農業用語集(植物生理)

あ行

アレロパシー
あれろぱしー

アレロパシー(Allelopathy)とは、植物が主に土壌中に放出する天然の化学物質によって、他の植物が生育しにくくなる現象をさす。アレロパシーは、ある植物種が群落を形成するのに役立っているとされ、セイタカアワダチソウやマリーゴールド、ヒマワリなどが有名である。作物ではアスパラガスのアレロパシーがよく見られる。アレロパシー物質がたまってくると、他の植物だけではなく、自身の成長も抑制してしまうため、土壌微生物を増やしたり、水はけを良くするなどして、アレロパシー物質の蓄積が起こりにくくすることが対策として考えられる。

オーキシン
おーきしん

オーキシンは植物体内で生成される自然な植物ホルモンで、主に植物の尖端部分、特に若い葉や花芽で生成される。また種子や花、果実などの組織でも生成される。インドール酢酸(IAA)は、最も一般的な自然のオーキシンである。オーキシンは生成後、細胞間を移動し、植物の成長(細胞の伸張)と発達を調節する。オーキシンは光や重力を感知し、光の当たらない方へ、重力(下方)方向へと移動する性質を持っている。特に重力方向(下方)への移動は顕著であり、根の成長を促進する。
オーキシンはその濃度の変化によって働きが変わる性質がある。例えば、植物が光の方向に向かって伸びる(曲がる)現象(向光性)は、オーキシンが茎の光の当たらない側へ移動し、その濃度が高まり細胞が伸張することによって実現されている。また、頂芽優勢(アピカルドミナンス)という現象はオーキシンが先端から生成され、それが下方へ転流することにより、側枝の成長点部分のオーキシン濃度が高まるため、側枝の成長が抑制される現象である。そのため、摘心する(頂芽を取り除く)と、オーキシンの生成量が減少し、その下部のオーキシン濃度が低下する。これによって、側枝(脇芽)の発生、成長が促進される。また、繁茂した植物では、葉から多量なオーキシンが生成され、それが根に転流するため、オーキシン濃度が高まり根の成長を抑制していることがある。そのため、そのような繁茂した植物を剪定し、成長点を減らすと、根のオーキシン濃度が低下するため、根の成長が促進される。
オーキシンは植物は自ら生成しているが、根圏微生物にもそれを産生するものがあり、微生物が根の成長促進に大きく関与している理由の一つと考えられている。また人工的に生成されたオーキシンもあり、農業現場でホルモン剤として使用されている。
オーキシンの生成と転流の原理を理解し、それを利用することで、植物の生長をコントロールし、花付きや実付き、果実の品質を向上させることができる。

晩生
おくて・ばんせい

晩生とは、品種や作型の成熟期が遅いタイプを指す。栽培期間が長く、開花から収穫までの生育期間も長いため、味や品質に優れた品種が多い。また、収穫時期を遅らせることで出荷の調整やリスク分散にも役立つ。

一方で、収量が伸びにくい品種が多いことや、果樹などの永年作物では樹勢の回復が遅れ、翌年の花芽形成や着果が不安定になることがある。そのため、より丁寧な土づくりや施肥管理が求められる。

か行

果梗枝
かこうし

果実を直接支えている枝で、枝や茎から分岐して伸びる細長い枝のこと。

活着
かっちゃく

移植した植物や接木、挿し木などが、新しい植え替え場所で根付き、生長を続けることを指す。活着不良は、多くの農業現場で発生しており、土の物理性が悪い場合(土塊がごろごろしているなど)や化学性が悪い場合(pH、窒素過多など)、水不足、高温、低温、根量の不足、病原菌の発生、などの原因が活着を阻害する。
ほとんどの作物で、活着をスムーズにすることが初期生育の最重要ポイントである。初期生育の差が、全体収量の差になることが多いため、定植時に微生物資材や発根促進剤を利用し、活着促進する価値がある。

さ行

サイトカイニン
さいとかいにん

サイトカイニンとは、植物の細胞分裂を促進し、成長や老化制御に関与する植物ホルモンである。主に根で合成され、木部(キシレム)を通じて茎や葉に移動するが、葉で合成されたものは師部(フロエム)を介して他の部位に輸送される。オーキシンとは拮抗・相乗的に作用し、シュートと根の成長バランスを調整する。アブシジン酸とは老化を巡って拮抗し、ジベレリンとは果実肥大や伸長成長で相乗的に働く。農業では、ベンジルアデニン(BA)を有効成分とする「サイカイン」や「フルメット液剤」がサイトカイニン剤として利用されるほか、「ビーエー剤」「プレリュード液剤」などサイトカイニン様資材もある。「海王」や「タスケルプ!」などの海藻抽出液にもサイトカイニン様活性を持つ成分が含まれ、バイオスティミュラントとして活用される。

植物酵素
しょくぶつこうそ

植物酵素とは、厳密には植物内で生産される酵素の総称であり、光合成や呼吸、成長、ストレス応答などに関与する。代表的なものに、デンプンや糖を分解するアミラーゼやインベルターゼ、細胞壁の代謝に関与するセルラーゼやペクチナーゼ、ホルモン合成に関与するACCオキシダーゼ(エチレン合成)やオーキシナーゼ(オーキシン分解)などがある。一方、農業では「植物酵素資材」として、天恵緑汁に代表される植物を原料とする植物エキスや、植物と糖を原料とした微生物発酵培養物を指す場合が多い。これらには、各種有機物やアミノ酸に加え、植物や微生物由来の酵素、植物ホルモン様物質、その他の有益な栄養分が含まれる。葉面散布や土壌施用によって植物の生育促進や生理活性の向上、病害虫抵抗性の強化を目的に利用される。

生殖生長
せいしょくせいちょう

生殖成長とは栄養周期説による植物のライフステージを表す言葉。栄養周期説は、20世紀初頭に日本の農学者によって提唱され、植物の成長が栄養生長と生殖生長の周期的な移行によって制御されるという概念を示した。この理論は、施肥や栽培管理の指針として重要視され、現在の作物生理学にも影響を与えている。

栄養生長は、葉や茎、根の発達を中心とした成長段階であり、光合成能力を向上させ、炭水化物や各種養分の貯蔵を進める。この時期には、特に窒素が必要とされ、根の成長を支えるカルシウムやマグネシウムも重要となる。適切な栄養供給によって十分な光合成が行われ、糖やデンプンなどのエネルギー源が蓄積されると、生殖生長への移行が促される。

生殖生長では、花芽の形成、開花、結実が進行し、植物はエネルギーを生殖器官へと集約する。リン酸は花や種子の発達に不可欠であり、カリウムは水分調整や糖の移動を助け、果実肥大や品質向上に寄与する。ホウ素などの微量要素も生殖器官の発達に関与し、特に受粉や受精を安定させるために重要となる。

この移行はホルモンバランスの変化によって制御される。栄養生長期にはオーキシンやジベレリンが優勢であり、細胞分裂や伸長が促される。生殖生長へ移行する際には、エチレンの分泌が増え、花芽形成が進む。果実の肥大期にはジベレリンとサイトカイニンが作用し、成熟が進むにつれてアブシジン酸の影響が強まる。

作物の種類によって栄養生長と生殖生長の関係は異なり、イネやカボチャなどの一回収穫型の作物では、栄養生長から生殖生長へと明確に移行する。一方で、トマトやキュウリのように長期間収穫する作物では、両者が並行して進むため、生育バランスの管理が必要となる。果樹では一般的には結実期(春)を交代期として肥大期以降を生殖生長期と考えている。また、樹体のC/N比が花芽分化や着花、結実に影響しているため、適切な栄養管理と樹勢管理により、生殖生長への移行を円滑にし、収量や品質の向上につなげることができる。摘心や芽かき、摘果、水管理などの作業も、生殖生長を促進し、安定した生産を支える重要な要素となる。

生理落果
せいりらっか

生理落果は、果実への栄養供給が不足することで発生する。開花から着果までの期間に、光合成が不足したり、茎葉と競合したりすることで炭水化物(光合成産物)の供給が不足することや、ホルモンバランスの変化が生理落果の直接的な要因となる。窒素が優先して効くことで、茎葉の生長が著しく、それにより生理落果する状況を「つるぼけ」ということも多い。適切な窒素量を施用することや、果実の着果・生長に重要な、カルシウムやホウ素、リン酸、微量要素などの供給が、生理落果を軽減する。

また、芽かき(不要な芽の除去)や、早期の摘果作業により、優良な果実の生理落果を防ぐことができる。

その他の対策として、適切な、日照条件の改善、ハウス内の温度管理、水管理、ホルモン剤(ジベレリンやオーキシン)の散布、マルチ資材の利用による土壌水分の安定化などが挙げられる。

果樹の場合は、収穫後から次の開花期までの管理により、樹体内の養分を高めておくことが重要であり、収穫後のお礼肥や葉面散布による樹勢回復が重要な対策となる。

た行

窒素同化
ちっそどうか

窒素同化とは、植物が無機態窒素(硝酸態窒素NO₃⁻やアンモニア態窒素NH₄⁺)を吸収し、有機態窒素(アミノ酸、タンパク質、核酸など)へと変換する過程を指す。これは植物の成長や生理機能に不可欠なプロセスであり、主に根と葉で行われる。

根では、吸収した硝酸態窒素(NO₃⁻)は酵素の働きにより亜硝酸(NO₂⁻)を経てアンモニア(NH₃)へと還元される。さらに、アンモニアはグルタミン合成酵素(GS)やグルタミン酸合成酵素(GOGAT)の働きによってグルタミンやグルタミン酸に変換され、アミノ酸合成の出発点となる。一方、葉では光合成によって得られたエネルギーを利用して、窒素の同化がさらに進行する。

植物内で合成されたアミノ酸は、タンパク質や酵素、クロロフィル、核酸などの構成要素として利用され、成長や光合成、代謝活動を支える。特にクロロフィルの合成には窒素が不可欠であり、不足すると葉の黄化や生育不良が生じる。

窒素同化の効率は、窒素の供給形態、光合成の活発さ、温度、土壌pHなどの環境要因に影響を受ける。特に、過剰な硝酸態窒素の施用は、アンモニアの蓄積を引き起こし、生理障害の原因となることがある。また、硝酸態窒素はエネルギーを消費してアンモニアに還元されるため、光合成が不十分な環境では窒素同化の効率が低下しやすい。

着果ホルモン
ちゃっかほるもん

着果ホルモンとは、果実の着果を促進するために関与する植物ホルモンやそれに類似した物質の総称であり、主にオーキシン、ジベレリン、サイトカイニンが重要な役割を果たす。これらのホルモンは、花芽形成、受粉・受精、果実肥大、落果抑制などに関与し、農業では着果促進剤やバイオスティミュラントとして活用される。

植物体内でのホルモン生成は、環境条件や栄養状態に影響を受ける。オーキシンは受粉後の子房や種子で生成され、果実の成長を促す。ジベレリンは成長点や若い葉、種子内で合成され、細胞伸長を促進し、種なし果実の形成にも利用される。サイトカイニンは根で合成され、細胞分裂を促進し、果実の発育を助ける。

着果ホルモンの適切な働きには、窒素・リン酸・カルシウムのバランスが重要である。窒素が過剰になると、ジベレリンの働きが強まりすぎて着果が不安定になり、徒長やツルぼけを引き起こすことがある。また、窒素過剰はリン酸やカルシウムの吸収を阻害し、花芽形成や受粉・受精を妨げる要因となる。リン酸はATPや核酸の合成を助け、生殖生長を促進するため、適切な施用が必要である。カルシウムは細胞壁の強化に関与し、果実の品質維持に不可欠であり、不足するとチップバーンや尻腐れ症が発生しやすくなる。

着果促進のためには、適正な施肥と環境管理が求められる。受粉環境の整備、適正な水分・温湿度管理、ストレスの軽減がホルモンの生成を助け、着果率を向上させる。また、農業では、着果を補助するホルモン製剤やバイオスティミュラントが利用される。ナフタレン酢酸(NAA)、4-クロロフェノキシ酢酸(4-CPA)、ジベレリン(GA₃)、サイトカイニンを含む製剤が代表的であり、海藻エキスやアミノ酸資材、腐植酸を含む資材もホルモンの働きを補助する効果がある。

施用の際には、生育ステージや作物ごとの特性に応じた適正な濃度とタイミングを守ることが重要であり、適切な管理により安定した着果と果実品質の向上が期待できる。

登熟
とうじゅく

穀実・果実・種子、または枝が光合成で作られた同化産物を蓄積し、成熟に向かう過程。乾物率、千粒重、糖や油分、リグニン、ポリフェノールなどの含量が高まる段階である。
登熟の良否は、転流効率と光合成の持続性に左右されるため、葉面積の維持と健全な師管の機能が重要。高温はデンプン合成酵素活性の低下や夜間呼吸量の増加を招き、登熟不良の原因となる。適切な水分管理、病害虫抑制、過剰な窒素追肥の回避、ミネラル・微量要素の適正施用が良好な登熟を支える。

な行

中生
なかて・ちゅうせい

成熟期の分類で、早生と晩生の中間に位置する品種群である。

は行

品種
ひんしゅ

品種とは、植物や動物の中で特定の形質(形態、生理、生化学的特徴など)を安定して次世代に伝えることができる集団を指す。農業分野では、食味や収量、耐病性などを目的として選抜・交配を繰り返すことで作出され、農産物の品質や収穫安定に直結する重要な概念である。日本では種苗法により、登録された品種は育成者権として保護され、無断での増殖や海外持ち出しが禁止されている。近年の改正で、登録品種の海外流出防止や権利侵害対策が強化され、例えばシャインマスカット、ゆめぴりか、べにはるかなどが対象となっている。登録は農林水産省への出願から審査・公告を経て行われ、登録期間は原則25年(樹木は30年)である。

分類学上では、植物は階層的に界–門–綱–目–科(family)–属(genus)–種(species)–亜種・変種・品種(variety, cultivar)などに区分され、国際的には学名をラテン語で表記し、属名は頭文字を大文字、種小名は小文字で記す。品種名(cultivar name)は単引用符で囲み、英語では"cv."や"Cultivar"を用いる。例えばイネ(Oryza sativa L. ‘Koshihikari’)のように記載する。

交配種のうち、異系統をかけ合わせて作った一代雑種はF1(First Filial Generation)と呼ばれ、雑種強勢により収量や耐病性が高いが、次世代では形質が分離するため、自家採種には適さない。

従来は形態形質による分類が主流だったが、近年はDNA解析による分子系統学が進み、従来の分類が再編される例も多い。これにより品種識別の精度が向上し、権利保護や侵害証拠の科学的裏付けにも活用されている。品種・種苗の保護は、農業生産者の知的財産を守り、国内外での競争力を維持するために不可欠な取り組みとなっている。

BLOF理論
ぶろふりろん

BLOF理論(Bio Logical Farming理論)は、小祝政明氏が提唱した、有機農業を植物生理学や土壌学に基づいて体系化した栽培理論である。有機肥料や微生物資材の潜在能力を最大限に引き出し、作物の生理機能と土壌環境を最適化することで、収量の向上と品質の向上を同時に実現することを目的とする。健全な生育環境を確立することで病害虫の発生は最小限に抑えられ、有機栽培であっても慣行栽培を上回る成果が得られることを特徴とする。
基本的な考え方は、作物の生育に必要な栄養素を適正なバランスで供給し、土壌中の微生物群集を活性化させることで、作物本来の生産力や耐病性を高める点にある。この理論では、単に有機物を施用するだけでなく、微生物を活用して養分を作物が吸収しやすい形に変換させることや、アミノ酸やミネラルバランスの精密管理を重視する。施肥設計においては、体積法による土壌分析に基づき、主要三要素(窒素・リン酸・カリウム)に加え、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、亜鉛、鉄、マンガン、銅、モリブデンなどの微量要素を適正比率で供給する。これにより、葉緑素合成、酵素活性、光合成効率、根の伸長などの生理機能が全般的に向上する。また、アミノ酸や水溶性炭水化物などの低分子有機化合物の機能を重視しており、それらを施用することで、養分吸収や代謝が促進されることも特徴である。さらに、炭素率(C/N比)の管理や、土壌微生物の種類と機能に応じた資材の組み合わせを考慮することが推奨される。高品質な作物を得るためには、団粒構造の形成や根圏環境の安定化が不可欠であり、そのために太陽熱養生処理を導入することも技術的特長の一つである。

分けつ
ぶんけつ

イネ科の水稲や小麦、トウモロコシなどの植物の株元付近の関節から新芽が伸びて株分かれすること。分枝とも呼ばれる。

ら行

ランナー
らんなー

ランナーとは、植物が地表に伸ばす細長い匍匐茎であり、先端に新しい株を形成する繁殖器官である。イチゴやほふく性草本に多く見られ、栄養繁殖による効率的な増殖を可能にする。栽培管理では、不要なランナーを除去して養分の分散を防ぐか、苗取り用に利用するかを目的に応じて調整する。適切な管理により株の充実と収量の安定が図られる。

わ行

早生
わせ・そうせい

早生(わせ)とは、同種または同品種群の中で生育期間が短く、比較的早い時期に収穫できる性質や品種を指す。早生品種は市場への早期出荷による高価格販売や作期分散によるリスク低減に有効である。例えば、果樹や野菜では、早生系統を導入することで端境期に供給でき、収益性向上につながる。一方で、早生品種は一般に果実の品質や保存性で晩生品種に劣る場合があり、また高温や日照不足など環境条件の影響を受けやすい傾向がある。そのため、栽培計画においては早生・中生・晩生を組み合わせ、安定した供給体制を確保することが望ましい。育種や選抜では、早生化と品質・耐病性の両立が重要な課題となっている。