸状菌は微生物に含まれるが、その菌糸は明確に目視できるほどの大きさである。カビやキノコは糸状菌の代表的な例であり、基本的に空気(酸素)を好み、土壌の浅い部分に生息する。
糸状菌は地球環境や農業において多面的な役割を果たし、土壌の健康や植物の成長に重要な影響を与える。生物学的には接合菌門(Zygomycota)、子嚢菌門(Ascomycota)、担子菌門(Basidiomycota)などに分類される。これらの菌糸は、多くの小さな細胞が連なって長く伸びたような形をしている。一部の糸状菌では、これらの細胞が個々に分かれず、長い一本の糸のように連続していることもある。このような構造は、放線菌の菌糸とは性質が異なる。また糸状菌の細胞壁はキチン質で構成されており、これも放線菌との違いである。
糸状菌の成長速度は非常に速く、自然環境では他の微生物に比べて優先的に広範囲のネットワークを形成する。これにより、広い範囲から栄養素を吸収する。その成長スピードや栄養探知能力は、植物と糸状菌(菌根菌など)の共生関係に利用されている。一般的な自然界の土壌や畑では、糸状菌は細菌や土壌生物(ミミズなど)よりも圧倒的な量で存在することが多い。
農業における糸状菌の役割は栄養循環と土壌環境において重要である。糸状菌は有機物を分解する能力に優れ、特にリグニンやセルロース、ヘミセルロースなどの難分解有機物を効率的に分解できる。植物遺体中の炭素や窒素などの栄養分は、糸状菌によって分解され、他の細菌や植物が利用できる状態になる。糸状菌の体の成分を見ると、細菌と比べて炭素率(C/N比)がかなり高いため、炭素率の高いエサから有利に増殖し成長できると考えられる。まず糸状菌が硬い繊維を分解し、その後に細菌が増えてさらに栄養を循環させるという役割分担が見て取れる。
土壌環境においては、糸状菌が土壌団粒化を促進する点が特に重要である。菌糸によってミクロ団粒を巻き込むことでマクロ団粒を形成し、さらには耐水性のある強い団粒を作ることに長けている。これらの団粒は土壌の生物性や物理性を大きく向上させ、農業現場において非常に重要である。
しかし、糸状菌の負の側面にも注意が必要である。フザリウム属やピシウム属など、糸状菌の中には植物病害を引き起こすものが多い。これらの病原菌は、特に易分解有機物が豊富な環境で増殖しやすく、未熟堆肥の施用や有機物施用後の植え付けでは病害が発生しやすい理由の一つである。病原菌は非常に迅速に繁殖し、強力な分解酵素を放出するため、生きた植物でさえ自己組織を守れずに病害に侵されることがある。
糸状菌の種類は発見されているだけでも数万種、未発見の種も含めると数百万種に及ぶと言われるほど多様である。これらの中には相互に共生するもの、拮抗するもの、相反するものが存在する。たとえば、糸状菌のトリコデルマ菌は他のキノコや病原菌の活動を抑制するとされる。糸状菌に似た細菌の放線菌は、キチナーゼという酵素を生産し、糸状菌の繁殖を抑えたり、死んだ糸状菌を分解する働きがある。さらに糸状菌は多くの細菌と比べて体が大きいため、糸状菌の周りには多くの微生物が付着、または共生しており、物質の交換や相互作用があると考えられている。このように、土壌の中では糸状菌の勢力図の周囲に複雑な自然の営みが絡み合っている。
硝化菌とは、アンモニアを硝酸へと酸化する好気性細菌の総称であり、硝化は2段階のプロセスで進行する。まず、亜硝酸菌がアンモニアを亜硝酸へ酸化し、次に硝酸菌が亜硝酸を硝酸へ酸化する。代表的な亜硝酸菌にはニトロソモナス属(Nitrosomonas)やニトロソスピラ属(Nitrosospira)があり、硝酸菌にはニトロバクター属(Nitrobacter)やニトロスピラ属(Nitrospira)が含まれる。
硝化菌の働きは農業において大変重要であり、特に植物の主要な窒素供給源である硝酸の生成に関与する。硝化菌は乾燥環境を好み、アンモニアを数日で硝酸に酸化する。最適pHは6.5~8.5の弱酸性~弱アルカリ性であり、特に中性~弱アルカリ性(pH7~8)で活発に働く。酸性土壌では硝化菌の活性が低下するため、適切なpH管理が重要となる。
植物は硝酸の吸収を好むものが多く、乾燥後に土壌を十分にぬらす雨が降ると、一気に硝酸を吸収し生長が促進される。しかし、果樹や果菜類ではこの急激な吸収が裂果につながることがあり、硝酸の過剰な生成を抑えるため、保水性を高め土壌水分量を安定化させることが重要となる。
硝化菌は、クロルピクリンなどの薬剤消毒はもちろん、太陽熱消毒や還元消毒などを含む土壌消毒処理によって大きく減少し、自然な回復には1ヶ月程度の時間がかかる。そのため、消毒後に菌力アップなどの微生物資材を投入し、硝化菌の回復を促すことが重要である。また、硝化過程では一酸化二窒素(N₂O)などの温室効果ガスが放出されることがあり、環境負荷を低減する施肥管理が求められる。具体的には、アンモニア態窒素の過剰施用を避ける、土壌の通気性を確保しながら適切な水管理を行う、硝化抑制剤(DCDやニトラピリン)を活用してN₂Oの発生を抑えるなどの対策が有効とされている。
硝酸態窒素(NO₃⁻)とは、植物が最も吸収しやすい窒素の形態の一つであり、主に硝化菌の働きによって生成される。アンモニア態窒素(NH₄⁺)が土壌に施用されると、亜硝酸菌(Nitrosomonas属)が亜硝酸(NO₂⁻)に酸化し、硝酸菌(Nitrobacter属)がさらに硝酸(NO₃⁻)に酸化することで形成される。硝酸態窒素は水溶性が高く、土壌中で移動しやすいため、適切な施肥管理が重要となる。
硝酸を含む代表的な肥料には、硝酸カルシウム(Ca(NO₃)₂)、硝酸カリウム(KNO₃)、硝酸アンモニウム(NH₄NO₃)などがある。硝酸態窒素は即効性があり、速やかに作物に吸収されるが、降雨や灌水によって地下へ流亡しやすく、過剰施用は地下水汚染に繋がる。また硝酸がカルシウムやマグネシウムなどと一緒に流亡するため、土壌の塩基も流亡しやすく、このことが硝酸が土壌のpHを下げる(酸性化の)要因の一つとなっている。このような窒素肥料による酸性化の対策として、石灰資材(炭酸カルシウム、苦土石灰)を適切に施用し、pHを維持することが推奨される。
また、硝酸を含む肥料の中には、特に硝酸アンモニウム(NH₄NO₃)や硝酸カリウム(KNO₃)のように、強い酸化性を持ち、可燃物と接触すると発火や爆発の危険があるものがある。特に硝酸アンモニウムは、大量に貯蔵された状態で高温や衝撃を受けると分解反応が急激に進行し、爆発するリスクがあるため、取り扱いには注意が必要である。
農産物には硝酸が含まれるが、通常の食生活での摂取量では人体への悪影響はない。硝酸自体は毒性が低いが、一部の硝酸が体内で還元されて亜硝酸(NO₂⁻)に変化し、タンパク質と結合して発がん性物質であるニトロソアミンを生成する可能性が指摘されることがある。しかし、野菜には硝酸の代謝を抑制するビタミンCや抗酸化物質が豊富に含まれており、バランスの取れた食事をしていれば健康への影響はほとんどない。むしろ、硝酸は体内で一酸化窒素(NO)に変換され、血管拡張作用を持つことから、血流改善などの健康効果が高い。
農業においては、作物の生育を促進するために硝酸態窒素を適切に供給しつつ、流亡対策として土壌の保水性を高めたり、被覆肥料を活用して緩やかに供給する管理が求められる。また、地下水汚染や環境負荷を抑えるため、施肥量を適正化し、硝化抑制剤(DCD、ニトラピリン)の利用や有機物施用による土壌緩衝能力の向上が有効である。逆に硝化菌の働きが鈍い低温期などには、アンモニア態窒素よりも硝酸態窒素肥料の方が吸収が良いため、時期によっても、硝酸態窒素の活用方法を考えたい。
硝酸についての話題は、こちらにも詳しい解説があるので参照されたい。
https://sunbiotic.com/blog/series/%e7%a1%9d%e9%85%b8%e3%83%88%e3%83%bc%e3%82%af
石灰窒素(CaCN₂)とは、カルシウムとシアナミドを主成分とするアルカリ性肥料であり、窒素成分約20%、カルシウム成分約50%を含む。施用後、土壌中の水分と反応してシアナミドを生成し、最終的に尿素、アンモニア、硝酸態窒素へと変化し、植物に吸収される。pHを上昇させる性質があり、酸性土壌の改良にも利用される。
石灰窒素の分解過程で発生するシアナミドには、雑草の種子発芽抑制、土壌病害菌の抑制、センチュウ防除などの作用があり、作物残渣の分解促進にも活用される。一方で、施用直後はシアナミドが体内のアルコール分解酵素を阻害するため、飲酒すると悪酔いや二日酔いのような症状を引き起こす可能性がある。
施用時の注意点として、分解期間を考慮し、施用後2週間以上空けて播種や定植を行うことが推奨される。また、ハウス内での使用時は換気を徹底し、適量を守ることが重要である。石灰窒素は、肥料効果だけでなく土壌消毒や病害管理にも役立つ多機能資材である。
石灰窒素の窒素成分は、主にアンモニア型であり、土壌中で硝酸型に変化しにくいため、作物にゆっくりと吸収される。 また、石灰窒素はアルカリ性のため、酸性雨による土壌の酸性度を中和し、土壌環境を改善することができる。
た行
堆肥(たい肥)とは、微生物の働きによって有機物を分解・発酵させた土壌改良資材であり、肥料取締法では特殊肥料に分類される。土壌の物理性・化学性・生物性を改善し、保水性や通気性を向上させるとともに、土壌微生物の活性を促す。堆肥には、家畜ふんと敷料を発酵させた「たい厩肥」、落ち葉を分解した「腐葉土」も含まれる。
良い堆肥とは、第一に病原菌や、生きた雑草の種子を含んでいないこと。第二に、有機物の腐熟が進んでおり、多様な微生物を含んでいることである。使用面においては、使いやすい状態まで乾燥しているものが望ましい。たい厩肥(家畜ふん堆肥)には、肥料成分が多く残るため肥料を削減できるメリットがあるが、pHが高くアンモニア害を及ぼすものや、木質系原料が十分に腐熟していないため、ガス害や窒素飢餓等により植物に害を及ぼすものがある。そのため、植付け前に十分な期間を設けて堆肥を施用したり、微生物資材等により堆肥による害を軽減するなどの対処が重要な場合も多い。
施用にあたっては、土壌の状態に応じて種類と量を選び、未熟堆肥の使用を避けることが重要である。適切な堆肥を施すことで、土壌の健全性を高め、作物の生育を支えることができる。堆肥の作り方については、サンビオティック
堆肥・ぼかしの作り方マニュアルを参照されたい。
太陽熱消毒とは、太陽の熱エネルギーと微生物の発酵熱を利用して土壌を加熱し、病害菌やセンチュウ、雑草種子を死滅または不活化させる物理的な土壌消毒法である。農研機構では、単なる病害防除にとどまらず、土壌の健全化や作業の簡素化を目的とした「陽熱プラス」という考え方を推奨している。「太陽熱養生処理」と呼ぶことがある。
化学農薬を使用せずに土壌の病害リスクを低減できるため、環境負荷が少なく、有機農業や持続可能な農業の手法として注目されている。
方法としては、まず土壌を耕し、適度に水分を含ませた後、透明なポリエチレンフィルムで覆う。水分は熱伝導を高め、病原体の死滅を促す役割を果たす。夏季の高温時にこの状態を数週間維持すると、地温が50~60℃程度まで上昇し、病害菌やセンチュウが死滅する。また、雑草の種子や未熟な有機物の分解が進むことで、雑草抑制効果や土壌改良効果も得られる。詳しくは、サンビオティック太陽熱消毒マニュアルを参照されたい。
この技術は病害抑制効果が高い一方で、土壌微生物全体にも影響を与えるため、消毒後の土壌回復が重要となる。特に硝化菌などの有用微生物も減少しやすいため、堆肥や微生物資材を施用し、土壌微生物群の回復を促すことが推奨される。
近年では、太陽熱消毒と有機物分解を組み合わせた還元消毒も注目されている。土壌に有機物を投入し、密閉することで嫌気的な条件を作り出し、病原菌の生存を困難にする方法である。太陽熱養生処理と還元消毒を組み合わせることで、病害抑制と土壌の健全化を同時に実現することが可能となる。
団粒構造とは、土壌中の細かい粒子が集まり、小さな塊(団粒)を形成することで、適度な隙間を持つ構造を作る現象である。土壌学と農学では定義が異なるが、ここでは農学における団粒構造について説明する。
農業における団粒構造は、有機物や微生物の働きに加え、ミミズや土壌動物の活動によって形成される。土壌には、数十ミクロン程度のミクロ団粒と、それが集まって形成されるマクロ団粒があり、マクロ団粒が発達すると土壌の通気性や排水性、保水性が向上する。
耐水性のある安定した団粒構造を作るためには、糸状菌や放線菌などの好気性微生物の働きが最も重要である。これらの微生物は、有機物を分解しながら粘性物質を分泌し、土壌粒子を結びつけることで団粒を形成する。特に好気性微生物は、自らの生息環境を最適化するために団粒化を促進していると考えられる。
団粒の内部には嫌気状態になっている部分も多く、そこには嫌気性微生物が繁殖する。これにより、団粒化した土壌では、好気性微生物と嫌気性微生物が共存し、相互に作用しながら生物多様性を支えている。
団粒化を促進するためには、有機物の投入が不可欠であり、特に未熟堆肥や新鮮な有機物のほうが、完熟堆肥よりもその作用が強い。これは、分解が進んでいない有機物が微生物の増殖を促し、その活動によって土壌粒子が結合しやすくなるためである。ただし、未熟堆肥や新鮮有機物の施用は、一時的に窒素飢餓やガス害を引き起こす可能性があるため、適量を守り、施用後の土壌管理を適切に行う必要がある。
また、団粒構造を維持するためには、適度な耕起が必要だが、タイミングを誤ると団粒を破壊する原因となる。特に乾燥した土壌での耕起は、団粒を著しく壊しやすいため、水分状態を考慮しながら作業を行うことが求められる。
団粒化を促進し、土壌の健全性を向上させるためには、有機物の施用、微生物資材の活用、適切な耕起管理を組み合わせることが重要であり、持続可能な農業の実現につながる。
窒素(N)は、肥料の三要素(窒素・リン酸・カリウム)の一つであり、「葉肥え」とも呼ばれ、茎葉の伸長・展開に不可欠な栄養素である。植物のアミノ酸やタンパク質、クロロフィル、核酸(DNA・RNA)などの主要成分となり、生育初期の旺盛な成長を支える。
土壌中の窒素は、有機態窒素と無機態窒素に大きく分けられる。有機態窒素は、タンパク質やアミノ酸、腐植などの形で存在し、そのままでは植物は利用しにくい。一方、無機態窒素には、アンモニア態窒素(NH₄⁺)や硝酸態窒素(NO₃⁻)があり、植物はこれらを根から吸収しやすい。さらに、尿素態窒素(CO(NH₂)₂)は、厳密には有機態に分類されるが、土壌中で微生物の働きによって速やかに無機化され、植物に吸収される。
空気中には約78%の窒素が含まれるが、植物が直接利用できる形ではない。そのため土壌において窒素の循環や植物への供給には微生物の働きが不可欠である。窒素固定菌(アゾトバクター、根粒菌など)が空気中の窒素(N₂)をアンモニア(NH₃)に変換し、土壌に供給する役割を果たす。また、有機態窒素は主に好気性微生物の分解によって無機化され、植物が吸収可能な形へと変化する。さらに、硝化菌(ニトロソモナス属、ニトロバクター属)がアンモニア態窒素(NH₄⁺)を亜硝酸態窒素(NO₂⁻)、さらに硝酸態窒素(NO₃⁻)へと酸化することで、植物にとって吸収しやすい形に変える。一方で、嫌気的な環境では脱窒菌が硝酸態窒素を窒素ガス(N₂)として大気中に戻し、過剰な窒素を大気に循環させる役割を持っている。
窒素が不足すると葉が黄化し、生育が遅れ、収量も品質も低下する。しかし、窒素が過剰になると徒長やツルぼけを引き起こし、病害虫の被害を受けやすくなる。また、窒素過剰もまた果実の品質低下にもつながるため、作物の栽培ステージや光合成量、気温、土壌の性質に応じた適切な窒素施用が農業において最も重要である。一般的に、生育初期には窒素を十分に供給し、後期には抑えることで、適正な生長と収量の確保が可能となる。
また、過剰な窒素施用は地下水汚染や温室効果ガス(N₂O)の発生にもつながるため、緩効性肥料や有機質肥料の活用、適正施肥管理によって、持続可能な農業と環境負荷低減を両立させることが求められる。
窒素固定とは、大気中の窒素(N₂)を生物や化学的なプロセスによって反応性のある形(アンモニアNH₃など)に変換し、生態系や農業で利用可能にする過程を指す。窒素は大気中に約78%存在するが、N₂分子は非常に安定しており、ほとんどの生物はそのままでは利用できない。そのため、窒素固定によって可給態窒素に変換されることが重要となる。
窒素固定には生物的窒素固定、工業的窒素固定、自然界での物理化学的窒素固定の3種類がある。
生物的窒素固定は、窒素固定菌(根粒菌、アゾトバクター、シアノバクテリアなど)が、酵素ニトロゲナーゼの働きによってN₂をアンモニア(NH₃)に還元するプロセスである。根粒菌はマメ科植物と共生し、根に根粒を形成して窒素を供給する。一方、アゾトバクターやシアノバクテリアは土壌や水中で自由生活をしながら窒素固定を行う。
工業的窒素固定は、ハーバー・ボッシュ法によって高温高圧下で水素(H₂)と窒素(N₂)を反応させ、アンモニア(NH₃)を合成する技術である。このプロセスにより、現在年間約180Tgの窒素が固定され、化学肥料として農業生産を支えている。
自然界での物理化学的窒素固定には、雷の放電や火山活動による窒素酸化物(NOₓ)の生成がある。これらは雨に溶けて硝酸(NO₃⁻)となり、土壌に供給される。
農業においては、窒素固定の活用が重要であり、マメ科作物の輪作や共生菌の接種による土壌窒素の補充が行われている。また、工業的窒素固定による化学肥料の適正施用が、作物の生産性向上に寄与しているが、環境負荷の低減を考慮した施肥管理が求められている。
窒素固定菌とは、大気中の窒素(N₂)をアンモニア(NH₃)に変換し、植物が利用可能な形にする微生物の総称である。窒素は大気中に約78%存在するが、N₂分子は非常に安定しており、ほとんどの生物がそのままでは利用できない。そのため、窒素固定菌の働きが生態系や農業において重要な役割を果たす。
窒素固定菌は、共生性窒素固定菌と自由生活性窒素固定菌に大別される。
共生性窒素固定菌には、マメ科植物の根に共生する根粒菌(Rhizobium、Bradyrhizobiumなど)が代表的である。これらの菌は、植物の根に感染して根粒を形成し、酵素ニトロゲナーゼの働きによってN₂をアンモニアに還元する。植物はこのアンモニアを利用して成長し、代わりに光合成産物を窒素固定菌に供給する。
自由生活性窒素固定菌には、土壌や水中に生息するアゾトバクター(Azotobacter)、クロストリジウム(Clostridium)、シアノバクテリア(Cyanobacteria)などが含まれる。これらの菌は宿主植物を持たずに単独で窒素固定を行い、土壌中の窒素供給に貢献する。特に水田では、シアノバクテリアが窒素固定を担い、水稲の生育に寄与する。
最近の研究では、水田における窒素固定には鉄還元細菌の関与が注目されている。Geobacter属やAnaeromyxobacter属などの鉄還元細菌は、酸化鉄を電子受容体として利用しながら窒素固定を行うことが示されている。鉄還元細菌が活発に働くことで、土壌の窒素供給力が向上するだけでなく、メタン生成菌との競合によって温室効果ガスの排出を抑制する効果も期待されている。さらに、水田土壌に酸化鉄を添加することで、鉄還元細菌の窒素固定活性が高まり、窒素肥料の代替としての可能性が研究されている。
農業においては、窒素固定菌を活用することで窒素肥料の使用量を減らし、持続可能な農業を推進できる。マメ科作物の栽培や窒素固定菌を含む接種剤の利用が、土壌の窒素供給を安定させる手段として活用されている。また、鉄還元細菌の活性化を促す土壌管理技術の開発が進められており、今後の農業技術の発展に貢献すると期待される。
窒素固定を行う微生物。「微生物」は「菌」とほぼ同じ意味で、「窒素固定菌」と「窒素固定微生物」は同義。
窒素循環とは、大気・海洋・陸上の間で窒素が形を変えながら循環するプロセスを指す。大気中には約78%の窒素(N₂)が存在するが、生物が直接利用できる形ではなく、主に窒素固定によって生態系に供給される。
自然界の窒素固定は、雷の放電や窒素固定菌(根粒菌、アゾトバクターなど)によって行われ、年間約140~200テラグラム(Tg)と推定される。一方、ハーバー・ボッシュ法による人工的な窒素固定は、現在年間約180Tgに達し、農業生産を支える主要な窒素源となっている。
陸上では、雨水に含まれる硝酸やアンモニウムが供給源となるほか、植物が根から硝酸態窒素(NO₃⁻)やアンモニア態窒素(NH₄⁺)を吸収し、アミノ酸やタンパク質を合成する。これらは動物へ移行し、排泄物や遺体の分解によって再び土壌に戻る。
土壌中では、有機態窒素が微生物の働きによって無機化(鉱化)され、アンモニア態窒素(NH₄⁺)へと変換される。その後、硝化菌が亜硝酸(NO₂⁻)を経て硝酸態窒素(NO₃⁻)に酸化し、植物が利用する。嫌気的な環境では脱窒菌が硝酸態窒素を窒素ガス(N₂)に戻し、大気へと放出する。このように土壌中における窒素循環の重要な機能を微生物が果たしている。
栽培途中に追加施用する肥料である。固形肥料だけで無く、液体肥料によるものも含む。作物の吸収曲線に合わせ、必要時期に必要量を分施する。窒素は硝酸態・アンモニア態の比や供給速度を設計し、リン酸、加里・カルシウム・マグネシウムとのバランスを取る。
過剰施用は徒長・病害感受性・品質低下を招くため過不足無く適時に施用することが重要である。特に長期間栽培する果菜類では、計画収穫量に応じて施肥を配分設計することで、安定した生育を実現しやすい。
土壌EC値とは、土壌溶液の電気伝導度(Electrical Conductivity)を示す値で、土壌中の可溶性塩類濃度、すなわち肥料強度の指標となる。単位はmS/cm(=dS/m)で、読み方は「ミリジーメンス・パー・センチメートル」。EC値が高すぎると、浸透圧ストレスによって根からの吸水が阻害され、根傷みや塩類障害を招き、生育が悪化する。これは露地圃場でも見られるが、特に施設園芸(ハウス栽培)では顕著である。
畑の土壌EC値を高める主な原因は、肥料成分の蓄積である。なかでも硫黄イオン(硫酸系肥料)、塩素イオン(塩化物系肥料)、硝酸イオンなどの強い陰イオンはEC上昇への寄与が大きい。ハウス圃場では雨水が入らず、自然な塩類の洗い流しが起こらないため、ECが上がりやすい。また、土壌が乾湿を繰り返すことで、土壌表面に塩類が集まる「塩類集積」もよく見られる現象である。
EC値を低下させる方法としては、塩類を洗い流す物理的手段が最も速効性がある。具体的には、湛水による塩類溶脱、大量潅水、被覆資材を一時的に外して降雨に当てる方法などがある。また、「クリーニングクロップ法」と呼ばれる作物利用の方法も有効である。これは、トウモロコシやソルゴーなどの肥料吸収力(吸肥力)の強い作物を、ほぼ無施肥で栽培し、土壌中の過剰塩類を吸収させる手法である。
さらに、植物性有機物を施用して土壌微生物を活性化することで、長期的にECを下げる方法もある。微生物活動が高まると土壌構造が改善され、根張りや養水分吸収能力が向上するため、高めのEC値でも作物が健全に育ちやすくなる。その結果、施肥量を減らしても生育を維持できるようになり、時間とともにEC値が自然に低下するという好循環が生まれる。
高EC圃場は「肥料過剰のリスク地帯」として避けられがちだが、逆に考えれば「無肥料でも育つ圃場」ともいえる。施肥コストの削減チャンスと捉え、微生物や有機物の力をうまく活用すれば、塩類障害のリスクを抑えつつ生産性を維持できる。こうした管理は、単にEC値を下げるだけでなく、土壌環境を持続的に改善する鍵となる。
植物に有益に働く微生物群の一般的な総称である。土壌団粒化を促進したり、病原菌との競合・拮抗作用、抗生物質産生、根圏でのホルモン様物質供給、リン酸可溶化などを通じて生育を促進する。PGPR(植物成長促進菌)や窒素固定菌、アーバスキュラー菌根菌(AM菌)も有名であるが、ただの菌、無名の菌も大変重要な働きをしているいる。特定の菌種が重要というより、多種多様な種が非常に豊富に存在していることがより重要である。(微生物多様性)
堆肥や緑肥の施用、過剰施肥の回避、過湿を避ける物理性改善により、微生物多様性が維持される。土壌消毒後は有機物補給や菌力アップの施用などで、早期の土壌善玉菌の回復を図ることが重要な視点である。
土壌に生息する細菌・糸状菌・放線菌・原生動物・藻類などの総体である。有機物の分解、無機化、窒素固定、硝化・脱窒、リン酸溶解、保肥力(CEC)の向上、病原抑止などの機能を担い、土壌マイクロバイオームとして物理性・化学性と相互作用する。物理性の改善とは、土壌団粒化に代表されるような、通気性や保水性などを改善することで、これは土壌微生物の働きが非常に大きい。
過湿、低酸素、過剰施肥や農薬多用は群集構造を劣化させる可能性が高い。堆肥、緑肥、有機物等は少量でも毎年継続的に施用したい。
施肥設計や土壌改良の出発点となる重要な数値群を指す。一般的に測定される項目は、pH(H₂O)、EC(電気伝導度)、有効態リン酸、交換性カリウム(K)・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)、陽イオン交換容量(CEC)、腐植含量、可給態微量要素(ホウ素、マンガン、亜鉛、銅など)である。
分析結果は、作物ごとの適正範囲や生育段階、生育状況に照らし合わせて解釈し、石灰必要量や基肥・追肥の設計に反映する。ただし、土壌採取の方法・時期・場所により結果が変動し、分析手法によっても数値が異なる場合があるため、単回の結果に過信は禁物である。
最も有効なのは、栽培終期または作付け前に同一圃場の定点から土壌を採取し、年次や作期ごとに時系列で比較する方法である。これにより、長期的な土壌の状態変化を把握し、改善策を講じやすくなる。
な行
夏季に施す肥料で、果樹や多年生作物では樹勢維持と花芽分化の基盤を整える位置づけである。
乳酸菌は、グラム陽性の通性嫌気性または偏性嫌気性細菌で、糖類を分解して乳酸を主要代謝産物として生成する菌群の総称である。代表的な属として、桿菌であるラクトバチルス属(乳酸桿菌)や、球菌であるラクトコッカス属やペディオコッカス属、エンテロコッカス属(乳酸球菌)が挙げられる。代謝様式によってホモ型乳酸菌(例:ブルガリア菌)は乳酸のみを生成し、ヘテロ型乳酸菌(例:ラクトバチルス・ブレビス(通称「ラブレ菌」))は乳酸に加えて酢酸やエタノールなども生成する。ビフィズス菌は放線菌綱のBifidobacterium属に属する偏性嫌気性細菌で、系統的には乳酸菌とは異なるが、乳酸を多く生成するため便宜的に乳酸菌の一種として扱われることもある。
乳酸菌は発酵食品や腸内細菌として広く知られ、ヨーグルト、チーズ、漬物などに利用される。ビフィズス菌やラクトバチルス属菌は腸内環境改善や免疫機能向上に寄与する「善玉菌」として重要であり、食品において「腸内環境改善」や「免疫力向上」を謳う製品の多くは、生菌または死菌の形で乳酸菌を含む。乳酸菌はセルロースやリグニンなど難分解性有機物を分解する酵素をほとんど持たず、可溶性糖やデンプンなど限られた基質しか利用できないため、有機物分解は進みにくい。このため、漬物では素材の形状を保ったまま、塩分やうま味を浸透させることが可能である。
人や動物において、乳酸菌は共生微生物として重要な役割を担う。出生時または出生直後に母親から受け継がれる乳酸菌は、子の健康な成長に不可欠であり、この母子間の微生物伝達は生物学的にも興味深い現象である。
植物生産分野では、乳酸菌は発酵過程で生成される有機酸、アミノ酸、ビタミン類などを含む有用発酵液として利用される。2000年頃に注目された有用微生物群(EM菌)にも複数種の乳酸菌が含まれ、土壌改良、植物の生育促進、病害虫抑制などに活用された。また、通性嫌気性の特性を利用し、嫌気発酵によるボカシ肥の製造にも利用される。
乳酸菌はpHを低下させて有機物の腐敗を防ぎ、有機酸による病原菌抑制や発根促進などの作用が期待される。この性質は植物残渣の安全な鋤き込みや生ごみ資源化にも応用される。ただし、乳酸菌は土壌中で長期的に増殖・定着することが難しく、直接的な生育促進や病害抑制効果は限定的である。さらに、乳酸菌が土壌中で大量に活動できる環境では、急激なpH低下が根の呼吸阻害やアルミニウム溶出などを引き起こし、植物生育を阻害する可能性がある。したがって、乳酸菌資材は菌そのものの作用ではなく、その発酵生成物の効果に着目して活用するのが望ましい。
は行
グラム陽性の芽胞形成細菌で、耐熱性と環境適応力が高い。Bacillus subtilisなどは病原菌抑制や植物生長促進に寄与するPGPRとして利用される。抗菌物質産生、栄養吸収促進、根圏定着性の高さが特徴で、農業用微生物資材に広く応用される。
発酵リン酸とは、リン鉱石や骨粉などのリン酸源を微生物の働きで発酵・分解し、植物が吸収しやすい形に変えた資材である。化学的な処理を用いず、発酵という自然なプロセスによって製造されるため、環境への負荷が少なく、有機農業でも利用されている。
発酵の過程では、微生物が有機酸や酵素を生産し、難溶性のリン酸を水に溶けやすい形(クエン酸可溶性など)へと変換する。これにより、土壌中のリン酸の可給性が向上し、作物の初期生育や根の発達、花芽形成、果実肥大などを効果的に支援する。
発酵リン酸は、化学肥料に比べてリン酸の吸収効率が高く、効果が持続しやすい特徴がある。また、土壌中に過剰に蓄積しにくく、土壌微生物との相性も良好であるため、健全な土壌環境の維持にも貢献する。
春肥は、早春から夏にかけて、作物に施す肥料を指す。
pH(ピーエイチ)は、水溶液中の水素イオン濃度を示す指標であり、数値が低いほど酸性、高いほどアルカリ性を表す。農業では作物ごとに最適なpHがあり、多くの栽培作物ではおおむね6.5前後が標準的な適正値とされる。土壌pHは植物の養分吸収に大きく関わり、適正範囲を外れると特定の養分が過剰または欠乏しやすくなる。
土壌pHの分析方法には、乾燥させた土壌を採取し、純水(H₂O)または1モル塩化カリウム溶液(KCl)で2.5~5倍に希釈・懸濁し、pH計で測定する方法がある。H₂O測定は実際の土壌水分条件に近く、KCl測定は土壌の交換性水素イオン量を反映しやすく、一般にH₂O測定値よりやや低くなる傾向がある。
pHを上げるには、石灰資材(炭酸カルシウム、消石灰、ドロマイト、有機石灰など)やスラグ肥料の施用が一般的であり、pHを下げるには硫黄粉末、硫酸第一鉄、生理的酸性肥料(硫安など)を用いる。調整後は過剰な変動を避けるため、施用量や施用時期を慎重に管理することが重要である。
また、灌漑水のpHも作物生育に影響を及ぼす場合がある。高pHの水は特に鉄、マンガン、亜鉛などの微量要素欠乏を誘発しやすく、低pHの水はアルミニウムやマンガン溶出による毒性を招くことがある。したがって、水質分析を行い、必要に応じて酸(リン酸、硫酸、クエン酸など)やアルカリ剤(水酸化カリウムなど)で適正範囲に調整することが望ましい。
微生物資材とは、農業において有用な微生物または微生物群を活用することで、作物の健全な生育を支援し、土壌や環境の改善を図るための資材である。主な用途としては、養分供給、病害の抑制、植物のストレス耐性の向上に加え、土壌物理性の改善や土壌生態系の構築などが挙げられる。これらの資材に含まれる微生物には、自然界に広く分布する土着菌や有用菌が多く、バチルス属、トリコデルマ属、リゾビウム属、放線菌、酵母、光合成細菌、乳酸菌、菌根菌などが代表例である。
微生物の代謝活動によって生成される多糖類、有機酸、菌糸などは、土壌粒子間の結合を促し、団粒構造の形成を助ける。これにより、通気性・保水性・排水性のバランスが改善され、根が張りやすい物理的環境が整えられる。
さらに、微生物資材の施用によって土壌中の微生物多様性が高まり、土壌生態系のバランスが再構築される。微生物を捕食する有益な原生動物や自活性線虫が増加し、それに伴って多様な昆虫や小動物も土壌中で活動するようになる。これらの土壌動物群は、分解、混和、団粒化といった土壌生成プロセスに関与し、植物の生育に適した環境を形成する。
また、有用菌と病原菌との間に競合環境が生まれることで、病害の発生リスクが軽減される。加えて、菌根菌・窒素固定菌・硝化菌などの共生的微生物との相互作用により、植物の養分吸収能力が向上する。
良好な微生物資材とは、これらの機能をすべて備えており、かつ効果的で、使いやすく、経済的であることが求められる。微生物資材は、単なる肥料の代替手段ではなく、土壌という生態系を健全に再構築し、持続可能な農業の基盤を支える重要な資材である。有機栽培はもとより、化学肥料や農薬を活用する現代農業において偏りがちな土壌を蘇らせるうえでも、重要な役割を担っている。
土壌中の微生物相(土壌微生物相)は、土壌中に存在する細菌、放線菌、糸状菌(カビ)、藻類、原生動物などの様々な種類の微生物の集合体を指す。
土壌中の有機物は、微生物によって分解され、微生物の死骸や排泄物といったアミノ酸や糖類などの有機物も他の微生物の栄養源となり、生長や増殖に活用される。一部の微生物は窒素固定能力を持ち、他の微生物や植物に窒素を供給する。放線菌やバチルス菌などの微生物は、病原菌を抑制する働きを持つ。
これらの微生物相の多様性と相互作用は、土壌生態系の栄養循環と持続可能性において重要な役割を果たす。
肥料とは、植物の健全な生育を促すために土壌に施用する資材であり、植物が必要とする栄養素を供給する役割を担う。主な成分は窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の三要素で、これらは「肥料の三要素」と呼ばれる。加えて、カルシウム、マグネシウム、硫黄といった中量要素や、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅、モリブデンなどの微量要素も、作物の健全な生育において欠かせない。
肥料は大きく分けて、化学的に合成された無機肥料(化成肥料)と、有機物を原料とする有機肥料に分類される。無機肥料は成分が安定しており即効性に優れる。一方、有機肥料は堆肥、油かす、魚粉、鶏ふんなどを原料とし、土壌中の微生物の働きによってゆっくりと分解・吸収されるため、持続的な栄養供給と土壌改良効果を併せ持つ。
肥料の選定や施用方法は、作物の種類、土壌の性質、生育ステージ、気象条件などに応じて適切に調整する必要がある。過剰施用は環境汚染や作物障害の原因となるため、施肥設計や土壌診断に基づいた適正施肥が求められる。
適切な施肥設計では、作物の収穫に必要な養分量を見積もった上で、土壌分析や生育状況を参考にしながら、降水量や土壌特性も考慮して決定する。一般に、過剰な施肥は病害虫を招き、結果的に収穫量を落とすことも多い。地力の高い土壌では、少ない肥料でも十分な収穫と品質が得られるものである。肥料に頼りすぎず、地力そのものを高めることが、農業経営において重要な視点である。
放線菌とは、細菌の一種でありながら糸状菌(カビ)に似た菌糸状の形態を持つ微生物の総称で、主に土壌や腐植質、堆肥などに広く分布している。分類学的にはグラム陽性細菌に属し、分岐した菌糸を形成して成熟すると胞子を作る。代表的な属はストレプトマイセス(Streptomyces)で、土壌特有の香りであるゲオスミン(ジオスミン)(geosmin)を生成することでも知られている。
放線菌は有機物の分解に非常に優れ、セルロースやキチン、リグニンなどの難分解性有機物を分解する多様な酵素を産生する。その活動は土壌中の有機物循環を促進し、腐植の形成にも寄与する。さらに、分解によって生じた多糖類や有機酸は土壌粒子を結び付け、団粒構造を形成するため、土壌の保水性や通気性の改善にもつながる。
また、多くの放線菌は病原菌や害虫に対する拮抗作用を持つ。抗生物質や抗真菌物質の産生によってフザリウムやリゾクトニアなどの土壌病害菌を抑制するほか、一部の種はセンチュウ(線虫)の活動を阻害する物質を生成し、被害軽減に役立つとされる。さらに、植物の根圏に定着して代謝物やシグナル分子を供給し、植物の免疫系を活性化して病害抵抗性を高める作用も報告されている。
このように放線菌は、有機物分解、土壌の団粒化促進、病害や線虫被害の抑制、そして植物免疫力の強化といった多面的な機能を持ち、土壌の健全性と持続的農業の実現において極めて重要な役割を果たしている。
ぼかしとは、有機質肥料をあらかじめ発酵・分解させたもので、一般的な未発酵の有機肥料よりも病害が発生しにくく、即効性が高いのが特徴である。原料には米ぬか、油かす、魚かす、骨粉、草木灰、家畜ふんなどがよく用いられ、微生物の働きによって有機物が部分的に分解されることで、施用後すぐに作物が吸収できる形の栄養分(アミノ酸、アンモニア態窒素、有機酸など)が増加する。これにより肥効の立ち上がりが早く、根や葉の初期生育を促進しやすい。
さらに、発酵により原料中の有機物が安定化し、悪臭や病原菌のリスクが低減するほか、土壌微生物相の活性化によって土壌の団粒化や保水性・通気性の向上、病害や線虫被害の抑制、植物の免疫力強化など、多面的な効果も期待できる。
ぼかしには好気性ぼかしと嫌気性ぼかしがある。好気性ぼかしは空気を供給しながら発酵させるため高温になりやすく、雑草種子や病原菌の死滅効果が見込める。肥料効果も高く、微生物が豊富で土壌の肥沃化にも貢献する。一方、嫌気性ぼかしは密閉状態で酸素を遮断し、乳酸菌や酵母など嫌気性微生物の働きで低温発酵させるため、アミノ酸や有機酸が豊富に残りやすい。ただし、雑草種子や病原菌が残存する可能性が高く、製造には専門的な技術と設備が必要となる。
特に、リン酸を含む原料を好気発酵によってぼかし化すると肥効が高まり、この作用は軽視できない。なお、経験の浅い人が嫌気性ぼかしを作ろうとしても、仕込みや保管環境が空気に触れやすい場合が多く、結果的に好気発酵が進み、目的と異なるものになってしまう例も少なくない。目的や原料特性を理解し、適切な方法で製造することが重要である。
保肥力(ほひりょく)とは、土壌が窒素、リン酸、カリウムなどの主要栄養素やカルシウム、マグネシウムなどの陽イオンを保持し、作物に徐々に供給する能力を指す。保肥力が高い土壌では、少ない肥料投入でも植物が効率的に生育し、作物の品質向上も期待できるため、土づくりにおいて重要な指標となる。
保肥力は主に、有機物や微生物が豊富な土壌環境によって支えられる。有機物や微生物は、肥料成分を吸着・保持したり、自らの体内に取り込むことで、養分の溶脱(流亡)を抑える役割を果たす。
保肥力の一側面を数値で表す指標として、陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity、シー・イー・シー)がある。CECはカリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの陽イオンを保持する能力を示し、土壌のミネラル保持力の目安といえる。単位は「ミリ当量毎100グラム」(meq/100g、読み:ミリイクイバレント・パー・ひゃくグラム)が国際的にも多く用いられる。日本の農地土壌では、おおむね30meq/100g程度が目標値とされる。
CECを高めるには、有機物の施用によって土壌コロイド(粘土鉱物や腐植質微粒子)を増やすことが有効である。これにより陽イオン保持力が向上し、さらに有機物は土壌微生物の増殖や活性化を促進して、養分の鉱化や有機態からの供給を円滑にする。したがって、保肥力の向上にはCECの改善と有機物の適切な管理が両輪となり、作物の安定生産と肥料利用効率の向上に寄与する。
ま行
元肥(読み方:もとごえ、もとひ)とは、作物を植え付ける前にあらかじめ土壌に施す肥料のことで、栽培初期から生育全般にわたって必要な栄養を土中に確保する役割を持つ。主に窒素、リン酸、カリウムの三要素に加え、カルシウムやマグネシウム、微量要素をバランスよく含む肥料が用いられ、耕起や植え付け前の土づくり段階で土に混和される。施用量や成分比は作物の種類、栽培期間、土壌の養分状態によって異なり、特に長期栽培の果菜類や多年性作物では全期間の養分供給源として重要である。
肥効は地温や降水量により大きく左右されるため、元肥の施用時期と量を調整することが求められる。一般的に春から夏は少なめでも効果が出やすく、秋から冬はやや多めの施用が必要とされる。ただし近年の温暖化傾向により、秋植え作物では元肥を省略または減量し、追肥で調整する栽培法も増えている。
施肥設計は土壌分析に基づくことが重要で、過剰な施肥は植物の生育障害や養分流亡の原因となるうえ、施用後に取り除くことはできないため、慎重な判断が求められる。元肥には有機質肥料、化成肥料、緩効性肥料など多様な種類があり、それぞれ溶出速度や肥効持続期間が異なるため、作物特性や土壌条件に適した肥料を選択することが望ましい。
や行
有機酸とは、カルボキシル基(-COOH)などの酸性基を有する有機化合物であり、酢酸やクエン酸、リンゴ酸といった低分子有機酸から、フルボ酸のような高分子有機酸までを含む。広義には酪酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸も含まれるが、農業分野で用いられる文脈では、短鎖脂肪酸を除外して扱う場合が多い。有機酸は、植物の代謝や土壌における養分循環において重要な役割を果たす。
植物の根からは「根酸」と呼ばれる有機酸が滲出され、リンや鉄など土壌中で不溶化しやすい養分を溶解し、吸収可能な形に変える。また、根圏に生息する有用微生物の活動を促進し、根の周囲環境を整えることで、養分利用効率を高める。
植物体内では、有機酸はエネルギー代謝の中心であるクエン酸サイクル(TCAサイクル)の中間産物として生成される。クエン酸やリンゴ酸は、エネルギー供給のみならず、イオンバランスの調整や金属イオンのキレート化にも関与する。さらに、特定の有機酸には機能的効果があり、例えば酢酸は高温や乾燥といった環境ストレスに対する植物の耐性向上効果が知られている。フルボ酸は養分吸収の促進、pHの緩衝作用、微量元素の可溶化など、多面的な機能が注目されている。
植物に吸収されやすい形態の鉄のこと。土壌中に鉄(酸化鉄)は豊富に存在するが、難溶性のため植物には吸収されない。しかし、植物の根や微生物が分泌する有機酸が鉄と結合して有機酸鉄になることで鉄がキレート化される。キレート化された有機酸鉄は、水に溶けやすくなり、植物の根により効果的に吸収される。
有機肥料とは、動植物などの生物由来の原料を主体として作られた肥料の総称で、化学的には主に炭素を含む有機化合物を多く含むことが特徴である。原料には、油かす、魚かす、骨粉、米ぬか、家畜ふん堆肥、落ち葉堆肥などが用いられ、これらは微生物による分解を経て作物に利用可能な養分となる。
農業分野では、有機肥料は単なる養分供給源としてだけでなく、土壌中の有機物を補充して団粒構造を形成し、保水性・通気性・排水性のバランスを改善する役割を持つ。また、土壌微生物相を豊かにし、多様な微生物の活動を活発化させることで、病害抑制や根圏環境の改善にもつながる。
無機質肥料(化学肥料)に比べて養分の溶出が緩やかで持続性があり、環境負荷が小さい一方、即効性には劣るため、作物や土壌の状態に応じて計画的に施用することが重要である。有機JAS規格では使用できる原料や加工方法に一定の基準が設けられており、有機JASにおいてはその遵守が求められる。
代表的な有機肥料の例として、油かす(高窒素で花や葉の生育促進)、魚かす(リン・窒素が豊富で果実肥大に有効)、骨粉(リン酸供給源で根や花芽形成を促す)、米ぬか(微生物活性化・土壌改良効果)、家畜ふん堆肥(有機物と多様な養分を補給)が挙げられる。これらを適切に組み合わせることで、持続的で健全な土壌環境と作物生産を実現できる。
有機物とは、化学的には主に炭素を含む化合物で構成される物質を指し(ただし炭酸塩や一酸化炭素などの例外を除く)、炭素骨格を持つ分子から成ることが特徴である。農業分野では、この化学的定義を踏まえつつも、より広義に「生物由来のもの」や「自然界に存在するもの」という意味で用いられることが多い。農地に投入される有機物は、土壌の物理性・化学性・生物性を改善し、肥沃度を高める重要な役割を持つ。
農業現場で利用される代表的な有機物には、堆肥(家畜ふん堆肥、落ち葉堆肥など)、稲わら・麦わら、緑肥作物(クローバー、レンゲ、ソルゴーなど)、油かす、魚かす、米ぬかなどがある。堆肥は微生物分解により緩やかに養分を供給し、土壌構造を改善する効果が大きい。わらや緑肥は土壌中で有機物を補いながら微生物相を活性化し、保水性や通気性を向上させる。油かすや魚かすは窒素やリンを多く含み、特に作物の初期生育を促進する効果がある。米ぬかは微生物の活動を活発化させ、有機物分解や団粒構造の形成に寄与する。
このように、有機物は単なる養分供給源としてだけでなく、土壌環境全体を改善し、持続的な作物生産を支える基盤として極めて重要な役割を担っている。利用する際は、その種類や性質、分解速度、養分バランスを考慮して計画的に施用することが望ましい。
ようりん(熔成リン肥)は、リン酸供給を目的とした難溶性リン肥料である。リン鉱石、珪石、石灰石、マグネシウム鉱石などを高温で溶融し、急冷・粉砕して製造される。水にはほとんど溶けないが、クエン酸や弱酸には溶解しやすく、酸性土壌では土壌酸や根から滲出する有機酸(クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸など)によって徐々に溶解し、リン酸を長期間にわたり供給できる。この性質から、茶園、果樹園、牧草地など、長期栽培の作物や酸性土壌に適した肥料として利用されている。
さらに、ようりんには石灰やマグネシウムも含まれるため、酸性土壌のpH矯正や土壌改良にも寄与する。一方、中性からアルカリ性の土壌では溶解が遅く、効果が現れにくい。また、供給されたリン酸は土壌中のアルミニウムや鉄と結合しやすく、その結果、植物による吸収率が低下する傾向がある。
ら行
緑肥は、栽培した植物を開花期前後に鋤き込み、土壌にすき込んで肥料成分や有機物を供給する農法である。マメ科作物やイネ科牧草が代表的で、窒素固定や土壌構造改善に寄与する。土壌侵食防止や雑草抑制効果もあり、化学肥料使用量の削減や土壌生物多様性の向上にも貢献する。環境保全型農業の実践において重要な役割を担う技術である。
リン酸(H₃PO₄)は、植物の生殖成長(花芽形成、開花、結実)、根の発達、エネルギー代謝(ATP・ADP合成)などに不可欠な栄養素である。特にマグネシウム(Mg)と密接な関係を持ち、リン酸はマグネシウムとセットで吸収される傾向があり、また植物体内でリン酸が正常に機能するためにはマグネシウムが不可欠である。
肥料取締法や土壌分析では、リン酸は酸化リン(P₂O₅)として表示され、この形で成分量や施肥量が管理されている。リン酸は土壌中でアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)などの金属イオンと結合して難溶化しやすく、酸性土壌では鉄・アルミニウムとの結合、中性〜アルカリ性土壌ではカルシウムとの結合が生じて吸収効率が低下する。
過剰なリン酸施用は亜鉛、鉄、マンガン、銅などの微量要素欠乏を招く恐れがあるため、施肥量には注意が必要である。発酵リン酸は、微生物発酵によって生成される有機酸や酵素の作用によりリン酸が有機酸塩やキレート型で存在するため、土壌中での難溶化が抑制されやすく、可給性が高い。これにより根圏での吸収効率が向上し、副産物として生成されるアミノ酸や有機酸が土壌微生物の活性化や根の伸長促進にも寄与する。
リン酸鉄は、リン酸と鉄から成る化合物である。農業分野では、土壌pHを下げるpH下降資材や、ナメクジなどの害虫防除資材として利用される。また、土壌中ではリン酸と鉄が結合して難溶性のリン酸鉄となることが知られており、施用したリン酸の多くは、土壌中の鉄と結合して難溶化する。