あ行
IPMとは、“Integrated Pest Management”の頭文字を取ったもの。作物を加害する害虫、病原菌、雑草などの有害生物を管理するために、利用可能なあらゆる防除手段を総合的に組み合わせて行う管理方法である。化学的防除、生物的防除、物理的防除、耕種的防除など、それぞれの特徴や適用条件を精査し、経済的に許容できる水準で被害を抑えつつ、人の健康や環境への影響を最小限に抑えることを目的とする。農薬は必要最小限の使用にとどめ、生態系の自然な抑制機能や天敵の働きを積極的に活用することが重視される。結果として、農業生態系のバランスを維持しながら、持続的かつ安定的な農作物の生産を可能にする手法である。
日本語訳としては、「総合防除」とか、「総合的有害生物管理」が使われおり、2005年度に農林水産省から出された関係文書では、「総合的病害虫・雑草管理」という訳が新たに使用された。国連食糧農業機関(FAO)で採用しているIPMの定義を下に引用するので参考にされたい。
FAOの定義(和訳)
『Integrated Pest Management(IPM)とは、農作物に対する有害生物制御に応用可能な全ての技術を精緻に考慮し、それらの発生増加を抑制する適切な方法を総合的に組み合わせ、農薬やその他の防除対策の実施は経済的に正当なレベルに保ちつつ、人や環境へのリスクを軽減または最小限に抑えることを意味する。IPMでは、農業生態系撹乱の可能性をより少なくし、有害生物の発生を抑える自然界の仕組みをうまく活かすことにより健全な農作物を育てることが重要視されている。』
土壌伝染性の植物病害で、感染した植物や土壌中に存在する細菌が原因で起こる。数日のうちに青いまま突然枯れてしまうことから「青枯病」と呼ばれる。トマト、ナス、ジャガイモなどのナス科に多く見られるが、生姜やタバコ、イチゴなど、その他の非常に多くの植物種で発生する。高温多湿環境で多発する。病原菌は土壌の水中を泳いで移動し、根の傷口などに集まって侵入する。ハサミなどの器具を媒介して侵入する場合もある。そして、導管の中で病原菌が増殖することにより導管が詰まり、水分の移動が妨げられ、萎凋、枯死する。原因の調査では、根の傷口がどうやってできるかを検討する必要がある。植え痛み、過湿(根の窒息)、過乾燥、肥料焼け、ネコブ線虫、カルシウム欠乏(根のチップバーン)などが原因として現場でよくみられる。
蔓延防止対策として重要なことは、土壌消毒(薬剤消毒や太陽熱消毒)の後に、生物的無防備になった土壌に、健全な微生物叢(びせいぶつそう)を速やかに回復させ、微生物同士の自然の拮抗作用(発病抑止土壌)を作ることである。また、当然ながら土壌pHの改善、土壌排水性(水はけ)の改善、窒素過多を避ける、剪定に使用するハサミの消毒やトラクター等の洗浄、抵抗性品種あるいは抵抗性の高い接木苗を選ぶことなどが有効である。果菜類の促成栽培では9~11月と3~4月の間、露地栽培では6~7月は重点管理時期で、微生物資材を活用すると良い。また、窒素の与え方として、アミノ酸態窒素は青枯病の発生を抑制する(耐病性が向上する)との研究も進んでおり、特に重点管理時期にアミノ酸態窒素を活用すると良い。
出典
- 青枯病についての解説(サンビオティック)
- ミニトマト青枯病に関する寄稿文
寄稿:生田智昭(株式会社大地のいのち〈サンビオティック〉代表取締役) - 青枯病関連研究成果(農研機構)
水田などの淡水に生息する藻類の代表。アオミドロ以外の藻類も多いが、生態が似ているためアオミドロと総称されることもある。
水田で大量発生すると、苗の倒れや水温の低下による生長抑制などの悪影響がある。アオミドロは、植物と同様に窒素やリン酸を栄養として増殖し、光合成して活力を増すので、その抑制では水中の肥料濃度を下げることが重要である。
多発する条件は、前作残渣(稲わらや裏作の野菜残渣や雑草やレンゲなど)が未分解であること、水の入れ替わりが少なく肥料分が豊富であること、富栄養化した水が流入していること、などがある。対策として、まず前作残渣を十分に分解させることが重要である。水稲の場合は、稲刈りが終わったら速やかに秋処理(稲わらと、必要な窒素成分と微生物資材を散布しすき込むこと。)を行い、稲わらを十分に分解させる。また野菜残渣や、雑草やレンゲなどを春先にすき込む場合も、早めにすき込み処理を行い、微生物資材等で分解促進することが重要である。
新芽や新梢、葉裏などに群棲して植物の汁を吸い、生育を阻害する吸汁性害虫。体長1〜4mmぐらい、体色は緑、赤、黒、黄色など種類により様々。繁殖力が旺盛で、一年中発生するが、特に春と秋に発生が目立つ。ウイルス病を媒介したり、甘い排泄物がアリを誘引することがあるため、早めに防除することが望ましい。窒素過多で発生しやすい。
土壌からアンモニアガスが発生することが原因で生じる障害で、施設栽培で発生しやすい。アンモニアガスは作物の気孔から体内に入って、細胞が酸欠して葉が黒ずんだり、黄化または白化し、萎凋または落葉する。アンモニアガス障害は、石灰質肥料を多量施用した土壌に、窒素肥料や未熟堆肥などを施用した場合にアンモニアガスが放出される。土壌のpHがアルカリ性(7.5以上)である場合に特に発生しやすい。
ある種の糸状菌(カビ)が原因の土壌伝染性の植物病害。フザリウム・オキシスポルム(オキシスポラム)種(Fusarium oxysporum)が病原菌である場合が多い。15℃以上で増殖し、25~30℃の高温多湿環境で激発する。初夏から梅雨時と初秋のころに発病しやすい。イチゴや、アブラナ科の大根やキャベツなどによく見られる病害である。(非常に珍しいが、トマトや玉葱などウイルスやファイトプラズマによる萎黄病もある。)病原菌は、土壌中の残存期間(生存期間)が長く、厚膜胞子となり4~5年以上は生存すると言われる。
症状は、葉の黄化や、葉の矮化、萎れ(萎縮・萎凋)などがあり、のちに株全体が枯死するものもある。病原菌は土壌中の胞子が発芽し、根や茎の傷口から侵入し、導管を伝って地上部へと広がっていく。隣接株へ感染する。放っておくと圃場全体に感染拡大する可能性があるため、初期対応が非常に重要である。(栽培期間中は抜き取りではなく、地上部を切除し枯死させることを推奨。)
防除対策として、育苗ポットの洗浄・殺菌、土壌pHの矯正(中性にする)、感染した株の除去や土壌消毒(薬剤、太陽熱消毒)、未熟堆肥・未熟有機物の施用を避ける、連作を避ける、水はけの改善、抵抗性の高い接木苗を選ぶことが有効である。栄養管理(施肥)においては、窒素施用量が多すぎないように注意し、無機窒素よりアミノ酸態窒素の施用が好ましい。またカルシウムやマグネシウム、リン酸等を十分に効かせ、光合成能力の向上と葉や根の細胞壁の強化が重要な対策となる。
また、かに殻などキチン質の施用や、土壌消毒後の菌力アップの施用や、定植後から栽培期間に掛けて菌力アップを活用し、土壌中の微生物生態系を構築し、病原菌が増えにくい環境を作ることが重要な対策である。
通常の気温や気候パターンから、大きくかけ離れた気象現象のこと。地球温暖化の影響で、気象変化の幅が大きくなっており、夏はこれまで極度に暑く(熱波)、冬は極度に寒い(寒波)の様な状況が生まれやすい。それに伴い、極端で局所的な豪雨、雹、竜巻や、巨大な台風の発生、大雪・継続的な寒波、干ばつなどが起こりやすくなっている。
農業においては、大雨による冠水や流亡、天候不順による日照不足、干ばつによる水不足が大きな影響を及ぼすことが多い。天候不順により光合成が不足した植物は、窒素が優先してしまい、軟弱、徒長型の生育となりやすい。そのため病害虫が止まらなくなったり、花芽が遅れたり着かない、作物の味・品質が低下してしまうなどの現象になることが多い。
このような天候不順に対応するためには、リスクのある時期には特に、過剰な窒素施肥を控え、また窒素施肥には、アミノ酸態窒素を組み込むなどして、窒素の施用方法を改善する必要がある。
ある種の糸状菌(カビ)が原因の土壌伝染性の植物病害。萎凋病、根腐萎凋病、半身萎凋病と萎凋病という名のつく病害があるが、萎凋病と根腐萎凋病の主な病原菌は、フザリウム・オキシスポルム(オキシスポラム)種(Fusarium oxysporum)であり、半身萎凋病はバーティシリウム・ダーリエ種(Verticillium dahliae)が病原菌とされる。15℃以上で増殖し、25~30℃の高温多湿環境で激発する。(根腐萎凋病は、10~20℃の低温で発生しやすい。)トマトやナスなどのナス科では重要な管理対象である。その他、ホウレンソウや菊、オクラ、大根、ネギ類、ダイズ(エダマメ)やイチゴなどに見られる病害である。珍しい例では、カラマツやヤナギなどの樹木萎凋病も報告されている。病原菌は、土壌中の残存期間(生存期間)が長く、フザリウムは厚膜胞子となり4~5年以上、バーティシリウムは小菌核となり数十年は生存すると言われる。
症状は、葉の黄化や、萎れ(萎縮・萎凋)などがあり、のちに株全体が枯死するものもある。病原菌は土壌中の胞子が発芽し、主に根や茎の傷口から侵入し、導管を伝って地上部へと広がっていく。導管や維管束を詰まらせ壊死させてゆく。隣接株へ感染する。放っておくと圃場全体に感染拡大する可能性があるため、初期対応が非常に重要である。(栽培期間中は抜き取りではなく、地上部を切除し枯死させることを推奨。)
防除対策として、育苗ポットの洗浄・殺菌、土壌pHの矯正(中性にする)、感染した株の除去や土壌消毒(薬剤、太陽熱消毒)、未熟堆肥・未熟有機物の施用を避ける、連作を避ける、水はけの改善、抵抗性の高い接木苗を選ぶことが有効である。栄養管理(施肥)においては、窒素施用量が多すぎないように注意し、無機窒素よりアミノ酸態窒素の施用が好ましい。またカルシウムやマグネシウム、リン酸等を十分に効かせ、光合成能力の向上と葉や根の細胞壁の強化が重要な対策となる。
また、かに殻などキチン質の施用や、土壌消毒後の菌力アップの施用や、定植後から栽培期間に掛けて菌力アップを活用し、土壌中の微生物生態系を構築し、病原菌が増えにくい環境を作ることが重要な対策である。
ある種の糸状菌(カビ)が原因の植物病害。葉面にうどん粉(小麦粉)を振りかけたようなカビが生えることから「うどんこ病」と呼ばれる。葉に白い粉状のカビ(白斑)が生え始め、徐々に株全体に広がって粉を振ったように真っ白になる。うどん粉病に罹病すると、植物が弱り、最終的には枯れることもある。またイチゴなどの果実にうどん粉病が付くと、商品価値がなくなるためなくなり甚大な被害を及ぼす場合がある。
カボチャ、キュウリ、メロン、ズッキーニなどのウリ科に特に多く、その他、トマト、バラ、イチゴ、マメ類や麦、さらにはリンゴやマンゴー、サルスベリなど、非常に多くの植物種に発生する。一般的に多くの糸状菌の植物病害は多湿で発生しやすいのに対し、うどんこ病は湿度が低い(乾燥した)環境下でしやすいという特徴がある。気温は、25℃程度の春~初夏、秋に発生しやすい。
うどんこ病の菌は、糸状の菌糸から成り、胞子の入った子のう殻を作る。胞子は飛散して伝染し、葉の表面で発芽し、クチクラ層や細胞壁の弱った部分に菌糸を伸ばして侵入し、葉の内部から栄養を取り出す。地面に落ちた子のう殻や、樹木に感染した菌糸は越冬し、翌年の作物に被害を及ぼすことがある。
予防するためには、湿度の調整と同時に施肥設計も重要である。窒素が効き過ぎ、徒長気味の場合に葉の防御機能が低下したときに感染しやすいため、窒素施肥を抑え、リン酸やカルシウムを効かせることが耐病性を高めることに繋がる。またケイ酸もうどん粉病対策として注目される栄養分で、イチゴやキュウリなどでは、ケイ酸加里の施肥により、うどん粉病の発生を抑制する方法が実用化されている。有機栽培においては、重曹や電解次亜塩素酸水を活用することもある。
卵菌類(主にファイトフトラ(Phytophthora)属)が原因の土壌伝染性の植物病害。卵菌類(Oomycetes)はかつては真菌類(Fungi)とされていたが、現在ではストラメノパイル(Stramenopiles)に分類される。主要な病原菌は以下の通り。
ジャガイモ、トマト: ファイトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)
ブドウ: ファイトフトラ・シネラ(Phytophthora cinnamomi)
そば: ファイトフトラ・アエラ(Phytophthora aerea)
マメ科作物(豆類): ファイトフトラ・フェーズオリ(Phytophthora phaseoli)など
サトイモ: ファイトフトラ・コロカシア(Phytophthora colocasiae)
タバコ: ファイトフトラ・ニコティアナエ(Phytophthora nicotianae)
上記の通り、疫病は、ジャガイモ、トマト、ブドウ、タバコ、バラ、サトイモなど多くの野菜や花などに見られ、時に甚大な被害となる。温暖な気温と多湿時に発生しやすく、梅雨や台風、秋の長雨の時期に多発する。
典型的な症状では、水が浸みたような褐色の病斑が葉の先に現れ、茎や果実にも広がり、腐敗して枯死する。湿度の高い環境では、白い霜状のカビを生じる。病原菌は土壌中に被害残渣とともに生存し、雨や灌水の時に水が跳ね返ることで、葉、茎、果実に付着し、病気を引き起こす。
防除対策として、感染源となる感染植物の残渣の除去や土壌消毒、連作を避ける、マルチング(水はね防止)、点滴潅水、水はけの良い圃場の整備、抵抗性品種の採用などが有効である。施肥面では窒素過剰を避け、カルシウムや微量要素により強い生育を意識することが重要である。病原菌は、細胞壁を分解する酵素を分泌し、植物組織に侵入する。カルシウム濃度が適切なレベルで維持されている場合、細胞壁はより強固になり、これらの分解酵素に対して抵抗力を持つ可能性が高まるため、吸収性の高いカルシウムの施用は特に重要である。
エリシターとは、植物の免疫システムを活性化し、防御応答を誘導する物質の総称である。微生物由来のエリシターには、キチン、キトサン、フラジェリン、エフェクター分子、リポポリサッカライド(LPS)などがあり、植物由来のエリシターには、オリゴガラクツロン酸、β-グルカン、ブラシノステロイドなどがある。これらのエリシターは、植物が病原菌や害虫の攻撃を受ける前に免疫応答を活性化し、病害耐性を向上させる働きを持つ。また、アシベンゾラル-S-メチルやプロベネゾールのように、化学合成されたエリシターもあり、農業分野で病害防除資材として利用されている。
植物がエリシターを認識すると、細胞膜上の受容体がシグナルを受け取り、サリチル酸経路やジャスモン酸経路などの防御関連のシグナル伝達が活性化する。その結果、PR(Pathogenesis-Related)タンパク質の合成、ファイトアレキシンの蓄積、細胞壁の強化、活性酸素種(ROS)の生成などの防御反応が引き起こされる。これにより、病原菌の侵入や害虫の攻撃に対する耐性が向上し、感染を未然に防ぐことができる。
バイオスティミュラント資材の中には、このような植物の免疫応答を活用したものもあり、海藻エキスやキチンキトサンなどが代表的な例である。これらの資材は、植物の防御機能を高めるだけでなく、成長促進やストレス耐性向上にも寄与し、農薬や化学肥料の削減にも貢献することが期待されている。
土壌溶液中の塩類濃度が植物の許容値を超えたときに起こる作物の生育障害のこと。土壌分析ではEC値に表される塩類濃度が高すぎる場合に発生しやすい。干拓地や降水量の少ない地域や海水による塩害など、自然環境によってもたらされるものもあるが、多くは肥料成分の残留による場合が多い。特に施設栽培(ハウス栽培)では、自然の降水によって塩類が流亡せず蓄積する傾向があるため、塩類集積を招きやすい。特に表層部分に塩類が集積する現象がある。
植物により耐塩性が異なるが大まかな目安として、EC値1.5以上では生育障害になることが多い。
EC値を上げる主要因は、硝酸イオンであり、窒素肥料の施用が主要因である。また化学肥料に含まれる硫酸イオンや塩素イオンもEC値の上昇に影響している。そのためEC値は、土壌に蓄積した肥料成分の残留を測る目安ともなる。
塩類障害を回避するためには、施肥量を減らすことや、雨に当てる、湛水処理などのほか、クリーニングクロップの栽培、また有機物施用と微生物を増やすことで対応する方法もある。
黄化葉巻病は、トマトやタバコなどの植物に影響を及ぼすウイルス性の病気である。この病気は、特定のトマト黄化カールウイルス(TYLCV)によって引き起こされる。症状としては、葉が黄色く変色し、上向きに巻き萎縮することが特徴で、やがて株全体が萎縮、成長が抑制されて、結果的に収穫量が大幅に低下する。
予防方法には、ウイルスを媒介するアブラムシの駆除、ウイルスに感染しない耐性品種の使用、ハサミ等の器具の消毒、適切な栄養管理や水管理による植物の健康維持、圃場周辺の除草、光反射マルチの活用、などが重要である。また、感染した植物を早期に取り除き、病気の拡散を防ぐことも重要である。
か行
植物に害を及ぼす昆虫や節足動物のこと。広い意味で、線虫を害虫と考える場合もある。植物を食べたり、植物の汁を吸うなどして加害し、収穫量の減少や品質の低下、ウイルスや病原菌の伝播などの問題を引き起こすことがある。アブラムシ、アザミウマ、ダニ類、コナジラミ、ヨトウムシ、ネキリムシなどが代表。
害虫は、栄養価が高く弱った植物に多く発生しやすい。つまり、窒素肥料を多く吸収し、光合成が足りず、カルシウムやリン酸などのミネラルが不足して徒長気味の生育をしている場合に発生しやすい。害虫にとっては「食べやすく」そして「おいしい」という条件がそろっているからである。
害虫が発生する条件は、それぞれであるが、個別の発生条件や環境をよく検討し、対策することが重要である。また近年では、天敵昆虫に優しい防除体系を採用したり、微生物農薬により特定の害虫を減らすことも進められており、自然の生態系バランスの中で、害虫が優先的に増殖しない管理法を検討することも検討の価値がある。
土壌からガスが発生することが原因で生じる障害で、施設栽培や水田(田んぼ)で多く発生する。畑(施設栽培)で発生する主なガス害は、亜硝酸ガスやアンモニアガスによる障害である。水田では、硫化水素やメタンなどがある。また、未熟有機物を施用した後、急激な微生物の増殖と分解が進むことで、土壌中の二酸化炭素濃度が高まり、根が酸欠になるような場合もガス害と呼ぶこともある。
根は呼吸しているため、このように根の呼吸を妨げるガスが土壌中に充満したり、またはそのようなガスの影響で酸素が不足すると、植物の生育に著しく悪影響をもたらす。また、亜硝酸ガスやアンモニアガスは、根だけではなく、地上部の葉や茎の障害(葉焼け)をもたらす。
ガスが発生する要因は、さまざまであるが、主には土壌pHの矯正、未熟有機物の施用を避ける(分解を促進する)、有機物(堆肥や有機肥料)の施用後すぐに植え付けをしない、などが対策となる。
糸状菌が原因の土壌伝染性の植物病害。キャベツやカブ、ブロッコリーなどのアブラナ科、またコムギ・オオムギなどのイネ科に多く見られる。主な病原菌は、Thanatephorus cucumeris(Rizoctonia solani )とされる。一般には高温多湿を好み、梅雨時期など多発することがある。葉の周囲から腐らせたり、地際部から株を腐らせていく特徴がある。病原菌は、土中で菌糸を伸長させ,あるいは担子胞子を飛散して蔓延する。菌核で残存し,有性世代は土壌表面あるいは植物地際部に形成される。
トマトでは、同じくリゾクトニア属(Rizoctonia solani )を原因菌とする株腐病が新たに見つかっている。収穫期に発生する青枯病に似た症状であるが、青枯れ症状より先に、地際部または地表より下部あたりに病変が現れ、褐変し、軟化、腐敗する。やがて急激に株全体が萎れ、枯れる。比較的低温で発生する病害で15~20℃が発生条件とされる。他の伝染病と違い、近隣株に直接感染拡大することはないとされるが、土壌中に病原菌が残存し、次作での蔓延を招く可能性があるため注意が必要である。リゾクトニア属による病害が、トルコギキョウにもみられる。
予防対策として、前作残渣の除去、未熟有機物を施用しない、堆肥等の施用から作付けまで最低1か月以上を確保するなど、腐生性の菌の密度を上げないことが重要である。また土壌pHを適正に矯正すること、水はけのよい圃場を整備し高畝、または浅植えにする、土壌消毒、微生物資材の活用、マルチング、抵抗性品種の選択などがある。また、カルシウム資材や酢酸資材の活用により、病害抵抗性を高めることも対策となる。
カリ欠は、カリウムが欠乏することである。土壌中のカリウム量が不足し、植物が必要とするカリウムを十分に吸収できない状態を指す。カリウムは植物の成長に必要な主要な栄養素の一つであり、その不足は植物の健康と生産性に深刻な影響を与える。
カリウムが欠乏した場合、葉の先や縁が黄色くなる、または茶色く枯れる。基本的には下葉からその症状が現れる。また、生長の遅延、根の発達不良、作物の収量や品質の低下、病害虫への抵抗力の低下などの減少がみられる。特に、きゅうり、トマト、じゃがいもなどでは、カリウム欠乏を生じやすい。
カリ欠乏が起きやすい条件は、土壌中のカリウム不足や土壌pHの低下(pH5.5以下)で起きやすい。また、土壌の物理的条件により、砂質土壌や排水性が高い土壌では、カリウムが容易に流出し不足しやすい。
カリウムの要求度が高い作物においてもカリウム不足、またはカリウム欠乏が発生しやすい。作物ごとに、どの程度のカリウムを必要とするか考慮する必要がある。たとえば、カリウムの含有量が多い「きゅうり」について考えてみる。通常きゅうりには、可食部100g中200mgのカリウムが含まれているとされる。これをもとに、1トンのきゅうりに含まれるカリウムを計算すると、その含有量は2kgである。つまり、きゅうり栽培において1トン収穫するごとに、土壌中のカリウムは2kg減っているということに配慮しなければならない。
カリウム欠乏が起きないためには、土壌pHの適正化、有機物や土壌改良資材を施用することによるCEC(陽イオン交換容量)の向上を目指し、カリウム(加里)の適切な量の計算、そして即効性と遅効性の組み合わせなどを考慮する必要がある。
カルシウムが不足し、植物の生育に支障をきたす状態になること。欠乏症状。石灰欠乏ともいう。
カルシウムは、主に細胞壁の構成成分であり、カルシウムが欠乏すると細胞が正常に作られないため、主に生長点や根など細胞分裂の著しい部分で、細胞が作られなくなり萎縮したり、成長がストップする、または矮化、退色、壊死などが発生する。代表的な欠乏症状として、トマトやピーマンの尻腐れ症(病)、イチゴのチップバーン、メロンの発酵果、白菜の芯腐れ(あんこ症)、キャベツの縁枯れ(チップバーン)、リンゴのビターピット、そら豆のしみ症、サトイモの芽つぶれ、ネギ類の葉先枯れなどがある。また、欠乏症までいかずとも、目に見えにくい形での不足症状も現場ではよく発生する。例えば、花が落ちやすい、葉先枯れや芽つぶれ、葉の縁腐れ、きゅうりの落下傘葉、立枯病などの糸状菌病害に弱い、などはカルシウムが不足している可能性がある。
カルシウムの吸収が悪くなる原因と考えられる主なものは、土壌のpH値が低い(5.5未満)こと、肥料成分のアンバランス(窒素過多やカリウムの過多)、また土壌の乾燥や過湿も、当然に根のカルシウム吸収を妨げるものである。また、気温が高く蒸散が激しい場合や、逆に通気性が悪い、または無風状態のために葉からの蒸散が極端に低い場合も発生しやすい。そのため、これらの要因を見直すことが対策として重要である。
カルシウムは、水への溶解度が非常に低いため、根からの吸収が難しい栄養素の一つである。またカルシウムは生長点での必要量が多いのに対し、生長点では葉からの蒸散が少ないため、吸い上げる力が弱く、カルシウムが供給されにくいという性質がある。そのため、根から十分に吸収できる環境(土壌pHや水分など)を整えると同時に、葉面散布により直接カルシウムを補給することも重要な技術の一つである。特に、有機酸カルシウムは水への溶解度が高く、根や葉からの吸収率が高い特徴があり、近年では活用される場面が増えている。
干ばつは、通常の降雨量よりも著しく少ない雨量が長期間続くこと。この状態は、土壌の水分不足、地下水位の低下、そして農作物や植生への多大な影響が引き起こされる。気候の温暖化により、夏でも冬でも干ばつに見舞われるリスクが高まっている。
最近の研究により、酢酸が植物の乾燥耐性を向上させる可能性が示されている。酢酸は植物のストレス応答を活性化し、乾燥条件下でも生存率を高めることが報告されており、適切な濃度で酢酸を使用することにより、干ばつ時の生育をサポートする手段として考えられている。
菌核病は、糸状菌(カビ)が原因の土壌伝染性の植物病害である。多犯性で、キャベツやブロッコリー、レタスなどの葉菜類、キュウリ、トマト、ナス、ピーマンなどの果菜類、さらにネギ類(ネギ黒腐れ菌核病、ネギ小菌核病)にも広く感染する。病原菌はスクレロチニア・スクレロチオルム(Sclerotinia sclerotiorum)やその近縁種であり、植物の茎や葉、果実に白い綿状の菌糸を形成し、その後黒い菌核を形成する。これらの菌核は土壌中で数年間生存し、翌年以降の作物への感染原因となる。病原菌は春または秋、気温が15~20度前後になると発芽し、子のう盤(きのこ)を生やして胞子を放出する。これらの胞子は植物に付着し、条件が整うと菌糸を伸ばして植物体内に侵入し、感染を広げる。高湿度や雨により圃場全体に広がり、全滅させる場合もあるため、早期発見と早期防除が重要である。
菌核病は前作から繰り越されるため、発病した圃場の作物残渣はすべて除去し、土壌消毒を実施することが重要である。近年では、残渣すき込み時に使用する菌核病を死滅させる微生物農薬も開発されている。耕種的防除においては、高畝を作り通路を広めに確保したり、疎植または繁茂しないようにすることで、排水性と通気性を良くし、湿度を高めない工夫が必要である。
栽培管理上、病害に感染しにくい強い生育を実現する肥培管理が重要である。窒素過剰や加里過剰は、軟弱徒長を引き起こし、病原菌に犯されやすくなるため注意が必要である。葉のワックス層の発達は雨水を速やかに流し、葉の表面湿度を低く保ち、物理的な障壁となるため、病原菌に感染しにくい強い生育を促す。ワックス層を発達させるためには、カルシウムやマグネシウム、リン酸の供給と光合成の確保が重要である。
茎枯病はアスパラガス栽培において最も被害が大きい病害であり、糸状菌(カビ)の一種であるPhomopsis asparagiが原因である。この病気は圃場中に蔓延する可能性があり、感染すると収量の激減に繋がることが多い。
症状としては、若い茎に縦長の小さな斑点が生じ、その後褐色の紡錘形の病斑に変わる。病斑上に黒色の小粒点が形成され、これらの粒から胞子が雨滴などで空中に放出され、他の茎への伝染が起こる。発病した茎は治らず、枯死することが多い。茎枯病が蔓延すると株が衰弱し、収穫が壊滅的になる可能性があるため、重要な防除対象である。
感染経路としては、地表面にある病原菌が主な要因で、雨や灌水時に跳ね上がって茎に付着する。前年に被害を受けた茎や残茎に残った病原菌が感染源になることが多い。そのため、刈り取り後の畝表面の焼却処理が推奨される。
茎枯病の対策としては、春芽収穫前に土壌中の枯落ちた枝や病気にかかった後の残された茎の除去が必要である。薬剤による適切な防除のほか、過剰な窒素施肥を控え、過繁茂にならないよう管理することが重要である。ハウス内の過湿を防ぐために換気や雨の降り込みに注意し、排水対策と台風後の防除を十分に行うことが必要である。土壌表面の病原菌を減らすために、畝に培土したり、麦わら等での有機物マルチを使用することも効果的である。
栄養管理としては、窒素を過剰に施用しないこと、リン酸やカルシウム等の施用が重要である。また初夏から初秋まで食酢(酢酸資材)の定期的な潅水により発生を軽減する事例がある。さらにアスパラガスは塩素化合物により繊維が強化され、耐病性が増すため、にがり等の活用も試す価値がある。
(参照)
長崎県林業技術開発センター: アスパラガス茎枯病防除マニュアルhttps://www.pref.nagasaki.jp/e-nourin/nougi/manual/asparagus_phomopsis_MN_Ver1.pdf
黒星病は、リンゴやバラ、ナシ、ウメなどのバラ科作物に多く見られ、キュウリにも発生する病害である。原因は特定の糸状菌(カビ)で、感染すると葉や果実に黒いすす状の斑点が出現する。これらの斑点は次第に大きくなり、合流して星形を形成する。重度の感染では葉が黄色く変色し、樹勢の低下や果実の商品価値の損失を引き起こすため、重要な防除対象となる。
病原菌は主に落葉に付着し、越冬する。発芽には、気温が20℃前後の高湿度環境が必要で、日本では特に梅雨時期に発生しやすい。葉が長時間濡れている状態や泥はね、水はねにより感染が拡大する。
予防策としては、過剰な窒素施肥を控え、過繁茂を防ぎ、圃場の水はけや通気性、日当たりを確保することが重要である。落葉などの残渣は翌春までに除去または細かく裁断して分解させ病原菌を減少させることも効果がある。水はねを防ぐためにビニールマルチや有機物マルチを敷設することも有効な対策となる。
栄養管理として、カルシウム資材等を用いて細胞壁の強度を向上させ、ワックス層の発達を促す方法が効果的である。また、食酢(酢酸資材)や重曹の施用により、一定の予防作用や防除効果が期待できる。
(参照)
(農研機構)リンゴの各種病害に対する食酢の防除効果https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/to-noken/DB/DATA/063/063-121.pdf
(日本植物防疫協会)特定農薬(食酢,重曹)のウメ主要病害に対する 防除効果http://jppa.or.jp/archive/pdf/70_09_30.pdf
根茎腐敗病は、ショウガ、ミョウガなどのショウガ科の植物に特に多く見られる病害であり、糸状菌(カビ)であるピシウム菌(Pythium myriotylum Drechsler (旧名 Pythium zingiberis Takahashi)) が主な病原菌である。この病害は、高温多湿な環境で特に発生しやすく、ショウガの栽培において重大な影響を与える。
症状としては、茎の地際部に水浸状の褐色や暗緑色の腐敗が現れ、やがて茎や根茎が軟化して腐敗し、葉は黄色く変色して立枯れ症状を呈する。特に6月中旬以降、降雨が多いと発生が増加する。
発生条件としては、病原菌は罹病植物の残渣とともに生存し、水はけの悪い畑や雨が多いと発病が多くなる。病原菌は数年は土壌に残存する。地温が15~20℃で発病し、25℃以上になると激しく増殖し感染する。病原菌は種子媒介、水媒介で感染するため、雨が多く気温が高いと急速に圃場全体に広がり、場合によっては圃場全体を全滅させるほど猛威を振るうことがある。
対策としては、無病の種塊茎の使用が重要であり、発病株は早急に抜き取ることが推奨される。排水対策として高畦作りや外部からの水の流入防止、敷き藁などによる有機物マルチで土の団粒構造や生物性を改善することも有効である。また、連作を避け、特に一度発病した場所では3年間ショウガを作らないことが望ましい。
化学薬剤等による土壌消毒が最も重要な防除方法になっているが、圃場の生物性の改善も同時に実施されなければ、種子や流入水などから病原菌が持ち込まれた場合に甚大な被害に進行する恐れがある。そのため、土壌消毒後、土づくりの時、および栽培期間中に適切に土壌微生物叢を回復し、活性化させる必要がある。(「土壌消毒」を参照。)
また、光合成が低下し、防御機能が低下することも、多雨曇天の気象条件で罹病が爆発的に増加する原因の一つとなっている。光合成が低下する場合は、免疫機能を向上させるため、カルシウム資材やにがり、酢酸資材等の活用が望ましい。
さ行
先白果とは、イチゴの果実において、先端部分が白く色づかずに残る現象を指す。通常、果実の先端から着色していくが、先白果は先端が白いまま残り、着色しないまま収穫適期となる。
秋口や春先など、栄養が生長に向かっている時期や、品種の特性によって発生することが多い。特に、窒素やカリが優先的に作用したり、水分が過剰な状態で発生しやすく、大玉果に多く見られる傾向がある。
糸状菌(Filamentous fungi)は真菌界に属する生物群であり、特徴的な糸状の構造を持つ菌糸を形成する。一般的に糸状菌は微生物に含まれるが、その菌糸は明確に目視できるほどの大きさである。カビやキノコは糸状菌の代表的な例であり、基本的に空気(酸素)を好み、土壌の浅い部分に生息する。
糸状菌は地球環境や農業において多面的な役割を果たし、土壌の健康や植物の成長に重要な影響を与える。生物学的には接合菌門(Zygomycota)、子嚢菌門(Ascomycota)、担子菌門(Basidiomycota)などに分類される。これらの菌糸は、多くの小さな細胞が連なって長く伸びたような形をしている。一部の糸状菌では、これらの細胞が個々に分かれず、長い一本の糸のように連続していることもある。このような構造は、放線菌の菌糸とは性質が異なる。また糸状菌の細胞壁はキチン質で構成されており、これも放線菌との違いである。
糸状菌の成長速度は非常に速く、自然環境では他の微生物に比べて優先的に広範囲のネットワークを形成する。これにより、広い範囲から栄養素を吸収する。その成長スピードや栄養探知能力は、植物と糸状菌(菌根菌など)の共生関係に利用されている。一般的な自然界の土壌や畑では、糸状菌は細菌や土壌生物(ミミズなど)よりも圧倒的な量で存在することが多い。
農業における糸状菌の役割は栄養循環と土壌環境において重要である。糸状菌は有機物を分解する能力に優れ、特にリグニンやセルロース、ヘミセルロースなどの難分解有機物を効率的に分解できる。植物遺体中の炭素や窒素などの栄養分は、糸状菌によって分解され、他の細菌や植物が利用できる状態になる。糸状菌の体の成分を見ると、細菌と比べて炭素率(C/N比)がかなり高いため、炭素率の高いエサから有利に増殖し成長できると考えられる。まず糸状菌が硬い繊維を分解し、その後に細菌が増えてさらに栄養を循環させるという役割分担が見て取れる。
土壌環境においては、糸状菌が土壌団粒化を促進する点が特に重要である。菌糸によってミクロ団粒を巻き込むことでマクロ団粒を形成し、さらには耐水性のある強い団粒を作ることに長けている。これらの団粒は土壌の生物性や物理性を大きく向上させ、農業現場において非常に重要である。
しかし、糸状菌の負の側面にも注意が必要である。フザリウム属やピシウム属など、糸状菌の中には植物病害を引き起こすものが多い。これらの病原菌は、特に易分解有機物が豊富な環境で増殖しやすく、未熟堆肥の施用や有機物施用後の植え付けでは病害が発生しやすい理由の一つである。病原菌は非常に迅速に繁殖し、強力な分解酵素を放出するため、生きた植物でさえ自己組織を守れずに病害に侵されることがある。
糸状菌の種類は発見されているだけでも数万種、未発見の種も含めると数百万種に及ぶと言われるほど多様である。これらの中には相互に共生するもの、拮抗するもの、相反するものが存在する。たとえば、糸状菌のトリコデルマ菌は他のキノコや病原菌の活動を抑制するとされる。糸状菌に似た細菌の放線菌は、キチナーゼという酵素を生産し、糸状菌の繁殖を抑えたり、死んだ糸状菌を分解する働きがある。さらに糸状菌は多くの細菌と比べて体が大きいため、糸状菌の周りには多くの微生物が付着、または共生しており、物質の交換や相互作用があると考えられている。このように、土壌の中では糸状菌の勢力図の周囲に複雑な自然の営みが絡み合っている。
シストセンチュウとは、作物の根に寄生し、養分を吸収することで生育不良を引き起こす植物寄生性センチュウの一種であり、特にジャガイモやダイズ、テンサイなどに被害を与える。代表的な種には、ジャガイモシストセンチュウ(Globodera rostochiensis)、コロンビアシストセンチュウ(Globodera pallida)、ダイズシストセンチュウ(Heterodera glycines)などがある。寄生を受けると根の肥大、黄化、萎縮、収量減少などの症状が発生する。
シストセンチュウの特徴は、耐久性の高い「シスト」と呼ばれる構造を形成し、土壌中で数年以上生存する点にある。シストは死んだ雌の体内に多数の卵を含み、適切な宿主作物の根から分泌される化学物質に反応して孵化する。
防除対策としては以下が挙げられる。
輪作の実施:宿主作物を避け、非寄生作物(麦類や豆類など)を組み合わせることで、センチュウ密度の増加を抑える。
抵抗性品種の利用:シストセンチュウ抵抗性を持つジャガイモやダイズの品種を導入する。
土壌くん蒸:クロルピクリンやダゾメットなどの土壌燻蒸剤を使用し、センチュウ密度を低減する。
微生物資材の利用:ある種の細菌や、土壌微生物叢を整えることでシストの孵化を抑制し、寄生を防ぐ効果がある。
シストセンチュウは、一度発生すると長期間にわたり圃場に残るため、早期発見と総合的な防除管理(IPM)が重要となる。
尻腐病(尻腐れ症)は、トマト、ピーマン、スイカ、ゴーヤなどの果菜類に発生する生理障害であり、果実の先端(尻部)が黒く腐るようになる。主な原因はカルシウム欠乏であり、高温・乾燥時に特に発生しやすい。また、無風などの要因による蒸散量の減少、土壌のカルシウム不足、土壌pHの偏り、アンモニア態窒素やカリウム、苦土の過剰による拮抗作用、根腐れや肥料焼け、線虫被害などの根の障害によって発生しやすい。
カルシウムは移動性が低く、蒸散によって葉に優先的に運ばれるため、果実には不足しやすい。特に着果過多の場合、一つの果実あたりのカルシウム供給が不足しやすいため、摘果は有効な対策となる場合がある。
肥料としては、硝酸石灰(硝酸カルシウム)や硫酸石灰(硫酸カルシウム)の施用が一般的であり、カルシウムの吸収を促進できる。また、吸収性の高い有機酸カルシウム(本気Ca〈マジカル〉など)を潅水や葉面散布することで、短期間での補給が可能となる。また、石灰資材が十分に土壌に施用されている場合は、酢酸資材(イーオス)を潅水することでも、カルシウムの吸収量が増加する。カルシウムは、細胞内に貯蔵が難し成分であるので、幼果期からの継続的な供給が必要である。また、カルシウムは果実への移行が限られるため、根からの吸収を促す水管理や土壌改良が最も重要である。
スリップス(Thrips)は和名をアザミウマといい、一般的な体長は、1~2mmの小さな昆虫。
雑草を含むさまざまな種類の植物に寄生し、種類も非常に多い害虫。梅雨から秋にかけて特に活発で、夏の暑い時期に大繁殖する。
スリップスが寄生すると、葉や花、果実から吸汁したり、作物にウイルス病を媒介するため、作物の生育や収量に重大な影響を及ぼすことがある。
生理落果は、果実への栄養供給が不足することで発生する。開花から着果までの期間に、光合成が不足したり、茎葉と競合したりすることで炭水化物(光合成産物)の供給が不足することや、ホルモンバランスの変化が生理落果の直接的な要因となる。窒素が優先して効くことで、茎葉の生長が著しく、それにより生理落果する状況を「つるぼけ」ということも多い。適切な窒素量を施用することや、果実の着果・生長に重要な、カルシウムやホウ素、リン酸、微量要素などの供給が、生理落果を軽減する。
また、芽かき(不要な芽の除去)や、早期の摘果作業により、優良な果実の生理落果を防ぐことができる。
その他の対策として、適切な、日照条件の改善、ハウス内の温度管理、水管理、ホルモン剤(ジベレリンやオーキシン)の散布、マルチ資材の利用による土壌水分の安定化などが挙げられる。
果樹の場合は、収穫後から次の開花期までの管理により、樹体内の養分を高めておくことが重要であり、収穫後のお礼肥や葉面散布による樹勢回復が重要な対策となる。
センチュウ(線虫)とは、細長いミミズのような体形を持つ線形動物門に属する微小な動物であり、土壌や水中、動植物など多様な環境に生息する。地球上の動物バイオマスの約15%を占め、昆虫や甲殻類と並び主要な動物群の一つである。
センチュウは、大きく自活性センチュウと寄生性センチュウに分類される。自活性センチュウは、植物の根などの有機物や、バクテリアや真菌、原生動物を捕食し、土壌中の物質循環や栄養バランスの維持に重要な役割を果たす。一方、寄生性センチュウは植物や動物に寄生し、農業や畜産業における問題となる。代表的な植物寄生性センチュウには、ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウが有名で、ミカンネセンチュウなど樹木に被害を及ぼすものもある。
寄生性センチュウの防除には、化学的手法に加え、生物的手法が注目されている。パスツーリア(Pasteuria属)と呼ばれる細菌は、センチュウに寄生することで活動を抑制する。このように細菌等が寄生性センチュウを抑制する事例も多い。
センチュウの生態系における役割も重要である。バクテリアや真菌、原生動物を捕食することで微生物群集のバランスを維持し、栄養循環に寄与する。また、捕食性センチュウが寄生性センチュウを制御する役割も持つため、土壌生態系の中で自活性センチュウと寄生性センチュウのバランスを適切に維持することが、植物の健康な生育にとって重要となる。そのため、微生物叢を構築し、土壌環境を健全に保つことが、持続可能な農業の実現につながる。
さらに、センチュウの嗅覚の鋭さを利用し、人間のがんを早期発見する技術が実用化されている。センチュウはがん患者の呼気や体液に含まれる特定の化学物質を感知する能力を持ち、これを応用した診断技術が開発されている。今後もセンチュウに関する研究が進むことで、その特性を活かした新たな技術の開発や、防除方法の改良が期待される。
た行
立枯病とは、植物の根や茎の基部が侵され、生育途中で萎れたり倒れたりする病害の総称である。特に幼苗期に発生する場合は苗立枯病と呼ばれ、発芽直後の苗が地際部から腐敗し、倒伏する。成長後の作物にも発生し、根や茎の組織が侵されることで水や養分の吸収が阻害され、生育不良や枯死に至る。
病原菌にはフザリウム属(Fusarium)、リゾクトニア属(Rhizoctonia)、ピシウム属(Pythium)、フィトフトラ属(Phytophthora)などがあり、多くは土壌中に生息する。高温多湿や排水不良などの条件で発生しやすく、連作によって病原菌密度が増加すると被害が拡大しやすい。苗立枯病では、発芽前に種子が腐敗して発芽できない場合や、発芽後に地際部が水浸状に腐敗し倒伏する症状が見られる。成長後の立枯病では、茎の基部が褐変・腐敗し、葉がしおれ最終的に枯死する。根部が侵されると根の黒変や細根の消失が見られ、生育不良を引き起こす。
発生を抑制するためには、輪作の導入、適切な土壌pH管理、排水性の改善が有効である。フザリウム属やピシウム属は酸性土壌、リゾクトニア属は中性~アルカリ性土壌で活性が高まるため、石灰資材の施用によるpH調整が効果的とされる。土壌中の病原菌密度を下げる方法として、太陽熱消毒や還元消毒が用いられる。また、バチルス属(Bacillus)や放線菌群(Actinomycetes)などの拮抗微生物を活用することで、病原菌の増殖を抑えることができる。
作物の抵抗性を高める手段として、有機酸カルシウムなどの水溶性カルシウムを施用し、細胞壁を強化することも有効である。適切な施肥と土壌改良によって団粒構造を促進し、通気性と排水性を向上させることで、立枯病の発生リスクを低減できる。土壌環境を適切に管理し、病原菌の活動を抑えることが、作物の健康な生育を支える上で重要となる。
炭疽病(炭そ病)とは、コレトトリクム属(Colletotrichum)の糸状菌によって引き起こされる病害であり、葉・茎・果実などに黒褐色の病斑を形成し、最終的には組織が壊死する。高温多湿の環境で発生しやすく、特に梅雨時期や台風後など、葉や果実が濡れた状態が続くと感染が広がる。
重大な被害を及ぼしやすい作物として、マンゴー、カキなどの果樹、トウモロコシ、サトウキビなどの穀物、イチゴ、キュウリ、スイカなどの果菜類で特に問題となる。これらの作物では、果実に病斑が発生すると商品価値が著しく低下し、収穫量の減少につながる。
病徴としては、初期段階では小さな水浸状の斑点が現れ、その後黒褐色の円形病斑へと拡大する。病斑の中心部には輪紋が形成され、病原菌の胞子を含むピンク色やオレンジ色の粘液(分生胞子)が見られることが多い。果実に感染すると腐敗が進み、落果や品質低下の原因となる。
病原菌は、被害葉や果実、土壌中で越冬し、翌春に胞子を放出して感染を広げる。水はねや過湿が感染拡大の主な要因であり、降雨時の水滴によって胞子が飛散し、健康な組織に感染する。また、台風や強風雨によって病原菌が広範囲に拡散し、大規模な被害を引き起こすこともある。
防除対策としては、葉が濡れている時間を最小限にする管理が重要である。密植を避け、整枝・剪定や除草を行い、風通しを良くすることで、葉の乾燥を早める。また、早朝の潅水は避け、日中に葉が素早く乾くようにする。露地栽培ではマルチングを行い、水はねを抑えることで感染リスクを低減できる。
化学的防除としては、発病初期にボルドー液(硫酸銅石灰)、マンゼブ、チオファネートメチルなどの殺菌剤を散布することで、感染拡大を防ぐ。
生物的防除としては、バチルス属(Bacillus)や放線菌群(Actinomycetes)などの拮抗微生物を利用し、病原菌の定着を抑制する方法が研究されている。
適切な栄養管理も重要であり、カルシウムやケイ酸を施用することで細胞壁を強化し、病原菌の侵入を防ぐ効果が期待される。また、耐病性品種の導入や、苗の健全育成によって発病リスクを低減することも有効である。
チップバーンとは、葉の先端や縁が褐変・枯死する生理障害の総称であり、主にカルシウム不足によって引き起こされる。レタス、キャベツ、トマト、ジャガイモ、イチゴなどの作物で発生しやすく、特に成長が旺盛な時期に発生しやすい。
チップバーンの主な原因は、植物体内でのカルシウムの移動不足である。カルシウムは水とともに道管を通じて移動するが、葉の先端や新葉は蒸散が少なく、水の供給が十分に行われないため、カルシウムが届きにくい。その結果、細胞壁が弱くなり、細胞の壊死が起こる。
チップバーンを引き起こす要因として、高温乾燥、過剰な窒素施用、成長速度の急激な変化、不適切な灌水などが挙げられる。特に、窒素過多による徒長や急激な生長は、カルシウムの供給不足を引き起こしやすい。
対策として、適切な灌水管理により土壌水分を安定させることが重要である。カルシウム資材(硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、有機酸カルシウムなど)を施用することで、カルシウムの供給を促進できる。また、葉面散布によるカルシウム補給も効果的であるが、継続的な管理が必要となる。適正な窒素施肥や、温度・湿度管理による生長バランスの調整も、チップバーンの発生を抑える上で有効である。
キュウリやメロン、さつまいもなどの植物で、茎や葉ばかりが茂り、肝心の果実や芋がならない、または太らないような現象の事を言う。植物生理的には、栄養成長が優先し、生殖成長へ移行しない状態と言える。「徒長」と似た症状と考えて良い。
多くの場合、肥料分のバランスが悪いことに起因する。基本的には、窒素の量に対し、その他のミネラル(リン酸や加里、カルシウム、マグネシウムなど)が不足していて、窒素過多・窒素過剰の症状である。時に、亜鉛や銅などの微量要素の不足によって、生殖成長が阻害される場合も、つるぼけになる場合がある。
対策として、バランスの良い施肥や、根の働きを高めるための土壌改良や土作り、光合成環境を改善したり、摘心などの作業によって、生殖成長を促すことで防ぐことができる。
ウリ科作物に発生する土壌伝染性萎ちょう病で、フザリウム(Fusarium oxysporum f. sp. niveum等)が導管に侵入し通水を阻害する。地際部に褐変・縦割れが生じ、日中萎れ、回復せず枯死に至る。25〜30℃、連作・排水不良・高ECで発生が助長される。また、堆肥施用後に十分な分解期間、養生期間を設けない場合も発病しやすい。
抵抗性台木への接ぎ木、3〜4年以上の輪作、太陽熱消毒や蒸気処理、pH適正化と排水改善が基本である。病原型(レース)適合の抵抗性を選ぶ。発病株と根残渣は圃場外へ除去し、未熟堆肥を使用しないことも重要である。
フザリウム属菌の発生や蔓延を抑制するため土壌微生物叢を構築することが大変重要であり、土壌消毒後や作付け前、定植後の1か月は菌力アップを施用するとよい。
倒伏とは、稈(かん)や草本茎が倒れる現象で、収量・品質・作業効率に重大な影響を与える。主な要因は、窒素過多による徒長、カルシウムやケイ素(Si)不足による細胞壁の脆弱化、過剰な結実、節間伸長過剰、根の浅根化、病害による基部弱化、風雨や機械的衝撃などの外力である。
防止策としては、耐倒伏性品種の選択、適正な播種・定植密度と施肥量・タイミングの調整、ケイ素・カリ・カルシウム・マグネシウムなどの適切な供給、深根化と根量の確保、支柱やネットによる物理的支援が挙げられる。
土壌中の病原菌・卵菌・細菌・線虫により発生する病害の総称である。代表例は萎黄病・青枯病・立枯病・根こぶ病・つる割病など。
土壌病害は、主因、素因、誘因の3つの原因がそろうことで発病しやすくなる。主因とは、病原菌。素因とは、その植物体や品目・品種の性質。つまり、病気にかかりやすいかどうか。そして、誘因は病原菌の繁殖を招いたり、植物体を弱らせたりする様々な環境要因のことである。たとえば、高温や低温、過湿や低pHなどがある。
主因、素因、誘因ごとに、対策を講じることが、大幅な発病リスクの軽減に繋がる。
光量不足、夜温の高温、窒素過多などの要因により、節間伸長が過剰になる現象である。細胞は肥大より伸長が優位となり、茎は細く軟弱化して倒伏しやすい。ジベレリンが優勢となり、オーキシンやサイトカイニンが劣勢になっているとも言える。密植や過湿は蒸散と炭素同化を阻害し、徒長をさらに助長する。
対策は株間拡大、日照の確保、夜温を下げる管理、窒素制限とリン酸やカルシウムの供給、乾湿メリハリの潅水である。
な行
播種〜育苗期に地際部がくびれ倒伏する病害で、ピシウム・リゾクトニア・フザリウム等が主因である。高湿・低温・過灌水・通風不足で多発する。
消毒済み培土、清潔な資材、適正播種密度、表面の過湿回避、灌水は朝に行う。予防剤の種子処理や床土混和も有効で、発病苗は速やかに除去する。菌力アップの定期的な潅水により、健全な微生物叢を保つことで、発生リスクが低下する。
多年生や長期収穫作物で、連続着果によって樹勢が衰え、収量や品質が低下する現象。背景には、貯蔵炭水化物の枯渇、根の老化・活力低下、肥料成分の不足がある。
果樹では翌年の花芽形成が不安定になる“隔年結果”がよく見られるが、著しい場合は成り疲れによる可能性が高い。またトマトなどの果菜類では、多数着果により肥料分や炭水化物を消耗し、根の働きが低下して急に果実が成らなくなることが成り疲れである。
予防には、着果負担が大きい時ほど肥料を十分に供給し、アミノ酸や微生物資材により根の活力を高めるほか、海藻資材などを使いホルモンバランスを整えるなどの対策が有効である。
ネグサレセンチュウ(根腐れ線虫)は、植物の根の内部に侵入して組織を食害し、褐変や壊死を引き起こす植物寄生性線虫である。感染すると根の表皮から皮層部にかけて無数の微細な病斑(褐変部)が生じ、ひどくなると全体として“根腐れ”のような症状になる。外見上、ネコブセンチュウのようなこぶは形成せず、根は黒ずんで、吸水能力が著しく低下する。
イチゴ、ニンジン、ゴボウ、レタスなど、多くの作物で被害が報告されており、特に根菜類では商品価値が著しく低下する。
発生リスクのある圃場では、「菌力アップ」「糖力アップ」などの資材を施用し、土壌微生物叢を活性化させて発根促進と根の防御力を高めることにより対策する。健全な土作りが線虫対策の基本である。また、マンガンが不足すると根の細胞壁(リグニン)生成が低下し、線虫の穿孔を許しやすくなるため、微量要素の適切な補給も極めて重要である。
未熟有機物の施用や排水不良や乾燥は被害を深刻化させるため注意が必要である。土壌消毒も一定の効果はあるが、線虫の分布が深層部にも及ぶため、完全な駆除は困難であり、土壌環境全体を整えるアプローチが望ましい。かに殻やかに殻ぼかしなどを施用することで、放線菌や抗線虫性の微生物が優占化し、線虫の活動が抑えられることも知られている。
多くの作物で発生する症状名で、ピシウム属、フザリウム属、リゾクトニア属などの病原菌によって根やクラウン部が褐変・腐敗する。過湿、排水不良、根傷みが誘因となる。予防は排水性改善、適切な潅水管理、健全苗の使用、発病残渣の除去である。発症株は回復が困難なため、予防管理が最重要である。
ネコブセンチュウ(根こぶ線虫)は、根に侵入して「こぶ」を形成し、養分を吸収する植物寄生性線虫である。感染すると根表面に数mm大のこぶが数珠状に連なり、ひどくなると肥大化してイモのようになる。こぶは、導管機能の低下や吸水阻害を引き起こす。症状として、朝は元気でも日中に萎れる症状を繰り返し、次第に衰弱して最終的には枯死することが多い。自然回復はほとんど望めず、放置すれば被害が拡大する。トマトなどのナス科やキュウリ、ゴーヤ、メロンなどのウリ科、オクラなどで被害が甚大。
実際の圃場では、「菌力アップ」「糖力アップ」などの資材を使用し、土壌微生物叢を改善して発根促進や植物の抵抗力を高めることで、感染株の回復や蔓延防止に成功した事例も多く報告されている。これは土壌微生物のバランスがいかに重要であるかを示すものであり、土作りが防除の根幹となる。また、マンガン欠乏や不足により根のリグニン生成能力が低下し、抵抗力が落ちて感染しやすくなるため、マンガンを含む微量要素の適正供給も重要である。
未熟有機物の施用や乾燥土壌条件では被害が甚大化しやすく、注意が必要である。土壌消毒はある程度の殺線虫効果はあるが、深層部などでは完全死滅が困難であり、過信は禁物である。かに殻やかに殻ぼかしなどを施用し、放線菌の豊富な土壌にすることで線虫活動が抑えられる傾向があることも知られている。
主なセンチュウ被害は、ネコブセンチュウのほかネグサレセンチュウ、シストセンチュウがある。根に数珠状のこぶが付いている場合、マメ科植物では根粒菌による正常な根粒、アブラナ科植物では根こぶ病の可能性が高く、それ以外の多くの作物ではネコブセンチュウ被害が疑われる。またネコブセンチュウ被害から、青枯病などの病原細菌の侵入を許すこともあり、土壌病害対策では線虫対策も同時に考えるべきである。
根こぶ病は、アブラナ科作物に特異的な土壌病害で、根に不整形でスポンジ状の「こぶ」を形成することにより、水分や養分の吸収能力を著しく低下させ、最終的には萎凋や生育不良を引き起こす。病原体は糸状菌ではなく、Plasmodiophora brassicaeという原生生物に分類される土壌寄生性の病原体である。この病原体は、根毛から侵入して細胞内で増殖し、異常な細胞分裂を引き起こすことでこぶを形成する。
発病初期には、日中の高温時に萎れるが夜間に回復するという症状が見られるが、進行すると黄化や常時の萎凋、著しい生育不良を示す。根を掘り取って確認すると、崩れやすくてスポンジ状の不整形なこぶが観察される。これにより、根の吸水・吸肥機能が損なわれ、地上部の生育全体が悪化する。ただし、地上部の症状だけでは肥料切れや水不足などと区別がつきにくいため、根部の確認が不可欠である。
本病は酸性土壌(pH5.5以下)で特に発病しやすく、排水不良や過湿条件、アブラナ科の連作、未熟な有機物の投入によってリスクが高まる。土壌中では休眠胞子の状態で10年以上も生存できるため、一度発病した圃場では、長期間にわたる管理が必要になる。
防除の基本は、土壌のpHを6.8〜7.2程度に矯正し、発病を抑制する環境を作ることである。苦土石灰やスラグ肥料によるpH調整が効果的である。また、アブラナ科作物の連作を避け、5年以上の輪作を実施することが推奨される。さらに、土壌微生物叢を多様かつ安定化させることも重要であり、放線菌や枯草菌などの有用微生物を導入することで病原の活動を抑えることができる。
排水性の改善や通気性の確保も有効で、高畝栽培や暗渠排水の整備が効果を発揮する。耐病性品種の導入や、キャベツ・ハクサイなどの一部作物では接ぎ木による予防策も活用されている。発病が確認された圃場では、作物残渣を圃場内に残さず、農具や長靴の洗浄・消毒も徹底する必要がある。
根こぶ病の対策は、単なる病原体の排除ではなく、「病原菌と共生しない土壌環境を整えること」に本質がある。化学的手法と生物的手法を組み合わせた総合的なアプローチが、長期的な安定生産の鍵となる。
農薬や肥料などの過剰な施用や濃度の誤りによって生じる障害で、肥料焼けとも呼ばれる。濃度障害が生じると、根や葉が傷み、生育不良や枯れる原因となる。濃度障害を防ぐためには、正確な施肥や農薬の使用量の計量が必要。
は行
灰色かび病は、Botrytis cinerea(ボトリチス・シネレア)という糸状菌(カビ)によって引き起こされる植物病害である。極めて広い寄主範囲を持ち、イチゴ、トマト、キュウリ、ナス、レタス、ブドウ、花き類など多くの作物に感染する。
主な症状としては、葉や茎、果実などに水浸状の病斑が現れ、やがて灰色で粉状のカビ(胞子)が密生する。この胞子は風や作業者の手などによって容易に拡散する。特に高湿度(85%以上)で気温が15〜25℃の条件下では発病が助長されやすい。病原菌は傷口や老化組織から侵入することが多く、収穫直前や収穫後の果実に発症することもある。
防除の基本は環境制御と衛生管理である。ハウス内ではこまめな換気による湿度低下、密植回避、結露対策が重要であり、被害部位は早期に除去する必要がある。窒素過多や過繁茂も発病を助長するため、適正施肥と剪定も防除効果がある。
使用可能な農薬には、イプロジオン、フルジオキソニル、シプロジニルなどの化学合成殺菌剤があるが、耐性菌の発生を防ぐために作用機構の異なる剤をローテーションで使用することが推奨される。また、納豆菌や枯草菌などの生物農薬や、キトサン資材も灰色かび病の発病抑制に効果を示す。
収穫後の発病を防ぐためには、速やかな冷却、乾燥、適切な保管環境の維持も重要である。特に果実類では、ポストハーベストでの管理が品質保持の鍵となる。灰色かび病は、作物の収量や商品価値を大きく損なうため、発病前からの予防的管理が求められる。
葉かび病は、主にトマトなどのナス科作物に発生する糸状菌性の病害であり、Cladosporium fulvum(クラドスポリウム・フルブム)というカビが原因である。施設栽培(ハウス)で発生しやすく、特に湿度が高く、気温が20〜25℃の環境で感染と発病が促進される。病原菌は空気中の胞子として存在し、換気や作業時の人の動きなどで容易に拡散する。
葉の裏面に淡黄色から褐色の病斑が発生し、その後、オリーブ色のビロード状のカビが繁殖する。表面からは黄色い斑点として見えることが多い。進行すると葉が枯死し、落葉することで植物の光合成能力が低下し、収量や品質に悪影響を及ぼす。
発病を抑えるためには、湿度管理が非常に重要であり、ハウス内の換気、結露防止、密植の回避などの対策が必要である。また、発病葉の早期除去と処分、作業道具の消毒などの衛生管理も感染拡大の防止に効果がある。
農薬による防除では、ジフェノコナゾール、クロロタロニル、アゾキシストロビンなどが使用されるが、耐性菌の発生を避けるため、作用機構の異なる農薬を交互に使用することが推奨される。さらに、カルシウム資材や発酵リン酸資材などの葉面散布によって葉の細胞壁を強化し、病原菌の侵入を抑制する生理的防除も一助となる。全体として、環境制御、衛生管理、農薬防除、生理的予防手段を組み合わせた総合的な管理が有効である。
バラゾウムシは、バラをはじめとするバラ科植物に加害する代表的な害虫で、ゾウムシ科に属する小型の甲虫である。成虫の体長は約3〜4mmで、黒褐色の硬い体と長い吻(くちさき)を持ち、この吻を使って花やつぼみに穴を開け、産卵する。特に春から初夏にかけて活動が活発になり、開花期に重大な被害を与えることが多い。
被害の主な症状は、つぼみや若い花に穴が空き、内部で幼虫が成長することで花が開かずに萎れる、あるいは落花するといったものである。加害痕が目立ちにくいこともあり、開花しないつぼみが増えてから気づくことも多い。幼虫は内部で食害しながら成長し、やがて土中に落ちて蛹化する。
防除対策としては、発生初期の成虫の捕殺が有効であり、つぼみを注意深く観察して穿孔痕があるものを早めに除去することが重要である。被害にあった花がらやつぼみは周囲に卵や幼虫がいる可能性があるため、必ず圃場外で処分する。また、地際で蛹になることがあるため、地表面の清掃も対策の一環となる。
半身萎凋病は、フザリウム属の糸状菌(Fusarium oxysporum)によって引き起こされる土壌病害で、ナスやトマト、ピーマンなどに多く見られる。植物の片側だけがしおれるのが特徴で、進行すると全体が枯れる。病原菌は根から侵入して導管内に広がり、水分の吸収を妨げる。土壌中で長期間生存するため、連作で発生しやすい。
防除には抵抗性品種や接ぎ木、輪作、太陽熱消毒など基本的な対策をしつつ、微生物資材などで継続的に安定した微生物叢を構築することが重要である。発病株は早めに抜き取り処分する。
病害とは、植物が病原菌(カビ・細菌・ウイルスなど)や線虫などの病原体によって引き起こされる異常な状態であり、成長阻害や品質低下、枯死に至る場合もある。病原菌が侵入したからといって必ず発病するわけではなく、発生には気温・湿度・土壌条件などの環境要因や、宿主植物の抵抗力の強弱が大きく関与する。そのため、発生条件を調べて環境を整え、植物の抵抗力を高めることが病害管理の重要なポイントの一つである。
かつては殺菌や消毒に依存した防除が主流であったが、耐性菌の発生や、農薬の乱用による生態系の攪乱・多様性の毀損といった問題が顕在化している。これにより、薬剤のみに頼らず、作物や地域の生態系に応じた総合的病害管理(IPM: Integrated Pest Management)の重要性が高まっている。具体的には、輪作や抵抗性品種の利用、病原の発生源低減、適切な栽培管理、多様性を重視した土作り・圃場整備などの手法を組み合わせることで、環境負荷を抑えつつ病害を抑制する方向へと移行している。
作物の健全な生育には、窒素・リン・カリウムなどの主要元素に加え、極微量ながら不可欠な鉄(Fe)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、ホウ素(B)、モリブデン(Mo)、塩素(Cl)、ニッケル(Ni)などの微量要素が必要である。多くの微量要素は細胞組織の構成材ではなく、代謝に不可欠な酵素や補因子の構成成分であり、不足するとタンパク質やフェノール類など重要な化合物の生成が滞り、特有の欠乏症状を引き起こす。
これらの元素は主に導管を介して根から吸収され、生長点や若い葉といった代謝活発な部位へ供給される。しかし、多くの微量要素は師管での再移行性(可動性)が低く、古葉からの再利用がほとんど行われない。窒素やカリウムのように古葉から再動員されることは少なく、オートファジーによる回収も限定的である。そのため欠乏時には、生長点や若葉に優先的に症状が現れやすい。生長点は細胞分裂や伸長が盛んなため、栄養不足の影響を直ちに受ける。全体に症状が及ぶ場合もあり、窒素施用でも葉色が回復しない場合は微量要素不足の可能性が高い。
主な微量要素の欠乏条件と症状は以下の通りである。
鉄(Fe):発生しやすい。高pHやリン過多で発生しやすく、葉緑素合成が停滞して新葉の葉脈間が黄化し、葉脈は緑に残る。重症化すると新葉全体が白化(クロロシス)する。
マンガン(Mn):やや発生しやすい。高pHや乾燥、酸化的条件で起こり、中〜上位葉の葉脈間が淡黄化し微細な褐色斑が現れる。低pHでは欠乏より過剰障害が問題になりやすい。
亜鉛(Zn):発生しやすい。高pHやリン過多、砂質土で生じやすく、葉の小型化や節間短縮、若葉の葉脈間黄化が出る。タンパク質合成の停滞により軟弱化し、病害虫被害を受けやすくなる。
銅(Cu):やや発生する。有機質土や高有機物条件で起こりやすく、新葉の萎縮、葉先枯れ、花粉や花芽形成不良(不稔)を引き起こす。
ホウ素(B):特にアブラナ科で発生しやすい。砂質、乾燥、高pH条件や窒素・カルシウム過剰で起こりやすく、生長点の壊死、茎や葉柄の亀裂、果実の変形や芯腐れが出る。
モリブデン(Mo):まれに発生。強酸性土や火山灰土で、アブラナ科では葉縁の黄化と縮れ(ウィップテイル)、マメ科では根粒不良が見られる。
塩素(Cl):ほとんど発生しない。多雨や砂質で一時的に不足することがあり、葉縁退色や軽い萎凋が見られる。
ニッケル(Ni):ほとんど発生しない。極端な砂質かつ極低pH条件で稀に発生し、ウレアーゼ活性低下による尿素代謝障害と葉先の壊死斑を伴う。
予防の基本は、有機物の継続投入と微生物豊かな土作りにより根の働きを高め、過度な窒素やリン酸、カルシウム等の施肥を避けて拮抗を起こさないことである。欠乏が出やすい環境・品種では、キレートミネラル(複合微量要素「マジ鉄」など)を積極的に用いると吸収が安定し、生育・収量・品質が大きく改善する。通常施用では継続的にキレートミネラルの潅水を行い、不足時・欠乏時には葉面散布で補うと良い。
べと病(Downy mildew)は、ツユカビ目・卵菌綱に属する病原体が引き起こす高湿性の葉部病害であり、ウリ科やアブラナ科のほか、ブドウなど多くの作物に発生する。病原菌は土壌や植物残渣、感染した苗や種子などにより生存し、発病条件が整うと急速に拡大する。
感染経路は、主に二次感染の原因となる分生胞子が発病葉の裏面に形成され、風や降雨による水滴のはね上がりで健全葉に飛散することから始まる。湿潤条件下で分生胞子は発芽し、二本の鞭毛をもつ遊走子となって水膜中を移動し、気孔から侵入する。侵入後は葉肉組織内で菌糸が広がり、宿主細胞内に吸器を形成して栄養を吸収し、再び葉裏に胞子を形成する。気温15〜20℃、相対湿度85%以上が感染と病勢進展に適した条件とされる。
越冬は卵胞子によって行われ、土中や植物残渣中で長期間生存し、翌年の一次感染源となる。ブドウでは、越冬した卵胞子から春に発芽した菌糸が新梢や葉を侵し、梅雨期や降雨の多い時期に急速に拡大する。また、種子や果実に病原体が付着・侵入して伝播する事例も報告されている。
防除には、湿度や結露を抑えるための栽培環境の改善(換気、風通しの確保、灌水時刻の調整など)、樹勢の維持、耐病性向上を目的とした栄養バランスの管理(カルシウム、ケイ酸、カリウムによる細胞壁強化や抗菌性物質の生成促進)、発病葉や病果の早期除去、農薬の計画的なローテーション散布、連作回避や残渣処理、苗床・種子の衛生管理などが重要である。これらを組み合わせることで、べと病による被害を抑え、安定した収量と品質の確保が可能となる。
ホモプシスとは、糸状菌(カビ)の一群で、学名 Phomopsis 属に属する真菌を指す。多くの種が植物に寄生し、葉、茎、枝、果実などに病害を引き起こす。感染部位には褐色〜黒色の斑点やくぼみが生じ、進行すると組織が枯死・腐敗する。特にウリ科植物(キュウリ、カボチャ、メロン、スイカなど)での発生が多く、葉枯れ、つる枯れ、果実腐敗などを招くほか、果樹や他科の作物にも被害を与える。胞子は主に雨滴や風、農作業時の接触で伝播し、傷口や自然開口部から侵入する。温暖で湿潤な環境下、特に長雨や結露が続く条件では感染リスクが高まる。防除には、健全な苗の使用、圃場の通風・排水性向上、発病部位の早期除去と焼却、連作回避、ならびに適切な薬剤防除が有効である。
ま行
基腐病(もとぐされびょう)は、ヒルガオ科の植物に発生する世界的な重要土壌病害で、日本では主に病原菌 Diaporthe destruens によって引き起こされる。特にサツマイモでの発生が多く、南九州を中心に深刻な被害が報告されている。感染は地下部から始まり、茎や根の基部の表皮や維管束周囲が褐変し、塊根は頭部から軟化・腐敗する。進行すると株全体の生育が著しく抑制され、葉が黄化・萎凋し、やがて枯死する。収穫物は品質低下と減収が避けられず、さらに貯蔵中も腐敗が進行するため、経済的損失は大きい。
防除の基本は、前作残渣の徹底除去、種苗の消毒、早期発見・除去などの衛生管理である。加えて、土壌消毒の有無にかかわらず、菌力向上などを通じて健全な土壌微生物叢を構築することが重要である。施肥面では窒素量を適正化し、マグネシウムやカルシウムを含むボカシ肥料を施用することが推奨される。栽培期間中には「本格にがり」や有機酸カルシウム資材「本気Ca」を散布し、茎葉を硬く丈夫に保つことで耐病性を高めることができる。これらの総合的な対策により、発病の抑制と植物体の健全性維持が期待される。