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微生物談義第4回 「放線菌」の働き 2話

前回までのお話は、こちらからご覧ください。

https://sunbiotic.com/blog/8650.html

放線菌のもう一つ重要な働き

もう一つ放線菌の働きが面白いのは、「土壌団粒化」の作用です。ご存じの通り、土壌団粒化というのは、作物が健康に根を生長させるうえで必須ともいえる大切な条件です。土の粒子や有機物と、微生物の菌糸とが絡みつき、粒々になることを団粒化といいます。

土が柔らかくなることを団粒化と言われる事がありますが、それは厳密にいうと、団粒化ではなく、膨軟化です。たとえば、トラクターで畑を耕すと、土に空気が入り、ふわっとした土になります。また、これと同じように、夏場の暖かい時に、酵母などの微生物の働きで有機物を分解し、大量の二酸化炭素を放出することで、土の中の空気が増え、土が柔らかくなることもあります。

このような土壌では、土は柔らかく、ふわっとしていて植物が良く育ちそうな気がします。しかし実際には、しっかりした団粒が形成されていないと、大雨が降るとすぐに土の中の空気が押し出されてしまい、土はべたっと潰れて、固くなってしまいます。

大雨や潅水後に、水たまりができるとか、カチカチになる畑は、このような状態です。

本格的な土壌団粒というのは、耐水性団粒というものになっており、大雨が降っても、その形状があまり変わりません。無数の菌糸がネット状に土壌団粒を包み込み、絡みついていますので、雨が降っても団粒は崩れず、さっと水が引いていき、そのあとにはまた隙間に空気が入ってくるのです。

本格的な団粒構造を作るのは糸状菌と放線菌

このような本格的な耐水性団粒を作る仕事は、糸状菌や放線菌の得意技です。なぜなら、彼らの菌糸そのものが、丈夫で耐水性があるからです。

一方で、バチルス菌(納豆菌)が団粒構造を作るという説を目にしたこともあると思います。これは、間違いではありませんが、糸状菌や放線菌とはちょっと意味合いが異なります。つまり、バチルス菌(納豆菌)は、納豆のようにネバネバした物質を生産するので、土壌中にある粘度や砂、有機物などをネバネバした物質でくっつけてくれる働きがあります。

これは、団粒構造ができる第一段階といってもいいでしょう。まずは、鉱物や有機物が電気的に引き合う力や、バチルス菌(納豆菌)が生産するネバネバ物質などで、団子ができなければならないからです。

このような団子ができたのち、その団子を糸状菌や放線菌が、網を張り巡らせ、つよい団子にすることが、団粒構造ができる仕組みなんですね。

つまり、団粒構造は、さまざまな細菌や糸状菌の共同作業によってできるということです。

そもそも、カビや放線菌は、人や植物のために団粒を作っているわけではなく、自分たちが住みやすい環境を作るために団粒を作っていると思われます。その証拠に、団粒化が進んだ土壌ほど、豊かな、多様性に満ちた微生物相が形成されています。

このように見ていくと、畑で細菌や放線菌を増やすことの重要性が理解できると思います。

菌力アップに含まれる優秀な放線菌を増やすには

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写真は、菌力アップを施用したピーマンです。菌力アップには、放線菌を主体として多種多様な微生物が含まれています。驚くことに、潅水チューブの吐出口部分の土が真っ白になっているのが分かると思います。おそらくちょうど有機物を施用した部分に放線菌が繁殖し、真っ白になっているんですね。

まるで石灰のようですが石灰ではありません。ここまで菌糸が出てくるのは稀ですが、放線菌を増やすことで土は非常に環境が良くなり、植物の生育は見違えるようになります。

では、実際に土壌に放線菌を増やす方法ですが、これは主に3点のポイントをご紹介したいと思います。

  1. 土壌pH
    まず、土壌pHは放線菌の生育環境としてとても重要です。pHは6.0〜6.5を目標に調整してほしいと思います。それ以外の環境変化には強いので、あまり心配はいりません。
  2. 放線菌のエサ
    放線菌のエサは、窒素成分が少なめの有機物です。堆肥でも、より窒素成分の少ないものの方が、放線菌が多く、また放線菌のエサが豊富だと思っていただいてよいです。堆肥や腐葉土、もみ殻や裁断した稲わら、麦わら、カヤ、落ち葉などの有機物を、1t/10aは目標に施用するとよいです。また、放線菌が好きなキチン質を施用することも良いです。カニ殻などを100〜200kg/10a程度、施用することもお勧めです。できれば、こういったカニ殻も、一度発酵させて、キチン質を分解させたものがより良い効果を発揮します。近年の研究では、キチン質を分解した低分子の「キトサン」を土壌や葉から植物が感知すると、免疫システムが発動し、病害虫に対する免疫力が上がることが分かっています。キチン質+放線菌の施用が、昔から有機農家の技術となっていたのには、きちんとしたメカニズムがあったんですね。なお、ジャガイモやサツマイモの畑には、キチン質資材は施用しないようにしてください。
  3. 放線菌そのもの
    土壌消毒を実施したり、または化学肥料や農薬、その他の影響で放線菌がいない、減っている畑には、やはり放線菌そのものの投入も必要です。放線菌堆肥などを施用するのは、良い方法です。また、「菌力アップ」には有用な放線菌が豊富に含まれており、これを土づくりの時や、生育期間中(特に発根期)に施用すると、放線菌を爆発的に増やすことができます。以上のように、放線菌は、土壌を団粒化し、そして有機物の分解を通して植物に非常に多くの栄養を供給してくれます。そして、センチュウや病原菌(糸状菌)が住みにくい環境にしてくれるとても素晴らしい働きを持っています。しかも、環境変化にめっぽう強いところが、頼もしいですね。連作障害や土壌病害、また発根不良園にお悩みの圃場では、ぜひこの「放線菌」を意識してみませんか?