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エタノールと酢酸による高温・乾燥耐性の向上について

酢酸で植物を猛暑から守る!最新研究が明かしたストレス耐性強化のしくみ

私たちが夏の猛暑や乾燥に苦しむように、植物もまた、環境ストレスに日々さらされています。
暑さ、乾き、強い光、塩害など、自然界には植物にとって厳しい条件がたくさんあります。もちろん、病害虫や強風、豪雨なども植物にとって大きなストレス要因です。

植物はこうしたストレスを受けると、生き延びるために体内で様々な反応を起こし、成長モードから防御モードへと切り替える仕組みを持っています。
たとえば、葉や茎を強くしたり、抗酸化物質(いわゆるファイトケミカル)を生成したりする反応がそれにあたります。
この一連の働きは、人間で言えば「暑いと汗をかく」「けがをしたら炎症が起こる」といった、生体防御反応ととてもよく似ています。

ここでぜひ農家や家庭菜園をされている皆さんに知っていただきたいのは、最新の研究によって、こうした植物の生体防御反応を、ストレスが発生する前に意図的に引き出せることがわかってきたということです。

つまり、防御モードへの切り替えをコントロールできれば、予測される環境ストレスに対して、より強い作物を育てることが可能になります。

これはこれからの農業にとって、非常に大きな意味を持つ技術だと思います。ぜひこの新しい知見を知っていただきたいと思い、詳しくご紹介していきます。

ストレスに立ち向かう植物の防御システム

植物がストレスを感じたとき、細胞の中では次のようなことが起こります。

  • 活性酸素(ROS)が発生し、体に危険信号が伝わる
  • 防御用ホルモン(ジャスモン酸、アブシジン酸、エチレンなど)が分泌される
  • 成長をいったん抑え、ダメージを最小限にする体制に切り替える

この中でも特に重要な役割を担っているのが、ジャスモン酸(Jasmonic Acid, JA)です。JAといっても農協のことではありません。ジャスモン酸です。覚えておきましょうね!

ジャスモン酸は、植物が「これは危ないぞ」と判断したときに出される防御の指令シグナルです。通常は、病害虫の攻撃や、乾燥などの環境ストレスを受けたときに生成され、植物体全体に「防御体勢を整えよ!」という命令を送ります。

ジャスモン酸の指令が出ると、植物は数時間以内に防御反応を起動し、外部からの攻撃や過酷な環境に備えた態勢に切り替わります。

エタノールや酢酸がジャスモン酸を誘導することが発見された

そして大変面白いことに、近年の研究で驚くべき発見がありました。エタノールや酢酸といった簡単な有機物を植物に与えると、ジャスモン酸が誘導されることがわかったのです。

つまり、植物に「エタノール」や「酢酸」をあらかじめ与えておくと、植物はそれをストレスの前触れと認識し、ジャスモン酸を生成、防御モードへの切り替えを早めに起動します。

このことは、現場において非常に役立つ可能性があります。なぜなら、近年の気象条件では、度を超したような高温や干ばつなどが突然やってくる事が多く、通常の防御反応では間に合わないことが多いからです。40℃近くの熱波によって萎れた、枯れた、ということは最近ではよく聞きますし、そうでなくても花芽が飛んだり、作物の品質が著しく低下してしまうケースも多いです。

そのような激しいストレス環境が来る前に防御システムを起動できるというのは、これからの農業技術としてはとても重要なものになると思うのです。

酢酸により乾燥ストレス耐性を向上させる驚くべきメカニズム

まずご紹介したいのが、2017年に理化学研究所から発表があったこちらの研究成果です。

(理化学研究所)植物に酢酸を与えると乾燥に強くなるメカニズムを発見~遺伝子組み換え植物に頼らない干ばつ被害軽減に期待~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20170627/index.html

ぜひこちらのリンク記事をご覧ください。塩酸だけでなく、クエン酸やギ酸、乳酸など様々な酸や有機酸を与えたところ、なんと酢酸のみが乾燥に耐える力を発揮したということなんですね。

そして読み進めるとさらに面白い話が、酢酸が植物の乾燥ストレス耐性を向上させるメカニズムが分かったという部分です。

そのメカニズムを簡単に説明すると、先ほど話題に出た防御モードに切り替えるための信号である「ジャスモン酸」が、酢酸によって誘導されていたと言うことなんですね。植物体内では、乾燥を感知してそれによりジャスモン酸が生成されるのが通常の機構ですが、酢酸によりダイレクトにジャスモン酸が発生するというのは驚きの仕組みです。さらには、酢酸が関連する遺伝子にも作用し、遺伝子レベルでストレス耐性を向上させていることもわかりました。

そして、シロイヌナズナだけでなく、トウモロコシ・コムギなどのもともと乾燥に強いイネ科植物にもやはり同様の乾燥ストレス耐性の向上が確認されています。
酢酸を使って乾燥ストレスに打ち勝つ植物の生存戦略とは(Academic jounal)
(なおこの実験で乾燥耐性が向上した酢酸の濃度は10~20mM程度です。これは、たとえばイーオス(15%酢酸)では約100~250倍希釈の濃度となります。)

ジャスモン酸が発生しストレス耐性遺伝子が活性化すると、様々なストレスに対して耐性が上がるため、植物が枯れたり、または生育不良に陥るリスクが大幅に低下すると言うことなのです。まさに、「酢酸パワー」に驚かされるばかりです。

低濃度エタノールにより乾燥ストレス耐性が向上する

さらにつづけて、2022年に理化学研究所から発表された最新の研究成果がまた注目です。

(理化学研究所)エタノールが植物の乾燥耐性を高めることを発見 -農作物を乾燥に強くする肥料や技術の開発に期待-
https://www.riken.jp/press/2022/20220825_2

この発表に先立ち、エタノールは塩分ストレス耐性や、高温ストレス耐性も向上させることが報告されています。
エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見(理化学研究所)
エタノールが植物の高温耐性を高めることを発見(理化学研究所)

記事をご覧になっていただけると、シロイヌナズナという植物やイネ科の植物も、エタノールを与えると明らかに高温や乾燥、または塩分に対しても強くなっているのが分かりますね。何もしなければ枯れてしまうほどの過酷なストレスに遭っても、予めエタノールを与えていると生き延びる。この事実は、ものすごい発見だと思います。

しかも注目すべきは、使ったエタノールの濃度がわずか10mM(0.058%)だったという点です。たとえば、25度(25%)の焼酎を使うなら、およそ430倍に薄めた濃度にあたります。本当にごくわずかな量で、40℃もの高熱にも耐える力を引き出せるわけです。

これだけのことで、猛暑や干ばつに強い作物づくりにつながるのであれば、これもまた値千金の発見だと感じます。

そしてさらに面白いのがここからです。

エタノールが酢酸に変換され、植物の成長を止めないメカニズムが動いている

ここまで読んでいただいて、酢酸とエタノールはとても似た働きをしていると感じた方も多いと思います。私もそう感じました。

そこで、エタノールが根から吸収された後、どのような物質に変換・代謝されているのかを調べると、とても興味深いことがわかりました。実は、エタノールは体内でまずアセトアルデヒドに変化し、その後、酢酸へと変換されていたのです!

なるほど、だからエタノールも酢酸と似たような防御効果を持っていたわけですね。

図3 エタノールが植物の乾燥耐性を高めることを発見(理化学研究所)より

こちらの図をご覧いただくと、エタノールがアセトアルデヒドを経て酢酸に変化し、さらにアセチルCoAを経由してさまざまな代謝経路に広がっていく様子がわかります。

たとえば、
・クエン酸やリンゴ酸といった呼吸(エネルギー生産)に関わる有機酸
・グルタミン酸やアスパラギン酸といったアミノ酸類
・グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、スクロース(ショ糖)といった糖類(作物の甘み)
など、生育や農産物の品質にとって大変重要な物質へと代謝がつながっています。

さらには酢酸が、光合成不足を補っている事実も確認されました。植物がエネルギー不足に陥ったときに、有機酸やアミノ酸から糖を作り出す機能を「糖新生」と言いますが、酢酸が様々な物質に変換された後、光合成が不足した場合に「糖新生」により糖が作り出され、エネルギー不足を補っていることが確認されたのです。乾燥により植物は気孔を閉じて水分を逃がさないようにしますから、当然に光合成が抑制されます。そんなときにも糖を生み出し、エネルギーが作られるということです。これもまた重要な発見です。

つまり、エタノールや酢酸は、植物の中で乾燥ストレスへの耐性を高めるだけでなく、基本的なエネルギー代謝や栄養生産にも関与し、植物の生育そのものを支えていたのです。なんて重要なヤツなんでしょうか!

まずは、酢酸(イーオス)の活用を考えよう!

ここまでご紹介してきた通り、酢酸やエタノールは、植物に備わった本来の防御力や栄養生産能力を引き出す、大変注目すべき物質です。勉強すればするほど、これらの有機物の魅力が爆発ですね!

中でも酢酸は、手に入りやすく、安価で扱いやすいというメリットがあります。エタノールは酢酸に比べると高いですし、引火性がありますから取扱いにも注意ですね。現場での活用を考えるなら、まずは酢酸を使うことから始めてみるのがおすすめです。(ちなみに、一般の食酢や酢酸系資材、木酢液との違いを聞かれることが多いですが、酢酸は物質名ですから、どの商品でも酢酸です。酢酸の含有量を比較して希釈した濃度を合わせれば、酢酸の効果としてはどの商品も同じです。)

例えば、イーオスは15%酢酸液です。これを約250倍に希釈すれば、乾燥耐性を高めるために有効とされた10mM前後の濃度が得られます。

あらかじめストレスが予想される時期や天気の前に、葉面散布や潅水への添加といった形で試してみるのがよいです。ここで言うストレスとは、高温や乾燥だけに限りません。ジャスモン酸の守備範囲は非常に広く、塩害や病害虫、さらには低温や過剰水分といったストレスにも対応できるのです。

すでに、夏場の作物であるアスパラガスやトマト、キュウリ、ブドウなどでは多くの方に使っていただいて喜んでいただいています暑い時期でも収量が上がるというお声をよくいただいています。また秋や冬においても、ミカンやイチゴなど作物の品質向上や病害虫対策などでも大活躍とのことです。

また、イーオスに、本格にがりやマジ鉄といったミネラル資材を加えたり、カルシウム資材と混用するのもおすすめです。酢酸の効果と、ミネラルの吸収促進作用、そして代謝の活性化でさらに相乗効果が生まれます。

ただし、あまりに濃度が高いと、防御モードが強くなりすぎ、茎葉の伸長を抑える印象もあります。まずは500倍程度からお試しいただき、200~300倍希釈を通常倍率で良いと思います。100倍希釈は、調子悪いときなどに、たまに刺激療法で使うくらいが良いですね。

イーオスは、猛暑や干ばつや病害虫に備え、収量と品質を高める新しい農業技術の一つとして、きっと大きな力になってくれるはずです。使えばきっと、皆さんだけの“秘密の技術”になりますよ。