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ミネラル第3回 植物と潜在的ミネラル欠乏の要因

潜在的『ミネラル欠乏』の要因

植物を栽培するのに、ミネラルを意識している人は多いですね。私たち人も、動物も、そして植物にも微生物にも、健康な生命を維持するために、ミネラルというのは大切な役割を担っているものです。かくいう私も、マルチミネラルのサプリメントは、愛飲しています。

「化学肥料ばっかり使ってたら、微量要素が不足するから、堆肥や有機肥料を使うんだよ!」と言われる方もいます。

しかしそれでも、ミネラル不足を起こしている作物をよく見かけます。意識しているのに、いったいなぜ、ミネラルは不足してしまうのでしょうか?

マーティンの鉄仮説

自然界に見られるミネラル欠乏についての研究があります。世界中のいろいろな海で、光合成をする海洋藻類の豊かさを調べてみると、場所によっては、藻類のエサである窒素(N)やリン(P)が豊富にあるのに、藻類が非常に少ないという、不思議な海域がいくつかあることが以前から確認されていました。

数十年も解明されなかったその問題に取り組んだ研究者の一人が、米国の海洋学者ジョン・H・マーティンさんです。マーティンさんは、先ほどの長年の課題に、一つの仮説を立てました。

陸から遠い大洋の真ん中には、鉄の供給が不足していることによって、藻類の繁殖が制限されているのではないか、というものです。この仮説は、「マーティンの鉄仮説」といいます。鉄を供給すれば、海洋藻類が増え、地球温暖化の要因である二酸化炭素を減らすことができるのではないか。

マーティンさんのグループは、その仮説を証明するため、その海域に大量の硫酸鉄を撒くという壮大な実験を行いました。すると、なるほど仮説の通りに、藻類はこれまでになく大繁殖したのです。このことで、陸から離れた大洋では、鉄(Fe)がボトルネックとなって、藻類の繁殖を抑えていたことが証明されたのでした。海に鉄を供給すれば、地球温暖化を阻止できるかもしれない。そういう可能性を感じさせる鋭い研究でした。

実は、この研究には後日談があります。大繁殖した藻類はその後、一斉に死滅して、海底に沈んでしまったのです。あまりに増えすぎた藻類は、窒素やリンを食べつくし、自滅してしまったということでしょう。自然界は、地球温暖化の問題に、そう易々と答えを教えてくれません。

この事例のように、実は土壌でも鉄(Fe)がボトルネックとなって、微生物や植物の生長が制限されている例は、大変多いのです。それは、植物が誕生した頃の環境と、現在の環境が、大きく変わってしまったことに起因しています。

鉄が豊富だった古代と、酸化して欠乏した現代

植物の元祖であるシアノバクテリアは、酸素が非常に薄かった時代に生まれました。35億年も前のことといわれています。そのころには、海にも、陸にも多くの水溶性の「酸化していない鉄(二価鉄)」が豊富にあったのです。それから光合成生物は何十億年もの間、二価鉄を使って生きるように進化して来たのでした。

しかし、その環境は、6億年ほど前に激変します。光合成生物の大繁栄の結果、地球には多くの酸素があふれたのです。酸素と反応した鉄は、酸化して錆び(三価鉄になり)、海中の鉄はすべて海底に沈殿してしまいました。陸上の「二価鉄」も酸化して「三価鉄」となり、水に溶けなくなり、植物は、いのちのミネラルである鉄の吸収が、とても難しくなってしまったのです。

地球の環境変化と、植物の生き方が、潜在的ミネラル欠乏の原因ともいえます。植物のそんな性質を知ると、制限された環境で懸命に生きる姿が愛おしくもあり、また勇気づけられる気がします。

ミネラルの吸収には、バランスと微生物の働き、自然の循環が必要

マーティンさんの実験のように、鉄が欠乏しているから鉄を施用する。そのような短絡的な対策では、一時的に問題が解決したように見えても、その効果は短期的で、すぐにバランスは崩れ、また元に戻ってしまいます。

鉄が足りないから鉄を、マンガンが足りないからマンガンをと、単純に単体のミネラルを畑に投入しても、必ずしもそれがそのまま植物に吸収されるわけではないという事です。

ミネラルの施用は、バランスよく行い、全体として植物や微生物に吸収され、ストックされる必要があります。そして、そうして生命体にストックされたミネラルが、また温度変化や雨やpHの変化、土や微生物との有機的なつながり、生死の循環、そして植物根の状態。このような、さまざまな要素が複雑に絡み合いながら、長期的に自然の循環が生まれ、そうしてミネラルがバランスよく吸収され、植物の生育に寄与していかなければなりません。

私たちは、より健康に植物を育てるために、このような土壌の化学と微生物活動、そして植物の生理を理解しながら、ミネラルコントロールの技術を身につけなければなりませんね。