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硝酸トーク第1回  硝酸は、メタボな植物を作る。

硝酸はメタボな植物を作る

知れば知るほど面白い「硝酸」とは

春ですから、「硝酸(しょうさん)」について思うところを書いてみたいと思います。

硝酸、それは農業をやる方にとっては、深い理解が必要な物質です。これを知れば知るほど、植物の生育を見る目が変わり、植物が愛おしくなってきます。植物は、本当にかわいいやつです。

土づくりにおいて、硝酸を意識することはとても重要と考えられています。しかし、実際に硝酸の働きや動きについて、教えてくれる人はあまりいないですね。私なりに、硝酸のことについて、ここで考えてみたいと思いますので、ぜひ皆さんと一緒により良い硝酸の利用法を検討していければ楽しいなと思っています。

さて、硝酸とは、化学式ではHNO3と書きます。植物に吸収される形態の硝酸イオンは、Hが取れてNO3-と書くんですね。Nは窒素、Oは酸素を表しています。土壌中で硝酸は、アンモニアから作られるのですが、アンモニアはNH3ですから、アンモニアから水素Hが取れて、酸素Oがくっついて、硝酸になることが分かると思います。つまり、硝酸は、アンモニアが酸化したものなんですね。

植物は、細胞を作るときにたんぱく質を作りたいので、その原料として窒素Nを必要としているんですが、土壌中に多くあり、そして最も吸収しやすいものが硝酸というわけです。

植物の種類によっては、硝酸よりアンモニアをよく吸収するものもあるのですが、基本的に多くの作物は、窒素源として、硝酸をメインに吸収して生育しているようですね。

ちなみに、硝酸には水素Hが含まれていますがHが取れて、カリウムが付いたもの(硝酸カリウムKNO3)や、ナトリウムが付いたもの(硝酸ナトリウムNaNO3)、またアンモニウムが付いたもの(硝酸アンモニウムNH4NO3)は、火薬の原料、爆発物として有名です。引火すると酸素が飛び出てきて、一気に燃える性質があるんですね。レバノンであった大爆発を思い出します。

好アンモニア植物と好硝酸植物

さて今日は、植物にとって、硝酸はなにか?ということを考えてみます。

実は、原始的な植物は、硝酸ではなく、アンモニアを吸収して利用していました。「好アンモニア植物」として有名なのは、イネや茶、里芋やブルーベリーなどがあります。どれも、比較的、酸性土壌や湿潤環境が好きなのは、アンモニアが硝酸に酸化しにくい土壌だから、つまりアンモニアを多く蓄積しやすいからかもしれません。

一方で、「好硝酸植物」は、それよりも進化した植物が多く、硝酸を好んで吸収します。面白いことに、植物は、吸収した硝酸をそのままたんぱく質の合成に利用しているのではなく、一度アンモニアに変換して(還元して)、それからグルタミン酸などたんぱく質の原料を作っています。

つまり、硝酸を利用する場合は、たんぱく質を作るために、「アンモニアに変換する」という余分な経路を通らなければならないんですね。

硝酸のメリットは、貯蔵性にあり

なぜこんな面倒なことをするのが、「進化した植物」なのでしょうね??物質を還元するというのは、結構大変なことなので、余分なエネルギーを消耗してしまう原因になるはずです。わざわざ、エネルギーを消耗してまで硝酸を優先的に吸収するように進化したというのは、まったく不思議です。

その答えは、「貯蔵性」にあります。つまり、アンモニアは、植物体内に蓄積すると毒性があるから、貯めることができないんですね。しかし、硝酸は違います。かなりの量を細胞内に貯蔵しても、ほとんど害がないんですね。植物の生育を最も左右する「窒素」成分を、場合によっては、植物生重量の1%近くも貯めることができるのは、植物にとって非常に大きなメリットです。

植物にとっての兵糧(ひょうろう)は、硝酸だったわけです。将来の窒素不足というリスクに備えて、硝酸を体内に蓄積できる。これが、進化した植物の姿というわけです。

硝酸は、植物に溜まりやすい。これが、窒素肥料を使うときに意識してほしい、第一のことです。人に例えると、脂肪をため込んだ「メタボ」と同じことが、植物でもあるのですね。

第2回へ続く