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少ない肥料でバチッと効かせる!土作りは、経費削減・売上拡大の第一歩

肥料高騰時代における農家の防衛策

海外情勢の不安定化、円安の影響で、肥料が高騰したり不足したりしています。今後もどうなるか不透明な状況の中で、農家の防衛策はなんでしょうか。持続可能な新しい農業に向けて、私たちはまず何をすべきでしょうか。

それは、やはり「土作り」に優先課題があるように思います。土の状態が良ければ、植物はしっかりと水や栄養の吸収力を保ち、また天候不順や病害に対しても非常に強い抵抗力を発揮します。「土作り」は、低コストで大きな成果を上げるため、最もコスパ(費用対効果)の良い投資になります。

より少ない肥料でも育つ豊かな土壌の条件とは

土壌の改善を考えるときに、検討するべき3つの側面があります。それは、土壌の物理性、化学性、そして生物性という3つの側面です。

では、それら土壌の3つの改善点には、優先順位があると思いますか?どれが一番優先されるのでしょう?

その答えは、「ある」と私は思います。

そして、その最も優先度の高い改善点は、「物理性」です。

なぜなら、土壌の生物性がゼロでも、化学性が多少悪くても、物理性さえ良ければ、植物はわりと健康に育つからです。しかし、反対に物理性が悪いと、化学性や生物性が良くても、植物の生育は悪くなります。

ですから土壌改良や地力アップを考える場合、土壌の『物理性』は、最初に考えるべき事であり、かつ最終的な目標でもあります。

地力向上のためのQ&A

そこで、これから次世代の農業において、土作りの考え方としてポイントとなることを一緒に検証してみましょう。これから、皆さんの圃場で土作りの作業を見直す参考にしていただければ幸いです。

Q.「土壌物理性」を改善するうえで大切なことは何でしょうか?

A.土壌物理性とは、端的に言うと通気性・排水性のことだと言えます。植物を栽培する上に置いて、第一に改良すべき土壌改良は、土壌物理性です。これまでの農業技術では、明渠や暗渠はもちろん、高畝にすることや、トラクターで細かく耕すことで物理性を改善しようとしてきました。
 しかしこれらは、もちろん有効な場合も多いのですが、これからの持続可能な農業では、できるだけコストをかけずに物理性をよくするため、「生き物」に土を耕してもらうとことを、より意識する時代になったと考えています。
 そもそも私たちの住む大地は、微生物や昆虫やミミズによって作られたものです。生き物を養う土のことを「土壌」と呼びます。土壌物理性は、多種多様な生き物がそれぞれに快適に生活するために、生き物によって作られ、それが生き物を育むものだという視点が大切なのですね。
 ですから、畑には肥料よりも先に、微生物のエサをやるということが重要度を増しています。大量でなくて構いません。反当1~2トンの植物性有機物を施用し、菌力アップを潅水することで、多種多様な有用微生物を繁殖させると、土壌物理性が良い状態で定植・栽培することができます。

Q.具体的にどのような有機物が土作りに有用でしょうか。

A.微生物が好むのは、炭素率の高い有機物です。炭素率が高い有機物というのは、どういうものかと言えば、「燃えやすいもの」と考えてもらったら良いと思います。自然界で燃えやすいものといえば、たとえば木材や落ち葉、枯れ草などが思い浮かびますね。そうです、そういったものが炭素率の高い有機物です。具体的には、C/N比(窒素炭素比)が、20~50くらいの有機物は、微生物にとってのごちそうです。
 海藻や米ぬかなど柔らかいものは、木材に比べると炭素率は低いことが多く、微生物にとっては食べやすく、すぐに土壌を団粒化させます。反対に、おがくずやバークなどの木質系の硬いものは、少しずつ何年もかけて土壌の団粒化に貢献します。
 畜産堆肥(堆厩肥)は、植物性有機物と糞尿の混合ですから、豊富な植物性有機物を含んでいますが、糞尿の方は肥料として考えた方が良さそうです。「肥料が混ざっている植物性有機物」という考え方が適切です。
 海藻や米ぬかのような柔らかい有機物や、畜産堆肥は、実は、生の状態(つまり発酵していない)、または発酵期間が不十分なものほど、土壌を団粒化させる働きがあります。それは施用後に土壌中に、糸状菌や細菌などの猛烈な増殖を促すため、より多くのエネルギーが土作りに使われ、多くの微生物が自らの住居を作ろうと活動するからです。ただし、微生物が猛烈に活動しているときに苗を植えたり、種を蒔いたりすると、植物の根も分解され、立枯れ病などの病害に犯されやすいので注意が必要です。生または未熟な柔らかい有機物は、施用後に分解してしまうまで、十分な期間を空けて、定植や播種を行う必要があります。
 ちなみに、いわゆる完熟堆肥は、施用後比較的早く定植や播種が出来る代わりに、土壌団粒を促進する力はやや弱くなります。

Q.有機物の効果的な施用手順は?

 有機物の施用方法ですが、土壌表面に有機物マルチとして施用する方法と、混和する方法になります。
 有機物マルチは、定植後に追肥のように表土に施用するので、たとえば籾殻や樹皮など、硬い有機物を施用する場合に未熟状態でも生育を阻害しにくいというメリットがあります。
 有機物を土壌に混和する場合は、極力浅くすき込みます。団粒化を促進する微生物は多くの空気が必要だからです。深さは10cm程度が良いでしょう。深耕が必要な作物では、有機物施用前、または植え付けの直前に深耕するようにし、有機物施用後すぐに深く耕さないようにします。大根やごぼう、自然薯、白ネギなど、深く耕す必要のある作物では、特にご注意ください。
 生の有機物を土壌混和する場合は、施用後の微生物の増殖期間(養生期間)は重要です。日平均気温を目安にするなら、積算温度500~600℃になるくらいの期間を確保する必要があります。(例えば、日平均気温15℃×40日=600℃)

Q.土壌物理性が良くなると、なぜ肥料が減らせるのでしょうか?

A.ここで注目しているのは、有機物と微生物の働きです。有機物を分解する際に、微生物は土壌を団粒化させます。微生物は体に栄養を蓄えるので、天然の肥料となります。同時に、微生物の「食べかす」とも言える腐植物質は土壌の保肥力を高め、施用した肥料成分を吸着し、保持する役割を持ちます。そして、団粒化した土壌では環境が良いため植物の根は、これまで以上に細根を発達させるのです。このような総合的な変化により、植物の肥料の吸収力が良くなるというわけです。
 また菌力アップによって増殖するアゾトバクターなどの窒素固定菌は、土中で肥料を作り出し植物に与えます。このような働きにより、有機物と微生物の豊富な土壌では、肥料はこれまでより少なくて済みます。土作りを進めていくと、しっかりと収量や品質を確保しながら、慣行栽培の半分で済むことも少なくないんですよ。
 ぜひ、近隣にある未利用の有機資源や、安く手に入る有機物をうまく活用し、有用微生物を増やして土作りに取り組みましょう。そこには、肥料が削減でき、さらには生育が良くなって売り上げも向上できるヒントが隠されています。