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微生物談義第6回 バチルス菌の特殊能力

土の中のバチルス菌

土の中のバイオマス、つまり微生物の量を調べてみると、最も多いのはカビ(糸状菌)です。
カビは、10aあたりの畑地に500kg程度生息しているといわれています。肥料袋25袋分!すごい量です。

次に多いのは、細菌です。細菌は、150kg/10a程度と言われています。細菌の中でも、放線菌とバチルス菌が多く、その比率は重量計算で、2:1程度の比率であることが多いようです。

バチルス菌は、重量比では少ないようですが、数としては放線菌と同程度生息しています。特に、地表面近くの酸素の多いところや、肥料分の多いところには、バチルス菌が多く住んでいます。

また、土だけでなく、葉の上にもいます。通常は、芽胞(胞子)の形でエサが来るのを待っていて、近くにエサがあると察知すると、鎧を脱いで、猛烈に酵素を分泌しながらエサに食らいつくのです。

バチルス菌は、たんぱく質を好んで分解し食べることから、農業では、有機肥料や動物糞尿などの有機物をアンモニアに変える、アンモニア化成菌としての働きが重要といわれます。

つまり、たんぱく質やアミノ酸や、尿酸や尿素を、分解し、無機化してアンモニアに変える役割です。この働きがなければ、有機栽培はもとより、自然の森林や草原の窒素循環はあり得ませんから、とても根本的な、重要な働きを担っているということです。

土壌消毒にも負けないバチルス菌の生存力

また少し脱線しますが、土壌消毒の際、バチルス菌は強力な芽胞で、高温や殺菌剤に耐えしのぎます。そのため、アンモニア化成菌は土壌消毒では、比較的ダメージを受けにくい性質があります。その反面、窒素循環のもう一つの働きを担う「硝化菌」は、ほとんど死滅してしまいます。

たとえば、有機肥料や有機物が無機化していく過程を考えると、

1段階 たんぱく質 → アミノ酸 → アンモニア

これは、アンモニア化成菌の仕事です。

2段階 アンモニア → 硝酸

これは硝酸化成菌の仕事です。

つまり、土壌消毒後は、アンモニアが硝酸に変化しにくくなるということです。このことは、微生物の性質から考えていくと、覚えやすい現象だと思います。

菌力アップには、硝化菌が入っていますから、土壌消毒後に硝化菌を早期に回復させるためにも役立っているという事ですね。

バチルス菌の能力は酵素生産

さて、バチルス菌の特徴といえば、その強力な酵素産生能力ではないでしょうか。あらゆるものを片っ端から溶かす、そのような働きを持っています。

たとえば、繊維を分解するセルラーゼ、アミラーゼ、たんぱく質を分解するプロテアーゼ、キチナーゼなどを分泌するのです。この酵素の力が強いため、バチルス菌の代名詞は「納豆菌」という名前が付けられるわけですね。

納豆菌というのは、先述の通り枯草菌(バチルス・サブチリス)という細菌なのですが、本当にどこにでもいる細菌です。その名の通り、稲わらなどの枯れ草にたくさんくっついているのですが、これが、草の種類によって、枯草菌の種類も変わるようです。

最近、納豆についてのとても面白いサイトを見つけましたのでご紹介します。

【のう地】第2回 植物で決まる納豆の味 http://knowchi.jp/archives/845
こちらのサイトにある、世界の納豆菌のリストを見ると面白いです。

表1 アジア納豆で菌の供給源として使われている植物

これを見ると、世界では、バナナの葉や、イチジクの葉、ウコンの葉など、様々なものから納豆が作られることがわかります。そして、一番美味しいのは、シダの葉だそうです。しかも、これらの葉を、加熱殺菌することなく、そのまま煮豆と一緒にして、納豆を作っていることがわかると思います。

納豆は、日本だけの、特殊な微生物を使ったものと思っていましたか?

いえいえ、そんなことはありませんね。

納豆好きの方は、ぜひご自分で、いろいろな野草で納豆を作ってみたら面白いと思います。水煮の大豆を買ってくれば、すぐにできます。(ただし安全に食べれるかどうかは、保証しませんよ。)

枯草菌の多様性と繁殖力の凄さは、すごいものです。そして、葉を殺菌せずとも大豆を納豆にしてしまうということは、つまり、糸状菌などの他の微生物を寄せ付けないということです。このことだけでも、枯草菌の強さが見て取れます。

このような酵素の力と繁殖力の強さ、他の微生物を押しのけるほどの強さ、この作用が「バチルス菌」の特殊能力と言えそうです。