公式ブログ

ミネラル第12回 植物とホウ素

植物とホウ素の働き

<ホウ素(化学式:B)>
マジ鉄の含有量 0.1%=1000mg/kg(1000ppm)
(植物内での働き)
・細胞壁(ペクチン、リグニン)の形成材料
・糖やカルシウムの転流
・維管束の形成に関与

(欠乏症の要因)
・アルカリ土壌(高pH)
・土壌中含有量の不足(3mg/100g以下)
・酸性雨、窒素施肥等での流亡

ホウ素とは何か

「ホウ素」という栄養素は、農業をやっている方以外は、意外に知らない栄養素かもしれませんね。中学校の理科とか、家庭科とかで習うのでしょうか?私には記憶がありません。(笑)

さて、そんなマイナーな栄養の「ホウ素」ですが、実はとっても、とっても大事な栄養素だということが最近になって分かってきています。なにしろ、私たち人が、穀物や野菜など、農産物から得るミネラルで、最も多いのは、ホウ素とケイ素なんだそうです。

ホウ素とケイ素の共通点は、どちらも「骨」を強くするということです。骨を強くするといえば、牛乳や小魚などのカルシウムと考えがちですが、実はそうではないという事ですね。たとえば、象や牛などの大型の動物は、草食であることが多いですね。草ばかり食べて、どうやってあの何十トンもある大きな体を支えるだけの骨を作っているのかと思いますが、植物に含まれているカルシウムやマグネシウム、そしてホウ素やケイ素が、頑丈な骨を作っていたとは、目から鱗が落ちるような話です。野菜をたくさん食べる人は、骨粗しょう症になりにくいという事です。そして、やっぱり子どもたちには、しっかりと農産物を食べさせることが大切という事ですね。

乾燥した植物に含まれる「ホウ素」は、動物やヒトの生体に含まれる含有率に比べると、100倍以上も含まれています。ホウ素は、アブラナ科のダイコン、キャベツやブロッコリーに多いとされていますが、海藻やダイズには、その100倍以上のホウ素が含有されており、骨が弱くなりやすい女性にはぜひ知ってもらいたい情報です。

こう考えると、万人に人気のある組み合わせ「ビールとエダマメ」は、素晴らしい骨粗しょう症予防になるかもしれません。エダマメにはカルシウムとホウ素、ビールには吸収率の良いケイ素が含まれています。

しかも、エダマメに含まれる「メチオニン」は、アルコールを分解し、リン脂質の「レシチン」は肝臓の脂肪を分解して、肝臓の働きを高めるという、素晴らしい作用もあります。

「ホウ酸」をwikipediaで調べますと、人にとって、ホウ素(ホウ酸)の摂取致死量は、食塩と同等程度と書いてあります。動物やヒトには、尿として過剰なホウ素を排出する機能があるので、かなり摂取しても障害は少ないという事でしょう。

ところが面白いのは、ゴキブリです。「ホウ酸団子」といって、小麦粉やら砂糖やらに、ホウ酸を10〜30%程度混ぜて作った団子をゴキブリに食べさせると、ほぼ確実に死にます。面白いですね。骨がないからでしょうか?(笑)少なくとも、ゴキブリには、ホウ素はかなりやっかいな毒物のようです。

植物もホウ素が骨格(細胞壁)を形成している

さて、このように「骨」に強い関連性を持っているホウ素ですが、では一体なぜ、植物に多く含まれているのでしょうか?

それは、ホウ素は植物の細胞の骨格である「細胞壁」の材料だからです。ここでも、カルシウムとホウ素が、文字通り手を組んで、強固な細胞壁を作るために働いています。カルシウムとホウ素は、本当に仲の良い大親友のようです。土づくりでも、カルシウムばかりに目が行って、ホウ素を考えないというのは、なんとも片手落ちです。

カルシウムとホウ素は、細胞壁のペクチンという接着剤のような役割の成分を作っています。そのため、ホウ素が欠乏すると、細胞壁がうまく作れなくなり、組織がコルク化したり、維管束を形成できなかったりします。硬く、そしてしなやかな組織を作るために、ホウ素は欠かせない栄養素です。

ホウ素欠乏の症状は空洞化やコルク化

ホウ素の要求量が多いキャベツやブロッコリーなどでよく見る現象ですが、収穫時に太い茎の切り口が空洞になっていることがあります。これは、ホウ素欠乏の可能性が高い症状です。またコマツナやダイコンなど、芯が褐色になってしまうこともあります。

ホウ素は、糖類の転流にも作用しているとされています。たとえば、根菜類のジャガイモやテンサイなどでは、ホウ素欠乏では、糖やでんぷんが溜まらず、低品質になりやすくなります。サツマイモの「シルクスイート」でよく見るのですが、サツマイモの中身が、黒または褐色に変色して、全然美味しくないものがあります。外観はきれいなのに、切ってみると芯がコルク化しています。これも、ホウ素欠乏の可能性が高い症状です。

その他、ホウ素が欠乏すると、生長点の停止や黒変、茎に亀裂が入り、果実や茎にコルク状のものができたり、ヤニがでたりします。また、根の伸長が著しく悪くなったり、種が不稔になることもあります。ハクサイの芯腐れや、トマトの尻腐れも、ニンジンのホヤケ(水浸状)やキャビティスポットも、カルシウム欠乏と同時にホウ素欠乏が発生していることが多いようです。

そして、ホウ素欠乏は、生長が悪いだけでなく、農産物の価値を著しく低下させます。ミカンや中晩柑では、ホウ素欠乏で果実に苦味(にがみ)が出るようです。私も以前に、吐き出すほど苦いミカンを食べたことがあり、「なんだこれは!」と思いましたが、今考えると、ホウ素欠乏の可能性が高い症状だと思います。レタスやセロリも苦くなるそうなので、これは、農産物全般で注意したほうが良い症状だと思います。

ホウ素の必要量

とは言っても、ホウ素は植物にとっては必須「微量」要素であって、それほど多く必要ということではありません。施用量は、ホウ砂であれば通常は200〜500g/10a程度と、本当にわずかです。欠乏症圃場では、1kg〜数kgを施用しますが、あまり施用すると過剰障害が発生しますので、毎年少しずつやるものなのです。

ホウ素は、酸性で溶けやすく、アルカリで溶けにくくなる性質があります。一般的には、酸性土壌が多いですから、雨が降ったり潅水すると流亡しやすいという事になります。日本では農耕地の過半数が、ホウ素の潜在欠乏レベルであり、特に雨の多い西日本では、ホウ素が不足している圃場がほとんどと言われるくらいです。特に火山灰土壌では、養分を捕まえる能力(CEC)が低いため、ホウ素が少ない圃場が多いので、ぜひ一度、土壌分析をしてみてください。

また、典型的には窒素肥料の過剰で、ホウ素の吸収が間に合わず、ホウ素欠乏の症状を見ることが多いです。先ほどのシルクスイートの芯のコルク化の例や、キャベツの茎の空洞化などは、そうでしょう。

一方、アルカリ土壌では、ホウ素は逆に溶けにくくなるため、植物が吸収できず、欠乏症を生じやすくなります。当然ながら、乾燥や過湿で、根の吸収力が弱っているときも欠乏症が生じやすくなります。

先述のように、ホウ素の過剰症もあります。ミカンでは、土壌に石灰やカリが非常に少ない場合、ホウ素ばかり吸収してしまい、過剰症で、収穫と同時に落葉する、などの現象がみられるそうです。

私たち人の健康が、こんなにも植物の健康とリンクしていたとは、とても感動的なことです。生き物として、つながっているという事ですね。私たちが、健康な植物を育てることが、それを食べる子どもたちの健康につながり、そしてそれがまた、次世代の農業へつながっていく。そういう自然のつながりを意識して、ミネラルを使っていきたいものです。