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微生物談義第5回 バチルス菌は「敵」か「味方」か?

バチルス菌の様々な別名

バチルス菌は、土壌微生物の中でも有名な細菌の一種だと思います。ところが、ややこしいのは、その発音です。学名はBacillusなのですが、これを日本語にすると、バチルスとか、バシラスとか言われています。これは、基本的にまったく同じものを指しているので要注意ですね。

また、有名な納豆菌は、バチルス菌の代表格ですが、学名はBacillus Subtilisとなっていて、これはバチルス・サブチリスとか、バシラス・サチリス、また、バチルス・ズブチリスなどという人もいます。

ラテン語に近い発音では、バキッルス・スプティーリス、だそうです。さらには、学術的に使用される和名は、枯草菌(こそうきん)と言われていて、これらは、まったく同じ細菌を指しています。ほんとにヤヤコシイですね!
ここでは農業者の中で、最もよく使われている「バチルス菌」という言い方で進めます。バチルス菌、この細菌も、放線菌に劣らず、非常に多彩な側面があります。

バチルス菌の生態をイメージしよう

バチルス菌はイメージでいうと、鎧を着けた肉食獣です。いざというときは、すぐに鎧の中に引っ込み、その防御力は細菌の中でも最強です。そして、エサがあると、鎧を脱いで誰よりも旺盛に食べます。特に、バチルス菌は肉食派で、たんぱく質を好んで食べるので、肉食怪獣のようで、しかも猛烈な勢いで増える能力を持っています。

バチルス菌の胞子は、芽胞と呼ばれ、非常に強固です。食品製造の現場で、最も嫌われているのが、セレウス菌(バチルス属:好気性)とウェルシュ菌(クロストリジウム属:嫌気性)です。どちらも、塩素、酸性、アルカリ殺菌が通用せず、100℃の高温で1時間加熱しても死にません。本当に厄介な食中毒菌なのですが、実は自然界にはどこにでもいる一般的な細菌なのですね。
また、酒蔵や味噌・醤油の醸造所など、麹菌(こうじきん)を扱うところでは、納豆菌は持ち込み厳禁です。酒を腐らす雑菌としで名高く、酒屋で働く人は、納豆を食べてはいけないとされています。

ラクトバチルス菌というバチルス菌

しかし、悪い面ばかりではありません。バチルス菌の仲間である、ラクトバチルス菌は、食品では大変活躍する細菌です。味噌や醤油、漬物やヨーグルトに使われている細菌です。そうです、その正体は、乳酸菌です。

乳酸菌は、乳酸などの酸を作り有機物やミネラルを溶かし、またその酸性物質で、他の微生物が増えにくくする働きを持っています。つまり、腐れにくくなるということです。乳酸発酵は、冷蔵庫のない時代には、食品保存の重要な技術であったに違いありません。

私たちにとって最高のパートナーであるラクトバチルス菌

ラクトバチルス菌が面白いのは、実は私たち人や動物の生命活動にとても密接にかかわっていて、そして互いになくてはならない存在として相利共生しているという事実です。
つまり、ラクトバチルス菌は、腸内細菌として活躍していて、腸内環境を守ってくれているんですね。もしかすると、最初はただ自分たちの生存戦略として、エサに紛れ込んで動物の口に入り、その消化液に耐え、糞(フン)に混ざって出てくれば有利に増えられる、と思ったのかもしれません。それがいつしか、腸内に留まり、その動物(宿主)が健康になるように働き始めたのかもしれません。これは、まさに共生関係です。

人は赤ちゃんとして生まれるとき、はじめて外界と触れます。そこには、何気ない空間の中に、病原菌やおなかを壊してしまいそうな食べ物などがあふれています。
そんな自然の厳しさに対抗するため、赤ちゃんは生まれてくる瞬間に、生きていくために必要な共生微生物を母親から譲り受けるのです。
赤ちゃんは、母親の産道を通りながら、産道に準備されたラクトバチルス菌を始めとする腸内細菌や皮膚常在菌などの微生物セットを受け取ります。これが、赤ちゃんが厳しい自然の中で生き抜いていく力となるんですね。そしてそれは、生まれる瞬間だけではなく、その後も、授乳や触れ合いを通して、時間をかけて親から受け継ぎます。
腸内細菌が、食べ物の消化を助け、また私たちの免疫力の80%を担っているというから、その重要性はものすごいのです。

ラクトバチルス菌が、私たちの生命を支えてくれていると言っでも過言ではないこと、そしてその固有の腸内細菌セットを、親から子へと、代々受け継いでいくということに、私はとても大きな生命の神秘を感じます。

おっと、つい話しが脱線してしまいました!次回は、バチルス菌の特殊能力をもう少し考えてみたいと思います!