ミカン・不知火・中晩柑などカンキツの裂果を考える
皆さんこんにちは。朝晩寒くなってきましたね。長崎でも、おとといだったか、初霜が降りました。いよいよ冬到来、という感じですね。
今年は、柑橘類の裂果は非常に多い年であったかもしれないですね。私も、圃場で見る機会や、またはご相談いただくことが多かったように思います。
写真は「不知火」の裂果した様子ですが、まるでパックマンですね。今年の9月からの干ばつ後に、10月の雨で一気に割れたようでした。これが木にぶら下がっていると、病害虫を広げたり、また栄養も中途半端に取られてしまうので、圃場を回って切り取り、圃場外に持ち出す必要があります。余計な手間もかかりますし、何しろもったいないですね。
大変遅ればせながらではありますが、柑橘類の裂果対策について、少し考えてみたいと思います。来年のご参考にしていただければと思います。
1.乾きすぎない対策を。
裂果の一番の引き金は、土壌の過度な乾燥です。乾燥がひどいほど、植物は水を吸い上げるために樹液の浸透圧を高めます。つまり、樹液が濃くなるということです。そこにある程度の雨が降ると、待ってましたとばかりに、根には水が流入してきます。この根から押し上げる水の圧力を根圧といいます。
下からぐんぐん水が押し上げてきますので、葉や果実から蒸散が少なくなる天候条件や、果皮が薄くなり弱くなった時期には、その圧力に負けて、裂果するというわけです。
そのため、まず対策として考えられるのは、土壌が乾きすぎないように管理するという事です。定期的な潅水は、最良の手段です。水を与えることで、樹にダメージが少なく、かつ光合成を促進します。
潅水設備のないところや、近くに水源がない場合は、どうしたらよいでしょうか。それは、マルチや、敷き藁、または有機物マルチ、または雑草を利用し、土壌の水分を一定にすることを考えるのが良いと思います。
なお温州みかんの場合、「乾燥ストレスを掛ける」という意識が強い方も多いですが、私は「適度な水分」を維持するべきだと思っています。適度な水分を維持する方が、裂果や日焼けは少なくなりますし、光合成を促進して、品質も良くなり、隔年結果性も穏やかになります。
2.カルシウムの使い方に工夫を。
果皮を強化することは、裂果を防ぐことになります。果皮が厚いころは、裂果しませんが、薄くなり成熟に近づくころ、裂果が始まります。
そのため、果皮を強化することが重要な対策となりますが、そのメインの栄養分は、カルシウムとホウ素でしょう。
まずカルシウムですが、様々なカルシウムの種類があります。その中でも、吸収させるカルシウムと、蒸散を促すカルシウムの2種類に注目すると良いと思います。
吸収させるカルシウムと言うのは、根からや葉面から吸収されやすく、樹液によって果実に運ばれるカルシウムです。これは、硝酸カルシウムや有機酸カルシウムが代表です。本気Ca(マジカル)も、この「吸収させるカルシウム」になります。
一方で、蒸散を促すカルシウムがあります。これは、炭酸カルシウムが代表です。クレフノンやホワイトコート、クレントなどがそうです。
愛媛県果樹試験場から面白い研究成果が出ています。こちらをみると、単なる炭酸石灰やカキガラ石灰、またはケイ酸カルシウムを高圧噴霧することで、蒸散促進作用があるとされています。これも参考になると思います。(ただし、果実が汚れるので収穫の1~2ヵ月程度前からは実施できませんね。)
「カルシウム剤の高圧散布によるウンシュウミカンの浮皮防止」(愛媛県果試)
https://www.naro.affrc.go.jp/org/warc/research_results/skk_seika/h07/skk95064.htm
また、硫酸カルシウムや塩化カルシウムは、吸収される部分もありますが、炭酸カルシウムと同様の蒸散促進作用があると思います。セルバインなどがこれに当たります。
本格にがりは塩化カルシウムを含んでいますが、果皮強化と蒸散促進作用を兼ねていて、浮皮になりやすい品種、劣化しやすい品種にお勧めです。
なお、ホウ素は、柔軟な細胞壁(ペクチン)を作るために重要です。果皮は、硬く、かつしなやかでなければなりません。硬いだけでは、破れやすいですから、硬さとしなやかさが両立しなければなりませんね。そのためにホウ素が必要なんです。本気Ca(マジカル)に、ホウ素が含まれているのはそういう理由があるからです。
本気Ca(マジカル)を施用しない方や、裂果の多い園で、ホウ素を施用したことない方は、来年は検討してみてください。なお、ホウ素の単体施用は、過剰害が出やすいので、必ず土壌分析を行い、適切な施用量を見極めて施用してください。
3.果実肥大前半の乾燥ストレスを掛けすぎない
先述した通り、植物の樹液の濃度と、土壌水分の濃度に差があると、浸透圧が高くなり、根に流入する水の量が多くなります。
このことは、簡単に言うと、「甘い(濃い)果実ほど、割れやすい」という事です。 そのため、特に裂果が多い品種や園地では、果実濃度を高めやすい果実肥大期前半の6~7月の乾燥ストレスを掛けすぎないことです。ちょうど梅雨時期にあたるこの時期は、やはり十分な水を与えるほうが、肥料の吸収や光合成の効率面からも合理的と言えます。7月に早々にタイベックを張る指導をしているJAもありますが、私は個人的には、十分な雨を入れてからタイベックを張る、くらいが良いと考えています。
4.窒素をやりすぎない
乾燥後の大雨で割れやすいというのは、実は窒素も関係しています。乾燥することで多くの微生物がしに、それを栄養に硝化菌が良く働くようになります。したがって、土壌中の有機窒素や無機窒素の多くが、植物にとって非常に吸収しやすい「硝酸態窒素」に変わります。
これは、吸収されると速やかに「たんぱく質合成」の命令が植物体内に走ります。それによって、細胞が増殖します。これが、果実肥大を促進します。
そして同時に、セルロースを作るためには糖が必要ですが、たんぱく質合成にも糖を使うため、糖が競合することになります。硝酸態窒素の命令により、光合成産物である糖類を消費してしまうため、強固な細胞壁を作るためのセルロースが不足するという側面もあります。
窒素が果実肥大と、果皮を弱くするという、両面の作用を働かせて、裂果を促進することになります。
無機肥料、有機肥料に限らず、過剰な窒素の施肥は、そういうリスクがあります。
5.風通しを改善する
葉や果実からの蒸散が非常に重要です。裂果しやすいのは、大雨が降った翌日、曇天や雨が続く場合です。
湿度が高く、葉からの蒸散が少ないと、劣化しやすくなります。トマトやミニトマトなどでは、ハウス内に循環扇で風を起こし、少しでも蒸散を高めるよう工夫します。
ミカンやカンキツでも、風通しをよくする工夫が必要です。防風垣が、風を防ぎすぎている場合もありますし、樹が密集しすぎている場合もあります。
また葉が濡れにくくなる、または乾きやすくなる資材の利用も、一考の価値があると思います。
6.「土壌ECを高める」という秘技を使う人も。
肥大が止まり、成熟が進み始めるころは、当然ながら糖度をどんどん上げていきたいので、水を少なめにして、乾燥気味に管理することに品質面ではメリットがあります。
しかし、乾きすぎると、その後に大雨が降ったときに割れますね。困ったものです。
これを軽減するために、あえて「土壌ECを高める」という秘技を使う方もいらっしゃいます。電気伝導度(EC)を高めると、土壌そのものの浸透圧が高まり、根の吸水が抑えられるからです。
塩トマトの例や、青菜に塩、ナメクジに塩、と同じことです。
ミカンやカンキツの畑に、夏から秋にかけて、塩や海水、にがりを撒く方は、そのようなことを、知らず知らずのうちにやっています。また、肥大が停止する直前くらいのタイミングで、ECを高める資材である、過リン酸石灰や、硫酸カルシウムを施用する方法もあります。
この方法は、ハウス栽培の場合は大変リスクの高い方法ですからお勧めしませんが、露地栽培の場合、収穫後~春(発芽)までの間に、雨が塩類を流してECを下げてくれる程度の量であれば、施用することに大きな問題はありません。ただし、やる場合は、必ず土壌EC計を見ながら、やりすぎに注意してください。
その他、いろいろな方法があるようです。果皮強化のためにジベレリンや尿素などを活用する方法もありますし、サンテなどの被覆資材で物理的に果実の膨圧を外から抑える方法もあります。
しかし、なかなか手間やコストがかかる方法でもありますし、リスクを伴うものもあるので、お悩みの方は、まずは上記の1~4をお試しいただければと思います。
また、他の果樹や果菜類で、裂果にお悩みの方も、原理は同じですから、ご参考にしていただければと思います。