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ミネラル第10回 植物と銅

植物と銅の働き

<銅(化学式:Cu)>
マジ鉄の含有量 0.06%=600mg/kg(600ppm)

(働き)
・光合成に関与(電子伝達系)
・呼吸に関与
・活性酸素による病原菌抵抗性

(欠乏症の要因)
・土壌pHの上昇(アルカリ土壌、pH7.0以上)
・リン酸、鉄、亜鉛の過剰
・土壌中含有量の不足
・堆肥等の有機物の多用

生き物にとって銅は毒なのか

ご年配の方は、銅には、毒物というイメージを持っているかもしれません。

栃木県の足尾銅山鉱毒事件などが、そういうイメージを連想させます。しかし、実際には身の回りにある銅は、無害無毒です。10円玉は最も身近な銅かもしれませんが、電気伝導率が高いため電気製品や電線に例外なく使われていますし、熱伝導率が高いためエアコンや冷蔵庫にも使われており、私たちの生活では、鉄に次いで身近な金属です。

銅には抗菌作用があり、なんと10円玉は、ほとんど無菌状態だそうです。10円玉を台所の流しにおいておくと、菌の繁殖が抑えられヌメヌメしにくくなりますね。銅で作った洗面器の水は、いつまでも腐らないといいますし、銅を編み込んだ靴下を履くと水虫が改善するとも言われています。また、花瓶に銅を入れておくと、切り花が長持ちするとも言われています。もちろん、農業分野でもボルドーなどは100年以上も使われている銅の農薬です。これは、銅の「微量金属作用」と言って、人にとって優れた抗菌作用として活用されています。

人や、他の生き物にとっての銅

私たち人にとって、最も重要な血液(ヘモグロビン)は、鉄でできていますが、銅もなければ血液を作ることはできません。そのため、銅の摂取が足りないと、貧血を起こします。また、銅はエラスチンの合成に関与していて、コレステロールの沈着(動脈硬化)の防止に働きます。さらに神経機能や骨の形成(骨粗しょう症の予防)、受精や生殖などにも深く関わっていることが最近明かになっています。銅酵素が体内における様々な酸化・還元反応の触媒となっていることも明かにされつつあり、人にもなくてはならないミネラルです。

銅は、エビやカニなどの甲殻類、イカ、タコ、カキなど軟体動物に多く含まれています。これらの生物は、青い血液色素「ヘモシアニン」を持っており、その中心金属は銅です。植物では、穀物やノリやワカメなどの海藻、チョコレートの原料のカカオなどの木の実に多く含まれています。ちなみにチョコレートを食べすぎると鼻血が出るという話と、銅の造血作用には、関連はないようです。

植物にとって重要な銅の働き

さて、植物においても銅の重要性は非常に高く、光合成や呼吸にとって不可欠なミネラルとなっています。葉緑体には多量の銅が含まれていて、プラストシニアンというたんぱく質に主に含まれて、電子伝達の重要な役割を担っています。

また、植物内のオキシダーゼ酵素(酸化酵素)に銅が使われています。たとえば、リンゴやナシ、ジャガイモの皮をむくと、切り口の色が褐変するのは、モノフェノールオキシダーゼやポリフェノールオキシダーゼという銅酵素の働きによります。これらの酵素は、通常は細胞内液胞に存在していますが、病害虫によって細胞が傷つけられると、これらの酵素が出てきて、たんぱく質変性作用や殺菌作用のあるフェノール類を生成して、生体防御に働きます。そういう作用は、植物の免疫作用の一つと言ってよいでしょう。

もう一つの有名な酵素は、ミトコンドリアの中で電子伝達系の最後の酵素であるチトクロームオキシダーゼという酵素です。これには、ヘム鉄と当量(同量)の銅を含んでおり、植物の呼吸作用に深く関与しているのです。呼吸とは、グルコース(ブドウ糖)から「解糖系」と「クエン酸回路(TCAサイクル)」によって電子を生み出し、その電子を使って「電子伝達系」という仕組みで、エネルギー貯蔵物質ATPを作り出す活動のことです。私たちも、植物も、呼吸を通して作る、このATPがなければ、活動することも成長することもできませんから、電子伝達系で最後の走者アンカーを担っている銅の存在感は、非常に大きいですね。

銅欠乏症の症状とその原因と対策

このように銅は光合成や呼吸に深くかかわっているため、欠乏すると様々な生理障害につながります。まず新葉の黄化とともに生長が停止し、次第に全体が黄化します。生殖生理にも問題が発生し、不稔が発生しやすくなります。(主に雄性不稔、花粉不足となります。)また、葉や果実を作るのに必要なたんぱく質合成にも支障が起こり、遊離アミノ酸ができてアブラムシを誘引することもあります。

銅は、土壌の腐植物質と強く結合しやすく、多腐植黒ボク土や泥炭土で銅欠乏が起こりやすい環境となります。また、多量の有機物(堆肥や腐植)は、銅を固定(不溶化)します。そのほか、土壌pHが高い場合や、リン酸の過剰などでも銅欠乏が発生しやすくなります。

一方で、銅は酵素等に重要な働きをしているものの、必要量は非常に微量でよく、鉄や亜鉛、モリブデンと強い拮抗作用を持つため、過剰害も心配です。銅が過剰にあると、鉄欠乏などを誘発して、生長点の淡緑化や、根が褐色化して太くなり、側根の伸びが悪くなります。

過剰害が心配されるのは、豚糞堆きゅう肥の多用です。豚の飼料には、増体重促進効果があるため銅や亜鉛が多く添加されており、それが糞尿となって排泄されます。一般に流通する豚糞堆肥を調査したところ、銅は100〜500pp(平均200ppm程度)も含まれており、亜鉛は200〜1000ppm(平均500ppm程度)も含まれていたそうです。これは、堆肥1tで計算すると、銅が200g、亜鉛が500g程度含まれているという事です。これは、結構多い量です。豚糞由来の堆きゅう肥を施用する場合は、銅や亜鉛過剰にならないように、使用量に十分注意する必要があります。

このように、銅は欠乏症にも過剰症にも気を付けなければならない、注意を要する微量要素です。できれば、数年に1回程度は土壌分析をして、銅の過不足を知っておくと良いかもしれませんね。

マジ鉄には、600ppmの銅を含んでいますが、これは潅水や葉面散布で施用する量として、多すぎず少なすぎず、ちょうど良い量に設定してあります。もちろん、不足気味であったり、積極的に施用したい場合は、潅水でやると良いです。

また、アルカリ土壌であったりリン酸過多の土壌であったり、または乾燥や根痛みなどで、土壌に銅があっても吸収できないという場合もあります。そのような場合は、ぜひ積極的なマジ鉄の葉面散布を実施してみてください。きっと効果を実感できると思います