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微生物談義第8回 バチルス菌の土づくりの能力はいかに?

バチルス菌によって、土壌は団粒化するのか

今日は、農業において、植物生育環境において、バチルス菌の働きがどう作用するのかについて考えてみましょう。

バチルス菌が植物の病気の発生を抑える働きがあることはすでに述べました。では、もう一つの側面として、土づくりのほうは、どうでしょうか?つまり、バチルス菌によって、土壌は団粒化するのか、という疑問です。

バチルス菌の土壌団粒化への貢献は、粘性物質でしょう。先にご紹介したように、バチルス菌は、バイオフィルムを作るため、ネバネバの糊のようなものを作り、放出します。これは自分たちが外敵から身を守るために働くバリアの機能がありますが、このネバネバした特性から、土壌粘土や金属イオン、有機物や死菌体などをくっつける役割があります。これが、初期の団粒のもと(ミクロ団粒)となることが分かっています。すごいですね。

ですから、団粒形成の初期には、バチルス菌のような粘着物質を多く作る微生物の働きはとても大事なんですね。乾燥した土を、トラクターで細かく粉砕すると、土の団粒は著しく崩壊してしまいます。作物によっては、このように非常に細かく耕すことが推奨されている品目もありますから、これは仕方の無い作業である場合もありますね。しかし、団粒が崩壊し、いわゆる単粒化した土壌は、一見ふわふわして細かく、良さそうに見えますが、一度雨が降るとそれは、壁のように固まり、水はけが悪く、硬直して通気性の悪い状態になりやすいものです。また大雨が降ると土壌浸食(エロージョン)といって、表土が流亡してしまうような状態になります。

このような状態をいち早く団粒化させるためには、バチルス菌のようなミクロ団粒を作ってくれる微生物の働きがとても大切なんですね。ミクロ団粒は、やがて別の微生物、たとえば糸状菌や放線菌のような大きな微生物の働きにより、マクロ団粒という私たちが目で見て分かるくらい、団粒化が進んでいくことになります。

個々で注意することは、バチルス菌のネバネバは、本来、水分保持と生存領域確保のために作られるもので「水溶性」です。大雨が降ると、ネバネバは崩壊し、「団粒のもと」は崩壊してしまいます。バチルス菌だけでは、本格的な耐水性団粒は形成されにくいということです。より簡単に言うと、「バチルス菌は、土壌団粒化のきっかけを作っている」と言えるかも知れませんね。

一般的に、本格的な耐水性団粒を作る微生物は、糸状菌>放線菌>細菌(バチルス菌)の順に働いているといわれています。もっと言えば、ミミズや、トビムシなどの小動物の貢献も、もちろんあります。様々な微生物や生物の複合的働きで、土壌団粒ができているということが、自然の複雑さと美しさを表しています。

このように、微生物というのは、なにか1種だけの働きを見ていては見誤ってしまいます。共生や生態系という全体の中で見なければ、大切な部分を見誤ってしまうと思うのです。

バチルス菌は、糸状菌と共生している?

もう一つ、面白い話をご紹介したいです。それは、バチルス菌が糸状菌とも共生関係を持っているという意外な事実です。

下の研究サイトが、その一端です。

細菌は菌糸の「高速道路」を移動し「通行料」を払う 〜細菌と糸状菌の知られざる共生関係を発見〜(筑波大学)
https://www.tsukuba.ac.jp/.../biology.../20200924184103.html

このサイトにあるYoutube動画を見ると、枯草菌が糸状菌の菌糸とともに、どんどんと繁殖エリアを拡大しているのがわかります。つまり、糸状菌が、枯草菌の繁殖と拡散を助けているということです。

ここで面白いのは、移動を手助けしてくれる糸状菌に対して、枯草菌は「チアミン」などの栄養を提供して、糸状菌のさらなる成長を助けているという発見です。決してタダ乗りしてるのではなく、相互に協力しているという事です。

これまで、「バチルス菌は、糸状菌などの微生物と拮抗し、糸状菌の繁殖を抑制する」と言われてきた定説が、見事に覆される大発見でしょう?仲が悪いと思っていたバチルス菌と糸状菌は、実は仲良しだったー、という大変美しい裏切りです。

生物多様性、バランスがとても大事です。

そうです、土壌中の微生物は、実に多種多様な種が、拮抗したり、共生したりして、そのバランスを保っているということです。何かの菌が、一方的に偏る土壌、このような状態を目指す土づくりは、避けるべきだということです。たとえば、糸状菌をあまりに敵対視し、糸状菌が生きていけないような環境を作ったり、殺菌剤を多用するような場合、バチルス菌の生息エリアの拡大は、著しく低下するかも知れません。何しろ、バチルス菌は糸状菌に乗って、生息エリアを拡大しているのですから。やっぱり、バランスを考えるって、大事なことですね。

ところで第6回でお話しした通り、バチルス菌はもともと非常に多く土壌に生息しているのです。様々な植物の葉にも、枯草菌(納豆菌)がびっしりと生息しているのです。また、バチルス菌は土壌消毒をしても、耐性が強いですから生き残る確率が高いものです。ですから、皆さんの畑でも、土壌や、または外部から持ち込む堆肥やワラや麦わら、または雑草などに由来するバチルス菌が、多く生息していると思います。

それなのに、なぜ多くの畑では、病原性糸状菌などの微生物が増え、病気が出るのでしょう?皆さんの畑では、バチルス菌はいないのでしょうか?それとも、いるけれど芽胞となって寝ているのでしょうか?『おーい、バチルス君どうしたあ?』って感じです。

次回は、その点をもう少し深く考えてみましょうね。