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ミネラル第8回 植物とマンガン

植物におけるマンガンの働き

<マンガン(化学式:Mn)>
マジ鉄の含有量1.0%=10,000mg/kg(10,000ppm)

(働き)
・葉緑素の生成に関与
・光合成に関与
・ビタミンCや脂質の生成
・酵素の原料

(欠乏症の要因)
・土壌pHの上昇(アルカリ土壌、pH7.0以上)
・リン酸、鉄、銅、亜鉛等の過剰
・有機物(堆肥等)の多用

人の健康と植物と土壌のマンガン

マンガンは、「愛情のミネラル」と言われていて、人の社会性や愛情に影響している不思議なミネラルです。例えば、異性に興味を持たない人や、子どもを虐待したりする人、また少年院に入る子どもたちには、マンガン不足の傾向があるという研究結果があるそうです。

人の体の中では、マンガンはミトコンドリアの中に一番多く存在しており、網膜や毛髪や皮膚色素などにも多く含まれています。生殖機能や骨や歯の形成、新陳代謝、活性酸素の抑制など、とても重要な働きをしているミネラルです。

植物内には、マンガンの約半分は葉緑体に含まれています。欠乏時には、葉が薄くなるのはそのためです。(鉄は葉緑素を作る過程で必要なので、鉄欠乏はクロロシスとなりやすく、マンガン欠乏は、葉色が全体に薄くなる傾向があります。)

自然界(土壌)には、マンガンは比較的多く存在しており、土壌が中性〜酸性域では吸収しやすい「二価マンガン」は安定しており、自然の状態では植物には欠乏症はあまり見られません。しかし、圃場では、マンガン欠乏が見られる事例が少なくなりません。

たとえば、土壌pHが高い場合は、マンガンが酸化して不溶化し、欠乏症を生じることがあります。また、多くの農業者が盲点としているのは、堆肥などの有機物を多用する圃場では、マンガン欠乏の例が多いという事です。堆肥などの有機物を施用すると、マンガン酸化菌の活性が高くなり、土壌中のマンガンをほとんど不溶化させてしまうことがあります。堆肥中にはマンガンは十分あるのに、欠乏症が出るというのは、意外な落とし穴です。マンガンだけではなく、亜鉛や銅などの微量要素は、堆肥を施用しても、その投入量に反して、作物の吸収量は逆に減ってしまう傾向にあるという点は、注意を要します。

植物誕生の歴史とマンガンの役割

さて、マンガンは生物にとっては、とても便利の良いミネラルです。

地球を『酸素の星』にした立役者であるシアノバクテリアが発明した、「光合成」の仕組みは非常に、画期的なものでした。葉緑素(クロロフィル)で水を電気分解し、水素イオンをエネルギー生産に活用したのです。

しかし、その時、同時に問題が発生しました。活性酸素の発生です。H2O2(過酸化水素)や超スーパーオキシドイオンという、細胞を傷つける強力な活性酸素を、どう安全に処理するかが問題でした。そこで生まれたのが、マンガンカタラーゼという酵素で、活性酸素を安全な酸素に変える仕組みだったわけです。マンガンがなければ、光合成で細胞が傷つき、エネルギーを生み出すことはできません。

それ以来、30億年もの間進化を続け、マンガンは10種類以上もの酵素に利用され、光合成にはなくてはならない様々な機能を担っています。また光合成だけではなく、ミトコンドリアで行う呼吸にも、活性酸素を安全に処理したり、鉄と組んで酸化還元反応を制御するために活躍しています。

地球の生物史において、マンガンの活用が可能になったからこそ、植物が発生し、進化して来たと言っても決して言い過ぎではありません。

光合成の働きに重要なマンガン

またマンガンは、光合成の働きそのものに深くかかわっています。

マンガンは、光合成になくてはならないCO2(二酸化炭素)の吸収機構に関与しています。マンガンが不足すると、CO2の吸収が低下し、光合成が低下するので、生育に大きく影響します。

たとえば、マンガン不足によって光合成が低下し、根のリグニン含有量が大きく減ったために、センチュウ被害を受けやすくなる事例も報告されています。センチュウが出やすい圃場では、土壌の可給態マンガンの含有量を調べたほうが良いかもしれません。

マンガンの機能で注目したいのは、ビタミンCの合成です。植物内でのマンガンの含有量とビタミンCの含有量は、正比例の関係をもっていて、マンガンが多いほどビタミンCの合成量が多くなる傾向があるのです。機能的な野菜を育てるために、マンガンは大変重要なミネラルです。

マンガン施用で、脂質が増えるという研究もあります。キャノーラ(油脂用なたね)で不飽和脂肪酸、特にαリノレン酸含有量が増加するのです。大変面白い研究だと思います。αリノレン酸などの脂質が増加すると、耐寒性が増し、またワックス層が発達することで病害虫リスクも軽減します。

興味深いのは、αリノレン酸は、植物の病害虫に対する抵抗性誘導の引き金としても働いているということです。植物が、病害虫に侵された時、αリノレン酸は分解されてジャスモン酸を放出し、全身に病害虫抵抗シグナルを送るのです。マンガン不足の作物は、病害虫に弱いものになってしまうわけです。

イネは、いもち病菌の胞子に汚染されていても、マンガンと銅が足りていれば、健康に育つことが実証されています。病原菌はいても、発病しない、ということは、植物の抵抗性、免疫力が勝っているということです。ここに、マンガンが関与しているという事は、注目すべきでしょう。

マンガン過剰の害

マンガンについては、過剰害についても記載しておかなければなりません。

マンガンについては、現場の圃場では、マンガン欠乏よりも、マンガン過剰を目にする機会の方が多いくらいです。特に土壌が強酸性に傾いたとき、不溶化していたマンガンが還元状態になることで水への溶出が多くなり、植物には過剰症が出やすくなります。

ミカン園では、土壌pHが4.5以下になるとマンガン過剰の症状出ることがあります。また、近年ではマンガンを含んでいる農薬のマンゼブ水和剤やマンネブ水和剤の多用による、マンガン過剰症も各地で認められています。症状は、葉にチョコレート色の斑点を生じ、黄化して落葉し、進行するとすべて落葉します。pHの影響以外にも、大雨で冠水した場合などの過湿状態で土壌が還元状態となり、マンガン過剰になることもあります。

また、土壌消毒後は、マンガン酸化菌が死滅し、死滅した微生物や有機物からでる還元力のある有機酸でマンガンが可溶化してしまうため、過剰害が出やすくなることもあります。

このような過剰害の対策は、土壌pHを上げ、6.0〜6.5の適正範囲に管理することや、微生物活性の高い堆肥の施用(マンガン酸化菌)、さらには、ケイ素の施用などがあります。ケイ素は細胞壁中のマンガンを不溶化し、過剰害が軽減する作用があるからです。酸性土壌でマンガン過剰な土壌では、pHの矯正と同時にマンガン過剰害を軽減するため、ケイ酸カルシウムやケイ酸加里を活用するのが良いでしょう。

マンガン施用もバランスが大切

「ほう、マンガンはそんなに重要か。」ときっとご理解いただけたと思いますが、マンガンも、やればよいというものではありません。鉄や銅、亜鉛など他のミネラルとのバランスが重要です。

マジ鉄には、マンガンのバランスを考え、マンガン1.0%(10,000ppm)を含んでいます。鉄とのバランスや、その他のミネラルとのバランスを考え抜かれており、植物能力を最大限発揮するように設計されています。