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硝酸トーク第7回 『有機態窒素とアンモニアと硝酸』

有機態窒素とは

前回、有機態窒素という言葉が出てきましたね。『有機』というのは、わりと誤解を生みやすい言葉です。

『有機』とは、化学的に言うと「炭素を含む化合物」です。しかし、少しややこしいのですが、言葉の概念的には、「生きもの由来」または「自然のもの」という解釈で捉えられている場合が多く、「環境に配慮している」ことを「有機」と捉えている人もいます。さらに狭い定義として、「無化学合成農薬・無化学肥料」のことを言う人もいますね。

「有機」という言葉には、さまざまな解釈があるので、私も生産者とお話しするとき、その方の「有機」の定義を聞いてから話さないと、話がかみ合わないことがあります。

ただ、いずれにせよ、「有機態窒素」というときは、多くの場合、生物由来のアミノ酸やたんぱく質のことを指しています。いわゆる「有機肥料」には、有機態窒素が多く含まれています。

では、有機肥料と硝酸は、全く違うものでしょうか?

有機態窒素と無機窒素の土壌中の変化

実は土耕栽培の場合、肥料の種類にかかわらず、窒素成分の多くは、アンモニアを経て、硝酸に変化して植物に吸収されると言われています。有機肥料でも化学肥料でも、その傾向は変わりません。

土壌微生物の活性が高いほど、そのスピードは速く、有機肥料でも化学肥料でも、一般的な微生物が生息している土壌では、施用後数日もあれば硝酸に変化し始めます。

土壌中のアンモニアは、微生物(硝化菌)にとって好適な環境があれば、数週間もあれば殆どが硝酸に変わるほどの速さです。

タンパク質やアミノ酸などの有機態窒素が、アンモニアや硝酸に変わることを「無機化」と言いますが、無機化のスピードは、水田よりも畑が速いものです。無機化の正体は、微生物による分解、酸化なので、空気が豊富で微生物の活動が活発なほど、無機化は速くなります。(栽培期間を通じての無機化率は、それほど変わりません。)

一方で、無機化がうまくいかない場合もあります。たとえば、土壌消毒をしたあとで微生物が死んでしまっている場合や、微生物が活動できないほどの酸性土壌(pH4程度)や低温(10℃以下)、そして空気の不足(水分過多)、または微生物による分解を阻害する物質(硝化抑制剤)を混ぜてある場合などの条件では、無機化がかなり遅くなります。

そのような時、好硝酸性植物は窒素が足りず、黄色くなることも多いです。

冬のキャベツの外葉が赤紫になるのも、低温や水はけの悪さで、硝酸が不足してキャベツが成長しきれないときに出るサインですね。

やがて、硝酸に変わる

ケースバイケースであるため、有機態窒素の何パーセントが硝酸として、またはアンモニアとして植物に吸収されているかは、はっきりと言えません。しかし、一般土壌で有機肥料が施用される場合は、ほとんどが、硝酸、またはアンモニアとして吸収されていると考えてよいでしょう。(液体の有機肥料の場合は、水溶性なので有機態窒素が直接植物に吸収される率は高いと考えられています。)

ですから、有機肥料の「有機態窒素」もいずれ「硝酸」に変わる、という意識がとても大切です。

有機肥料や、豚糞堆肥や鶏糞堆肥なども、過剰な量を施肥すると、やはり硝酸が増え、作物は徒長し、軟弱になり、また味も低下する傾向があります。有機肥料だから大丈夫、ではなく、きちんとした窒素成分量を計算して、施用することが大切ですね。

有機肥料に意味はない??

以上のことを理解したときに、もう一つの疑問が湧いてくると思います。

「有機肥料でも化学肥料でも、結局、硝酸になるなら、化学肥料が良くないですか?」

ですよね。もちろん、理論的にはこういう考え方や結論が出てくるのは当然ですし、それは合理的な結論です。

この質問への回答は、「だけど、ちょっと違う。」ということです。

確かに、窒素の動態だけを見ると、有機肥料も化学肥料も最終地点は硝酸ですから、どちらもほとんど同じといえます。それはそうなのですが、このプロセスに時間がかかるというところがちょっと違うんですね。

つまり、
化学肥料は、アンモニア→硝酸へ変化します。
有機肥料は、タンパク質→アミノ酸→アンモニア→硝酸へ変化します。

有機肥料の方がプロセスが長いんですね。プロセスが長いということは、それだけ時間がかかるということです。

そしてこのプロセスは実は一方通行ではありません。実際には、このそれぞれの物質を行ったり来たりしているんです。硝酸は、非常に水に溶けやすいですから、雨が降ると流れてしまいます。しかし土壌中に窒素が長期間残存するのは、このプロセスが行ったり来たりしていることを意味しているんですね。

そこに関わっているのもやはり、微生物です。土壌中に多くの微生物が生息し、そして活動しているような豊かな微生物叢を保持した土壌ほど、有機態窒素を多く保持しています。つまり有機肥料を施用すると、そこにはたくさんの微生物が繁殖し、その栄養分を食べます。猛烈に増殖した微生物は、その体自体が窒素を含んでいますから、これが天然の肥料袋となっているわけです。

これらの肥料成分を蓄えた微生物が、常に一定割合、生まれたり死んだりを繰り返し、そのサイクルの中で少しずつ窒素が無機化され、硝酸となり植物に吸収されているということなんですね。

窒素が急激に、過剰に効いてしまうということは、植物の生育リズムをおかしくしますから、窒素の施用方法というのは、もっとも注意しなければならないことです。生育や光合成とのバランスに合わせて、適切な量の窒素を効かせることが、最も重要な栽培技術といえると思います。

有機肥料の方が、ゆっくりと、そしてバランスよく肥料が効くということは、このような微生物への影響も含めて、成り立っているんですね。化学肥料の便利さと同時に、有機肥料の魅力というのを、ぜひ再考していただきたいと思います。