硝酸トーク第6回『生殖生長期に窒素施肥はどうするか?』
栄養生長と生殖生長とは?
農業では、多くの作物は、生育の前半が栄養生長期、後半が生殖生長期、という生育ステージで説明されます。
(以前は植物が育つことは「生長」という字が使われていましたが、現在は植物も動物も区別なく「成長」を使うことも多くなっています。どちらでもよいのですが、ここでは古語に倣い「生長」の文字を使ってます。)
これは、人に例えるとわかりやすくなります。成長段階の前半は、乳幼児から思春期の前までで、これが「栄養成長期」です。つまりの骨格を作り、体を大きくする時期です。
そして思春期が「交代期」と呼ばれるステージです。体を成長させつつも、次のステージへ転換している時期です。
成長ステージの後半は、「生殖成長期」となります。このステージでは、子孫を残すための体力づくりや、実際に子どもを産み、育てることが含まれると思います。
このように人の生命や一生に例えるのは、とても分かりやすく、そして直感的に理解しやすいので、この話は私も大好きです。
生殖生長期に窒素は必要か
ところで、栄養生長期に窒素が必要なことは、だれもが否定しないでしょう。窒素は、細胞の主原料であり、細胞を増殖するためには最も重要な肥料成分です。枝葉を伸ばし、体を大きくするステージでは、窒素が重要なことは基本的な共通認識ですね。
ここで、素朴な疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
「じゃあ、生殖生長期は、窒素はいらないの??」
確かに、稲や果樹のように、実が結実した以降の生殖生長期では、もう体を大きくしないでもよい段階になっています。このころには、細胞の分裂も少なくなっており、全体として窒素を要求しないのではないかと考えられます。
しかしこの質問に対する答えは、人に例えると、直感的に分かります。
人にとっても窒素は、タンパク質のもとですから、体を大きくするために必要な栄養素です。窒素が多く含まれているのは、肉や魚、卵などですが、大人になったら、もう『肉や魚や卵は一切食べなくていい』なんて、そんな話は殆どの人が信じないと思います。
いくら「体を大きくしなくていい」といっても、やはり窒素は必要ということです。
例えば、イネを考えましょう。収穫が近づくにつれ、葉が黄色くなり、田んぼは黄金色に変わります。私の姉は、美穂子というのですが、まさに日本人の心を揺さぶる、美しい穂の姿。美穂とは本当に良い名です。
ところで、黄色くなったイネは、症状としては窒素切れの症状ですね。「おれの栄養は、全て子孫(稲穂)に渡したぞ」と言わんばかりの、植物としては清々しい、そして少しかわいそうな姿にも見えます。
このイネに、穂が実るころ、大量の窒素肥料を施肥したらどうなるか、それは皆さんご存じのことでしょう。
イネは、好アンモニア植物ですから、一般の化成肥料がよく効きます。植物内に、無機窒素が増えると、「成長信号」が働き、コメの成熟が遅れ、また美味しくなくなってしまいます。場合によっては、倒伏したり、いもち病などの病害も多発するでしょう。
畑の作物であるミカンも、生殖生長期に大量の窒素肥料をやると、着色が遅れ、味が悪くなり、また果皮の成長が促進されて浮皮になってしまいます。(果皮には、もともとの「葉」としての性質がまだ残っているのでしょう。)
どうも、生殖生長期に窒素肥料を大量にやるのは、注意が必要なようですね。特に、硝酸やアンモニア態窒素は、「成長信号」を出しやすい物質ですから、施用量には十分注意しなければなりません。
しかし、その反面、収穫時には、まだ葉が光合成をできる状態を維持していた方が、作物の糖度や美味しさはアップします。最後まで光合成して、糖分を送ってくれるからです。
こうなってくると、悩ましいですね。窒素をやるべきか、やらざるべきか。
クロロフィルは数時間で壊れる
葉にある葉緑素は、クロロフィルとたんぱく質が結合した状態で存在しているのですが、そのたんぱく質は光合成をするとわずか数時間〜1日程度で壊れてしまいます。窒素がなくなると数日で葉が黄色くなるのはこのためです。植物は、壊れたたんぱく質を次々に補充しなければ、葉緑素を維持できないんですね。
つまり、美味しい作物を作りたければ、収穫のその日まで、葉緑素を維持できる程度の、「最低限の窒素」が必要という事です。
特に、トマトやきゅうりのように、収穫しながら成長をつづける作物の場合は、樹勢を落とさないように、その成長に必要な最低限の窒素を与え続けなければなりません。
生殖生長期にも使いやすいアミノ酸態窒素
そこで便利なのが、「成長信号」を出しにくい窒素の存在です。それを使えば、生殖生長期においても、もっと安心して窒素を与えることができるかもしれません。
その名は、「アミノ酸」。有機態窒素とも言います。
アミノ酸は、硝酸やアンモニアのような「成長信号」を出しにくく、しかも植物にとって有用な窒素源なのです。
生殖生長の後半では、とくにこのアミノ酸施肥が役に立ちます。最後まで葉の活力を維持したい、でも果実を甘くしたい、というときには、アミノ酸肥料を活用してみてください。
特に、前回までで述べてきたように、土壌の硝酸濃度を低下させつつ、アミノ酸肥料(液肥)で、たんぱく質の原料を補充していく方法をとると、想像以上の差を生むことがあります。
こちらに投稿したミニトマトの話題は、その非常によい例です。こちらの記事もぜひご覧ください。
サンビオティックの糖力アップには、魚をそのまますりつぶして酵素分解したドロドロのソリュブル(アミノ酸液)をベースにしています。一般に流通している魚のソリュブルは、鰹節を作るときの煮汁であったり、酵素分解処理をしていないものが多いですが、糖力アップはその点で、原料の質に大きな優位性があります。
さらには、糖力アップには黒糖や海藻エキスが含まれているんですね。このまさに『水溶性糖類』は、前回の投稿で紹介した通り、微生物の繁殖を促し、硝酸態窒素を有機化し、減少させる作用があります。もちろん植物にも吸収されます。
菌力アップ(好気性微生物)と糖力アップの組み合わせで、ミニトマトの糖度、食味がこれほどまでに向上するのは、このような原理を知らない方からすると、不思議な、まことに理解不能な現象でしょう。「まあ、たまたまやろう」と片付けられそうな話です。
でも、これまでの投稿を読んでいただいた方なら、糖力アップが土壌微生物や植物生理のメカニズムをうまく活用したもので、普通のアミノ酸肥料(窒素肥料)ではないということが、ご理解いただけるのではないかと思います。
※菌力アップ、糖力アップで必ず糖度が上がると言っているわけではないので、ご理解ください。バランスと微生物や植物生理、そして資材の性質を知って頂くことが重要ということです。