硝酸トーク第5回『硝酸を減らすための水溶性糖類の効果は?』
硝酸は、いわば『成長信号』
硝酸の吸収は非常に即効的で、旺盛であるので、硝酸が多すぎるとやはり植物は軟弱となります。また既に話したように、繁茂しすぎることによって、糖度やビタミンCが下がる、と言ったデメリットもあります。
また、硝酸そのものが「成長信号」の様なもので、土壌の硝酸濃度が高まると、発根作用が高まります。実験によると、アンモニア肥料よりも硝酸肥料の方が、発根は著しく良くなります。
これは、意外なことのように思うかもしれませんが、硝酸はアミノ酸単体の肥料よりも発根促進作用が高い場合が多いようです。(ただし、「有機肥料」や「ぼかし」には、アミノ酸以外に有機酸や他の肥料成分やホルモン様物質が多く含まれていますから、ここでは硝酸と比較していません。)
つまり、根から吸収した硝酸があればあるほど、植物は光合成で生産した糖類を根に転流させ、根でのたんぱく質合成を高めるのです。その結果、根は発根を続け、発達します。
また、地上部にも硝酸が導管を通じて運搬され、葉や茎でたんぱく質を作り、成長しようとします。そういう意味で、硝酸は「成長信号」と考えてよいわけです。
このように、たんぱく質を合成する際には、糖類を著しく消耗してしまいますから、果実やイモや地下茎に糖類やデンプンを蓄積したいときは、硝酸は少なくなるようにコントロールした方が良いんですね。
水溶性糖類で硝酸を低減できるだろうか?
しかし、肥料の難しいところは、「やってしまったものは取り除けない」という事でないでしょうか?
全てを液肥管理する養液土耕栽培のような栽培法ならばまだコントロールがしやすいですが、普通に堆肥や化成肥料、有機肥料を施用するケースが多いわけです。
いつも適切な窒素量を計算して肥料の量を調節するのは、言うほど簡単でないと思います。いちいち土壌分析をするのは、本当に面倒ですし、時間がかかります。
そんな時、方法として考えられるのは、水溶性糖類を施用することで、硝酸量や窒素量を低減できるのではないか?という事ですね。
これについては、とても面白い実験がありますから、見てもらいたいと思います。
水溶性糖類の施用がチンゲンサイ地上部硝酸イオン含量の 低減化に対する効果(茨城県農業総合センター園芸研究所)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010792990.pdf
この実験では、ショ糖やブドウ糖、果糖などの水溶性糖類を水に溶かして潅水すると、植物内硝酸濃度が、半分近くまで減ったことが報告されています。その原因は、糖類の施用によって土壌微生物が急激に増えたため、彼らが土壌の硝酸を食べて、土壌の硝酸が減ったことだと結論されています。
なるほど、一時的に窒素飢餓の状況となったという事ですね。それによって、チンゲンサイの硝酸含有量が一気に下がったというわけです。(私は、チンゲンサイ自体が、糖類を吸収した可能性も感じますが、論文ではそこには言及していませんでした。)
いずれにせよ、糖類の施用で、土壌の硝酸が下がり(→有機態窒素に変わり)、それによって、植物の硝酸値を下げることができるというのは、面白いことだと思います。
一時的な窒素飢餓を作り出す?硝酸態窒素を低減する方法
実際の畑で、砂糖やブドウ糖を潅水するのはコストがかかりますし、病原菌発生のリスクがありますから、安易にできません。しかし、易分解性の炭素率の高い堆肥などを施用するのは良い方法だと思います。
たとえば、収穫間近のくだものなどに、微粉末の竹粉パウダーや籾殻パウダー、またはC/N30〜40程度の堆肥を施用することは、実際に糖度を上げる方法として実践している方もいらっしゃいます。また、酢酸(お酢)やクエン酸などを、水に溶かして潅水するのも実用化された技術です。
ちなみに、サンビオティックの「糖力アップ」には、黒糖や海藻エキスなど、水溶性糖類を多く含ませており、これがアミノ酸の効果と相まって、他にはない徒長しにくい、効率的な窒素肥料となっています。硝酸の増加を抑えつつ、葉の活力を維持するための有機態窒素を与えることができる肥料になっているのです。
また、「純正木酢液」には、酢酸やクロトン酸やプロピオン酸、ブチル酸などの有機酸成分、またアルコールなど、水溶性糖類といえるものが主成分に含まれています。また、海藻エキス「海王(うみおう)」や高酸度食酢「イーオス」にも水溶性糖類が多量に含まれています。
これが、一時的な硝酸の減少に働くため、徒長抑制や組織の強化につながり、病害虫の軽減に一役買うことになるのですね。