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微生物談義第3回 「放線菌」の働き 1話

放線菌の躍動感

前回まででお話しした通り、植物の生育を支えてくれる細菌の中で、土壌中に最も優勢を構築しやすいのが放線菌です。放線菌は、細菌でありながら、菌糸を放射線状に伸ばし、その生息エリアを占有していく性質があります。その「生き方」は、カビ(糸状菌)と非常によく似ています。放線菌は、細菌と糸状菌の中間的な性質を持っています。

放線菌の生長を撮ったYoutubeの動画がありますので、ぜひご覧ください。これは驚きです。
放線菌ストレプトマイセス・アベルミチリス(タイムプラスビジョン)

生命力、躍動感を感じる美しい動画で感動します。このように菌糸を伸ばすことができるという事は、水分などの環境の良い部分を基点にして、かなり環境の悪いところにまで菌糸を伸ばしても生きていけるということであり、他の細菌にはない生命力を発揮する原動力になっています。また放線菌は、かなり環境が悪くなると胞子の様な耐久体を作ることもできる優れものです。

放線菌と糸状菌(カビ)の違い

カビ(糸状菌)との見分け方は、厳密には顕微鏡で見なければならないのですが、放線菌は菌糸がカビよりもかなり細く、また緻密です。カビは、絨毯のように地表面を覆うように広がっていきますが、放線菌は土や堆肥の粒や葉や小枝の一つ一つに絡みついて、一粒一粒を覆っていくように広がっています。堆肥や土壌に目に見える一般的なものは白い色であることが多く、乾燥すると小麦粉の様な真っ白い粉に見えます。

土壌中や堆肥で観察するときに特徴的なのは、においです。カビはカビ臭がしますが、放線菌は土のにおい、堆肥のにおいがします。雨上がりのにおいは、放線菌のにおいと言われたりもします。「ジオスミン(ゲオスミン)」というにおい物質を発散していて、カビと区別したいときに、においは大きな手掛かりとなります。

放線菌が放出する匂い物質「ジオスミン(ゲオスミン)」の意外な話

余談ですが、放線菌の出すこの特有な土臭さの匂い、私たちが雨の日に感じる田舎臭いにおい、あの正体は放線菌が出す「ジオスミン」という揮発性の有機化合物です。

放線菌がなぜ盛んにジオスミンを放出するのかはよく分かっていませんでしたが、最近発見された興味深い話があります。

それは、放線菌はジオスミンを放出することで何らかの動植物へのシグナルを送っているのではないか、または誘引しているのではないかと言う仮説から始まります。

さまざまな動物などをジオスミンに反応するかをテストしたところ、土づくりをする昆虫で有名な「トビムシ」がこの匂いを好んでいることが発見されました。

トビムシは、放線菌が出すジオスミンに誘引され、植物遺体有機物などを探し当てて食べているようです。その時、エサと一緒に、放線菌を食べ、また放線菌の胞子にまみれ、トビムシはまた移動した先で、放線菌の胞子をまき散らし、また放線菌を含んだ糞をして、放線菌の繁殖を手伝っていたそうです。

動物や昆虫が、ある種の微生物と共生し、共進化する事例は、枚挙にいとまがありませんが、このような絶妙な仕組みが、広く自然環境を作り出すメカニズムになっているという事実に、大変感動します。

放線菌の生態と増やすポイント

放線菌の生育範囲は広く、乾燥から湿潤まで生育しており、適温は20〜35℃程度です。菌力アップには堆肥づくりでも活躍する55℃以上でも生育する好熱性放線菌も含まれています。

放線菌の生育環境を考える上では、土壌pHが大切です。一般的に細菌に中性〜弱アルカリ、カビは酸性、と覚えていただければいいのですが、放線菌も細菌ですから最適pHは6〜8程度となります。

たとえば、ジャガイモの「そうか病」や、サツマイモの「立枯病」という病気は、放線菌属の「ある種」が加害するものですが、土壌pH(特に塊根周辺)を酸性(pH5.5以下)にすることで、そうか病の発生が抑制されるのは、そのためです。(菌力アップには、そうか病菌は含まれておりませんので、当然ながら、菌力アップでそうか病が助長されるようなことはありません。)

逆に、放線菌を増やしたい場合は、土壌pHを中性(6.0〜6.5程度)に調整しておくことは、とても大切なことです。

露地で堆肥や窒素肥料を多用すると、アンモニアが硝酸に変わり、土壌中のカルシウムなどと結合して多くのアルカリ分を、雨水とともに流亡させてしまいます。そのため、土壌のpHはどうしても酸性になりがちです。硝酸そのものが酸性であるため、雨が降らなくてもマルチを張るだけで、表土は酸性になりやすくなります。

ですから、栽培上の大きなポイントを言えば、病原性糸状菌にお悩みの圃場では、pHが酸性になって放線菌が増えにくくなっていることが一つの原因です。このことは、ぜひ覚えておいてほしいなと思います。

「森の掃除屋」放線菌の重要な働き

放線菌は、土壌の有機物、とくに難分解性の繊維を地道に分解してくれます。また昆虫やセンチュウ、糸状菌の殻の成分であるキチン質の分解も得意としており、森の掃除屋としての重要な働きを持っています。

特に放線菌の働きで面白いのは、やはり抗生物質の生成です。ストレプトマイシンという結核やペストに使われた強力な抗生物質は有名ですが、これは土壌に多く住んでいるストレプトマイセス属放線菌から見つけられたものです。現在、医療現場で使われている抗生物質の7割程度は、放線菌から見つけられたものと言われますから、ものすごいですね。

このような抗生物質を多く生産する放線菌が土壌中にいることで、土壌の環境はより放線菌優勢となり、他の病原菌の増殖を抑制できると考えられています。

次回は、放線菌のもう一つの注目すべき「あの能力」について!お楽しみに。