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硝酸トーク第9回 『硝酸肥料の使い方』

硝酸肥料、アンモニア肥料の吸収エネルギー

植物の根は、いろいろな栄養を選択的に吸収していることが知られていて、その栄養の種類によって、吸収しやすさや、吸収するために必要なエネルギーが違います。

根は基本的にマイナスに帯電していて、プラスイオンを吸収しやすい状況にあります。そのため、プラスイオンのアンモニウムは、根と引き合うため、吸収が容易で、ほとんどエネルギーを使わないでも吸収できるものとされています。(その代わり、過剰に入ってい来ると毒性があるので、過剰な流入はブロックするようです。)

カルシウムやカリウムも、プラスイオンなので、吸収は容易なものになります。

一方、硝酸イオンは、マイナスに帯電していて、根とは反発する傾向になります。しかし、非常に水に溶けやすい硝酸イオンは、雨が降れば容易に植物の根に接触することになるでしょう。植物は硝酸を必要としているわけですから、エネルギーを使って専用の吸収ポンプを動かし、硝酸イオンを吸収しています。

水溶液中では、硝酸イオンよりアンモニウムイオンの方が、少ないエネルギーで吸収できるというのは意外ですね。

窒素肥料とミネラルがバランスする必要性

ところで、硝酸イオンはマイナスイオンで、これを大量に植物体の中に吸収すると、イオンバランスを崩してしまうことになります。そこで、硝酸イオンを吸収させる場合は、必ずセットで、カルシウムやマグネシウム、またはカリウムなどのプラスイオンを吸収させたいものです。そうすることで、植物はバランスよく育つことができます。

また土壌中のバランスも気にしたいところです。硝酸イオンは、土壌pHを下げ、酸性化させてしまうことは、覚えておきたい知識です。前にも書いたと思いますが、基本的には硝酸は、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリと一緒に流亡してしまうので、土壌が酸性になります。

それだけでなく、硝酸が蓄積するだけでも土壌は酸性化します。実験によると、化成肥料や有機肥料を施用し、露地の状態では、土壌pHは大きく変化しませんが、マルチで被覆すると数日で土壌pHが0.5程度下がります。マルチの中で、硝酸化成菌の活動が活発になり、硝酸が蓄積したためです。そしてその後、マルチを剥ぐと、土壌pHはまたすぐに元に戻る(中性に戻る)という現象が起きます。

マルチの下でなくても、土壌分析をするとカルシウムやマグネシウムは非常に多いのに、土壌がかなり酸性化している場合があります。このような場合、硝酸が蓄積しているケースが多いようです。

ですから、硝酸性窒素を多く含む肥料を施用する場合は、できるだけバランスを崩さないように、カルシウムやマグネシウムなどとセットにしたいということです。このことは、有機肥料やアンモニア肥料でも、いずれ硝酸に変わることを考えると、同様の考え方が必要です。

基本的には窒素肥料と、カルシウムやマグネシウム肥料のバランスを常に意識することが、非常に重要ということは、ご理解いただけるのではないかと思います。

様々な硝酸性窒素肥料の種類

硝酸をメインとした肥料には、硝酸アンモニウム(硝安)、硝酸カリウム(硝石)、硝酸カルシウム(硝酸石灰)など代表的です。配合肥料の中には、これらが混ぜられていることもありますので分かりにくいのですが、肥料の保証票という部分を見ていただいて、「硝酸性窒素」という表記があれば、このようなものが含まれている可能性があります。

その中でも、硝酸カルシウムや硝酸カリウムは、比較的バランスを崩しにくい便利な肥料だと思います。特に、ブロッコリーやキャベツ、ホウレンソウなどの低温期に、土壌中の硝酸濃度を上げるために、追肥としてよく利用されていますね。

また、柑橘類やビワ、マンゴーなど熱帯性・亜熱帯性の常緑果樹は、春の肥料吸収がどうしても遅れる傾向にあります。山間部や適作地域より以北の地域、または著しく樹勢が低下している園では、硝酸カルシウムなどの肥料を3月ごろから少し施用するのも、良い方法ではないかと思っています。

写真のような、かわいそうなみかんの樹は、1日も早く回復させたいと思うのが親心でしょう。

そんなとき、硝酸性窒素肥料は非常に便利な肥料となりますね!

こーんなかわいそうなみかんの樹は、1日も早く回復させたいと思うのが親心でしょう。そんなとき、硝酸性窒素肥料は非常に便利な肥料となりますね!

面白いことに、最近の研究では、硝酸カリウムには、サツマイモネコブセンチュウの行動に影響する働きがあることも分かってきており、硝酸カリウムが高濃度でセンチュウを忌避し、低濃度で誘引することが分かっています。硝酸カリウムの有用性についても、今後のさらなる研究を楽しみにしたいと思います。
(参考資料)
土壌を模したミクロな人工空間でセンチュウの生態を解明
植物感染性線虫の宿主根認識機構

硝酸性肥料の使い方

硝酸性窒素入りの液肥の散布や潅水については、時間帯も考慮したいところです。意外なことに、植物は硝酸を昼も夜もあまり変わらないスピードで吸収しています。しかし、夕方や夜間に吸収した硝酸は、やはり徒長の原因となりやすいものです。そのため、硝酸性窒素の含まれる液肥は、やはり朝方から施用するのが良いです。速効で、その日のうちに吸収されます。

また、葉面散布の場合、硝酸、尿素、アンモニア、またはアミノ酸を散布することが多いと思いますが、これらの葉面吸収スピード、効率は、尿素>硝酸>アンモニア>アミノ酸の順となります。特に、尿素は、葉面から吸収されたのちウレアーゼという酵素でアンモニアに変換されますが、硝酸はエネルギーを使ってアンモニアに変換されますから、エネルギー効率としても、硝酸より尿素の方が、窒素吸収面では有利です。

もちろん、硝酸カルシウムは、カルシウムと同時に効かせることもできるので、そのような面から、硝酸肥料を選択するのも悪くないと思います。