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ミネラル第11回 植物とモリブデン

植物とモリブデンの働き

<モリブデン(化学式:Mo)>
マジ鉄の含有量 0.027%=270mg/kg(270ppm)

(働き)
・植物内の硝酸還元(硝酸→アンモニア)に関与
・窒素固定菌や硝化菌に必要
・ビタミンCの合成に関与

(欠乏症の要因)
・pHの低下(酸性土壌、pH5.0以下)
・土壌中含有量の不足

モリブデンの植物内での役割

モリブデンは、植物体内の硝酸還元酵素の構成成分であり、根から吸収された硝酸態窒素をたんぱく質に同化する過程で、スタートの部分で重要な働きをします。つまり、細胞内の硝酸イオンを速やかにアンモニアに還元し、アンモニアとグルタミン酸が結合して様々なアミノ酸やたんぱく質ができるわけです。モリブデンの仕事が、この窒素同化作用のスタートであるという事は、とても重要なことです。

もう一つ、モリブデンの重要な働きは、ビタミンCの合成に関わっていることです。モリブデンが欠乏すると、ビタミンCが減少するため、食品としての価値が著しく低下してしまいます。ある研究では、大根にモリブデンを施肥したものと、施肥していないものを、分析して比べたところ、モリブデンを与えたほうがビタミンCを40〜60%も多く含んでいたそうです。モリブデンとマンガンが、ビタミンCの生成剤と言えそうです。

根粒菌やアゾトバクターをはじめとする生物的窒素固定にはモリブデンを必要とします。根粒菌を割ってみると、中に赤い色素が見えると思います。その赤い色素は、レグヘモグロビンと言われるヘム鉄です。窒素固定は、モリブデンと鉄の共同作業によって行われている自然界の偉業ですね。

この作用がなければ、森林も草原もあり得ません。自然栽培では、基本的に圃場への人工的な施肥をしませんが、微生物が窒素固定によって植物に栄養を供給していますから、実はモリブデンと鉄が欠乏した場合、自然栽培は成り立たないことになってしまいます。しかし通常、土壌には窒素固定に必要な量の鉄やモリブデンは十分に含まれていますから、自然はうまくできているなあと感じます。

モリブデンの必要量はごく微量

モリブデンは、微量要素の中では、特に要求量が少ないミネラルです。植物乾物1kgに1mg以下で十分と言われますから、1ppmという大変低い濃度です。一方で、植物体内での許容量は大きいため、モリブデンは過剰に吸収されても生育異常を示しにくいという特徴があります。通常は、植物乾物1kgに100mgでも、特に過剰害という症状は見えません。

この特徴があるゆえに起こる問題としては、牧草を栽培する場合です。牛は、モリブデン過剰の牧草などを飼料に与えると、激しい下痢を伴うモリブデン中毒を発症します。牧草を栽培する場合は、知っておく必要があります。ちなみに、人はモリブデンの過剰は、尿によって排出しますので、問題になりません。同じ哺乳類ですが胃腸の構造や腸内微生物が全く違うので、心配しないでくださいね。

植物におけるモリブデンの欠乏症というのは、現場ではほとんど見かけませんが、土壌が酸性になると欠乏の可能性が出てきます。特に山を切り拓いて新たに開墾した畑などでは、その可能性が高まります。酸性土壌では、鉄やアルミニウムとモリブデンが結合して不溶化し、植物の吸収が悪くなるとされています。このような場合も、酸性土壌を矯正し、土壌pHが適正となると、モリブデンの吸収率は上がります。

先述の通り、ビタミンCの合成にモリブデンが関わっており、ビタミンCの多い作物はモリブデンの要求量も多くなっています。レモンやスダチ、ゆず、かぼすなどの柑橘類も、モリブデン不足があると葉が内側に丸まってきて、正常な生育を示さなくなります。

根本的には酸性土壌の矯正と、堆肥等の有機物の施用が、モリブデンの不足の対策となります。やはり日頃から、土壌pHだけは測っておいたほうがよさそうですね。