硝酸トーク第2回 『美味しい野菜、果物のつくり方?』
硝酸は、植物の心の余裕
硝酸について、話を進めましょう。正確には、土壌中や植物中に含まれる硝酸イオンのことで、硝酸塩と言っても良いと思うのですが、文字数の関係でここでは簡略化して、「硝酸」と表記します。
硝酸が、植物体内に溜まりやすいということは、植物の生育上はとても大きなメリットです。
これは、たとえて言えば「貯金」に似ていますね。
私たちも、かなり多くの貯金があれば、心に余裕が生まれて「そんなにあくせく働かなくても大丈夫だろう」と、のびのびと生きていけますね。普通の人なら、宝くじで3億円当たったら、その瞬間から、「必死に」働くことは辞めるはずです。きっと私もそうです。笑
植物も似ていて、多くの硝酸という「貯金」があれば、余裕を感じることでしょう。来るべき飢餓や外敵に備えて体を強化したり、さらに根を張って栄養を吸収しようという努力をすることも、無駄なように思えてきます。
植物には、思考回路はないですが、本能的にそのような状態に変わっていくのですね。
硝酸が植物を弱くするメカニズム
このことは、理屈を話すと、こうなります。
硝酸は、一旦アンモニアに変換され、それからグルタミン酸などのアミノ酸へ合成され、たんぱく質となります。この時、光合成で生成したブドウ糖などの糖類を消費してしまいます。「アンモニア」+「糖」=「アミノ酸」、だからです。
つまり、硝酸があると、植物はたんぱく質を作ることを頑張るので、糖類の消費が激しくなるわけですね。
たんぱく質はたくさん作られますから、葉や茎や果実の生産量(収量)は増すことになりますが、その反面、糖類が不足し、作物は甘みが減少して「美味しさ」は低下します。また、リグニンやセルロースなどが減少して病害虫に対する抵抗性が低下したりすることになります。
硝酸でメタボ体質になりやすい?
体は大きくなるけど、ちょっと弱い。まさに、「メタボ体質」というわけですね。
これを読んでいる方の中にも、窒素量が増えると、糖類(糖度)含有量が減るということを知っているかたは多いのではないでしょうか?美味しい野菜を作ろうと、窒素肥料を減らすことを努力している方も多いと思います。
植物がもっとも吸収する窒素源の「硝酸」の性質を考えると、収量は伸びるけど、美味しさが低下する傾向があるのですね。つまり、美味しさと収量は相反する?
そういう可能性があると言うことですね!
それでは「高収量」で、かつ「美味しい」作物を作ることは不可能なのでしょうか?私たち農業者は、やはり収量も、そして品質も、両立する方法を知りたいのです。どのようにすれば、それは可能なのでしょうか?
次回は、それについて考えてみたいと思います。