菌力アップを施用すると、もともといた土壌微生物はどうなる?
今回は、面白いお問い合わせがありましたので一緒に考えてみたいと思います。
ご質問内容は、こちらです。
(ご質問)
今年から菌力アップを使っています。使いながら感じた疑問なのですが、その土地に住んでいる土壌菌と菌力アップの菌は、どのような関係を作っているのでしょうか?
このご質問、実はなかなか面白い、そして探究心に満ちたご質問だと思います。
「菌力アップ」というのは、一般に販売されている微生物資材の中では非常に多い微生物種が含まれた飛び抜けた性能を持っている微生物資材です。
そこには、本来植物を育てる場合に、土壌にいてほしい微生物のセットが入っています。なぜこんなにたくさんの微生物種を含んでいるかというと、植物が健康に育つためには、非常に多種多様な微生物がいることが重要だと考えるからです。
生物の多様性というのは、環境を安定させるためにとても大切なのです。また環境変化に対して、安定した作用、効果を期待するためにもとても大切なのです。この考え方が、大変重要だと思います。
菌力アップには、有用と言われる微生物と共に、何でも無いような微生物も多く含んでいます。これらが一緒になったとき、生態系の底辺、基盤を支える重要な働きが土の中で起こります。多種多様な微生物がチームとなって働き、土の環境を作り、植物の生育の助けになります。微生物の一連の働きが火種となって、生命活動が活性化され、食物連鎖が発動し、微生物以外の昆虫や動物も動き出すのですね。
では、ここで新たな疑問がわきますよね。畑の土の中にももともといろんな微生物がいるはずで、菌力アップに含まれる土壌微生物と、もともと生息していた微生物が一緒になったとき、それらはケンカするのでしょうか。それともお互いに協力して働くのでしょうか。
生物は、ケンカしているのか、協力しているのか。
これは、そもそも生き物の世界をどう見るかという価値観、もっと言えば生命観によって見方が変わる問題です。私たちは、例えばライオンがウシを攻撃し、食べるところを見て、ウシは可哀想だという見方をしがちです。ヘビが鳥の巣に侵入して、その卵を食べるのを見て、ヘビはずるいと思いがちですね。
しかし、ライオンはまた別の動物に食べられることもありますし、またライオンがいることで、ウシにとってのもっと嫌な天敵が減っているかも知れません。またライオンがいるから草食動物が過剰に増えることを防いでいます。結果的にウシが食べ物に困らない状態になっています。さらにいえば、ライオンの糞はきっと高タンパクですから、それによってウシのエサが豊かに育つことでしょう。
生物界においては、個々の生き物が一生懸命生きているだけであって、片方だけを贔屓目に見ることは意味が無いですね。生物の生き方に、可哀想とか、ずるいという事は無いはずですね。それぞれが、相互に関係して、バランスが取れている事が、全体としてとても大切なのです。
菌力アップの開発思想はそういうところにあります。微生物同士が関係しあいながら、最適なネットワークを構築します。だから多様性が大事なのです。特定の微生物にスポットライトを浴びせて注目しても、土の中ではその微生物が必ず働くとは限りません。それよりも、多様性の仕組みを使う方が、土の理想的な環境を作るための確実なアプローチだと考えるのです。
菌力アップの微生物は、一部は食べられ、一部は生き残り、、、
菌力アップを施用したのち、微生物の変遷をDNAによる次世代シーケンサーで経時的に解析したところ、菌力アップの微生物が活性化して増えているものももちろん見られますが、もともといた微生物が活性化して増えているものも見られました。多くの方は、菌力アップの微生物が一方的に増殖し、その土に住んでいた微生物を駆逐してしまうのでは無いかと思うかも知れません。しかし現実はそうではありません。
現実は、菌力アップの一部の微生物は増えて、活性化します。そして一部の微生物は死んでほかの微生物に食べられます。そして、その土地にいた一部の微生物が活性化します。
現実には、こんな面白いことが起こるですね。つまり、その土壌に適した微生物種が全体的に活性化しているということが大切なのです。
それらは、お互いに関係しあいながら土壌の団粒化を促進し、それぞれの住まいを作り、そのぞれの菌種にとってエサとなるものを食べ、そして、さまざまな栄養物を代謝していると考えられます。
そのような多様性、バランスというのがとても大切なことで、病原菌や線虫などの植物にとって害のある生き物の蔓延を防ぎます。また微生物のネットワークの中に、植物の根が絡み合い、植物の根と栄養を与えたり、もらったりしながら、共生関係を構築しています。
そのような土壌環境では、自然の草や木が、病気や生理障害もなく伸び伸びと育つように畑でも作物がすくすくと育つようになります。菌力アップは、決して、土着菌を駆逐しているわけではありません。かといって、土着菌に食べられて、菌力アップの意味が無くなるわけでもありません。
外来微生物を土に入れることに他ならないのではないか。という疑問。
それから、こういうお話をすると、次に出てくる疑問もありますね。
それは、菌力アップを土に施用することは、外来生物をその土に導入することになるのでは無いか。つまり、元来の土壌微生物叢を壊し、固有の微生物種を駆逐してしまうのでは無いかと、そういう疑問です。(ちなみに菌力アップは、海外由来の原料や微生物は含んでいません。)
これはある意味鋭い指摘です。
しかし、私はこの質問に対しては、「単なる考えすぎだ」と考えています。
理由は単純です。細菌というのは、基本的に目に見えないほど小さいのです。それは、現実的には、空気中の塵や埃や植物の種子にのって、世界中を旅して回っているのです。日本の空から降り注ぐ雨や塵や埃には、地球の裏側や、北極や南極から飛んでくる細菌も含まれています。もともと細菌というのは、そのようにして地球規模で移動しているのです。
さらには、地球規模で移動している鳥や昆虫、魚などは、人間が把握できるレベルのものではありません。微生物というのは、そういう特性があります。つまりその土地にいる微生物がその土地固有のものであるということは、何ら根拠は無く、またおそらくそんなことはないでしょう。ただその土地に固有の微生物がいたとしたら、単にその土地に増えやすい環境がそろっている、というだけのことです。
また、そもそも肥料、土壌改良資材など多くの農業資材を海外のものに依存している時点で、多くの微生物を海外から導入しているのと同じ事です。たとえば、隣の県から堆肥を購入したとしたら、その時点で、他の地域の微生物を畑に入れてしまうことに他なりません。
ですから、結論は「考えすぎだ」ということになるんですね。
動物や植物の世界では、外来生物の問題が非常に大きくなっていますし、私もこれは大きな問題だと思っていますが、微生物の世界と、動物や植物などを同じレベルで考えるのは無理があると思いますね。
結論:菌力アップによって理想に近い微生物叢が作られる
これまで、考えてきたように、結論としては、菌力アップによって、その土地に住んでいる微生物も刺激され、相互に食物連鎖の関係が始まることによって、結果的に植物にとってより理想に近い微生物生態系が生まれる。ということになりますね。
微生物の世界も奥深い世界です。ぜひより深く勉強していきましょう。