(卒論要約)酢酸と酢酸カルシウムの葉面散布
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植物栽培、農業に酢酸を利用すること
酢酸が植物の生育にとって、大変メリットがあるということが、かなり知られるようになってきました。もっとも有名な研究事例は、理化学研究所の酢酸による乾燥ストレス耐性向上のメカニズム発見の事例でしょう。それ以外にも、BLOF理論の小祝先生により、植物が水溶性炭水化物として酢酸を吸収し、生育に利用することが広く説明され、日照不足や根痛み等への対策、その他のストレス耐性を高めるために酢酸が良い働きをすることが、多く知られるようになったと思います。
(卒論要約)酢酸および酢酸カルシウムの葉面散布
先日、大変うれしいご連絡がありました。弊社の酢酸資材(イーオス)を用いて、近年の気象変動や異常気象に対応するための果樹栽培の試験を行い、「無事に卒業論文が完成しました」とのご連絡です。果樹経営を専門とするコースの大学教授より丁寧な感謝のお言葉をいただきました。
拝読しますと、見事な試験内容と論文で、大変苦労されて試験を実施したのが良くわかりました。本試験では、3つの果樹、おうとう(サクランボ)、ぶどう(ブドウ)、そして西洋なしに、「酢酸」と酢酸を用いて作った自作の「酢酸カルシウム資材」の葉面散布テストを行っています。
非常に素晴らしい論文となっており、また農家の皆様には大変有益な内容となっておりましたので、許可を得て以下にその要約を掲載いたします。
また指導されました大学教授の先生からは、
「私もいままで、いろいろな資材の評価を行ってきましたが、これだけ目に見える結果が出るのは珍しいなと思いました。」
と、イーオスや酢酸カルシウムの評価に関するお言葉もいただきました。
酢酸や酢酸カルシウムの有用性が、大変分かりやすく結果に表れていることが分かると思います。ぜひご一読ください。
論文の要約版PDFダウンロードはこちら気象災害(異常気象)に対応するための酢酸及び酢酸カルシウムのバイオスティミュラントとしての葉面散布の評価(要約)
(目的)
高品質な果樹の生産が求められる一方で、気象災害(異常気象)に対応し安定生産を実現する技術が求められている。そこで複数の果樹を対象とした比較試験により、バイオスティミュラントとしての酢酸および酢酸カルシウムの葉面散布の効果と実用性を検討する。
【試験1】 おうとう(佐藤錦)での葉面散布剤の比較試験
1.試験方法
・酢酸区 商品名「イーオス」(株式会社大地のいのち製 酢酸15%含有)500倍
・酢酸Ca区 自作(「イーオス」に卵殻を最大量溶かして作成)500倍
・対象区(無散布)
※主枝単位ごとに試験区を設定し、週1回の葉面散布を実施。早朝より葉から滴り落ちる程度。
※発芽(4/15)後より計7回散布、および結実確認(5/15)後より計5回散布した。
2.結果の概要
(1) 果実肥大の推移
果実肥大の程度は、イーオス(結実期)と酢酸Ca(結実期)は対照区より果実がやや大きく推移し、収穫時の階級(サイズ)は、酢酸Ca(結実期)、酢酸Ca(発芽期)、イーオス(結実期)の順に優れた。なお着色は結実期以降の散布でやや優れ、糖度・酸度については顕著な差はなかった。(表省略)
(表1)果実肥大の推移
試験区 | 5月23日 | 6月4日 | 6月19日 |
---|---|---|---|
イーオス(発芽期より7回) | 14.6 | 22.3 | 24.4 |
イーオス(結実期より5回) | 15.9 | 23.6 | 25.0 |
酢酸Ca(発芽期より7回) | 14.9 | 22.6 | 24.1 |
酢酸Ca(結実期より5回) | 15.4 | 23.4 | 24.8 |
対照(無散布) | 15.6 | 22.6 | 24.5 |
(表2) 収穫時の階級割合(6/18調査)
試験区 | 3L階級 | 2L階級 | L階級 | M階級 |
---|---|---|---|---|
イーオス(発芽期より7回) | 1% | 57% | 43% | 0% |
イーオス(結実期より5回) | 1% | 80% | 18% | 1% |
酢酸Ca(発芽期より7回) | 2% | 60% | 37% | 1% |
酢酸Ca(結実期より5回) | 4% | 88% | 8% | 0% |
対照(無散布) | 1% | 66% | 28% | 5% |
※階級の基準:3L 28~31mm、2L 25~28mm、L 22~25mm、M 19~22mm
【試験2】ぶどう(デラウェア)での葉面散布剤の比較試験
1.試験方法
試験1(おうとう試験)と同様の試験内容。
※50房程度で試験区を分け、ジベ処理2回目(6/28)後より週1回の葉面散布を計4回実施。
2.結果の概要
(1) 着色の推移
イーオス区、酢酸Ca区ともに対照区より着色の進みが早く、着色のみで収穫期を考えた場合、5日程早く収穫が可能と考えられた(表1)。なお、両散布区ともに対象区と比較し糖度が高く、酸度が低い傾向にあった。(表省略)
(表1) 「デラウェア」の着色の推移
試験区 | 7月3日 | 7月5日 | 7月10日 | 7月15日 | 7月20日 |
---|---|---|---|---|---|
イーオス | 0.3 | 1.0 | 3.2 | 5.5 | 7.0 |
酢酸Ca | 0.1 | 1.0 | 3.2 | 5.7 | 7.0 |
対照(無散布) | 0.0 | 1.0 | 1.8 | 4.4 | 6.6 |
(表2) 収穫時の果実品質(7/20調査)
試験区 | 房重 (g) | 房長 (mm) | 粒数 | 糖度 (Brix%) | 酸度 (g/100ml) |
---|---|---|---|---|---|
イーオス | 116.4 | 12.2 | 64.0 | 20.5 | 0.50 |
酢酸Ca | 93.4 | 10.9 | 64.2 | 21.1 | 0.66 |
対照(無散布) | 113.6 | 12.2 | 74.6 | 20.0 | 0.81 |
【試験3】西洋なし(ラ・フランス)での葉面散布剤の比較試験
1.試験方法
試験1(おうとう試験)と同様の試験内容。
※主枝単位ごとに試験区を設定し、10日ごとの葉面散布を実施。早朝より葉から滴り落ちる程度。
※発芽(4/2)後より計16回散布、および結実確認(5/15)後より計13回散布した。
2.結果の概要
(1) 果実肥大の推移
イーオス(結実期)区のみ対照区と同等、その他の区は対照区より果実肥大が優っていた(表1)。
(表1) 「ラ・フランス」の果実横径(mm)の推移
試験区 | 6月10日 | 7月10日 | 8月10日 | 9月10日 | 10月9日 |
---|---|---|---|---|---|
イーオス(発芽期より16回) | 26.1 | 47.9 | 61.9 | 76.4 | 84.1 |
イーオス(結実期より13回) | 24.6 | 46.1 | 58.9 | 72.6 | 80.2 |
酢酸Ca(発芽期より16回) | 26.0 | 47.9 | 60.5 | 75.7 | 82.7 |
酢酸Ca(結実期より13回) | 26.2 | 48.6 | 63.1 | 76.7 | 84.9 |
対照(無散布) | 24.1 | 45.1 | 60.0 | 73.1 | 81.7 |
(2) 収穫時果実品質、追熟時果実品質
収穫時の果実の大きさは、試験区の果実がやや大きかった。糖度など、その他の果実品質はほぼ同等であったが、酢酸Ca(結実期)区の果実は、ヨード反応が低いものの、果実硬度が高めであった(表2)。果実の追熟時品質は、対照区と比較し、糖度は同等であるが、酸度が低く、食味は良好であった。特に酢酸Ca(結実期)区が甘味・香りが良好で高評価であった。(表省略)
(表2) 収穫時果実品質調査(10/10調査)
試験区 | 果重 (g) | 横径 (mm) | 硬度 (Lb) | 果皮色 (C.C.) | 糖度 (Brix%) | 酸度 (g/100ml) | ヨード指数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
イーオス(発芽期より16回) | 347.7 | 84.7 | 10.9 | 2.1 | 13.1 | 0.18 | 3.1 |
イーオス(結実期より13回) | 332.2 | 84.3 | 9.6 | 2.2 | 13.3 | 0.19 | 2.7 |
酢酸Ca(発芽期より16回) | 358.7 | 87.0 | 10.4 | 2.3 | 12.9 | 0.20 | 2.9 |
酢酸Ca(結実期より13回) | 348.5 | 84.3 | 11.3 | 2.3 | 14.0 | 0.21 | 2.5 |
対照(無散布) | 307.2 | 81.6 | 10.7 | 2.3 | 13.4 | 0.21 | 3.1 |
(3) 収穫後の生育
葉面散布資材散布区の新梢長は、いずれも対照区より長く、葉重も重く(イーオス(発芽)区を除く)、先端の花芽も大きい傾向であった。その中でも、酢酸Ca区の生育は良好だった。(表省略)
(要約:果樹への酢酸と酢酸カルシウム資材の葉面散布の効果)
イーオス(酢酸15%)および酢酸カルシウムを果樹3種(おうとう、ぶどう、西洋なし)の生育期間に葉面散布し、果実の肥大や着色、および食味等の果実品質、および収穫後の生育等を比較する試験を行った。
その結果、対象(無散布)と比較し、イーオスおよび酢酸カルシウムを葉面散布した両区ともに、果実品質が優れる傾向にあった。
また、散布時期の比較においては、発芽後からの散布よりも結実後からの散布の方が、果実品質が優れる傾向にあり、特に結実後から酢酸カルシウムを葉面散布した区は、特に成績が優れる傾向があった。
(備考)
本試験は、農林分野の某公立専門大学(短大)における卒業論文研究の一環で教授の指導のもと実施されたものです。学生により研究論文としてまとめられたものを(株)大地のいのち(生田)が要約・編集したものです。