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ミネラル第5回 植物とミネラルとpH

ミネラルの役割とpH

ミネラル(mineral)は、金属(metal)とは違います。ミネラルは、「鉱物」と訳します。土壌や石に含まれる鉱物は、酸素(O)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)が多く、その他、鉄(Fe)やカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)が含まれています。これを地質のビッグ6といいます。

小学生に聞けば、生き物と「土」は、似ても似つかぬものと答えるでしょう。しかし実は、植物も動物も、土や石に含まれるこれらのミネラルのほとんどすべてを利用しているというから、驚きです。そして面白いのは、動物は植物を食べて、間接的に土の成分を食べて、そのミネラルを活用しているという事ですね。当たり前のようで、食物連鎖の仕組みのすごさを感じます。

「生命は土から生まれて、土に還る」という言葉は、あながち間違いではありませんね。というより、まさにその通りといったほうが良いようです。2500年も前の古代ギリシアの哲学者が「万物は火、土、水、空気」で出来ているといったそうですが、改めて考えてみると、その哲学者の洞察力はすごいな、と思います。

さて、ミネラルの役割というのは、化学的な広い意味では、pH調整ではないでしょうか。

石や土は、先ほどのビッグ6を中心に、構造体を形成し、空気によって酸化し、固まっています。一方、生き物は、「水」を体の中に閉じ込めています。生きるためには、絶えず体の中で水が循環して、栄養を運んでくれないといけないのです。細胞の中で、水がよどんだり、どろどろになったり、または石のように塊ができてしまっては、生命活動は途端に危なくなります。

鉄は、酸化すると水に溶けなくなり沈殿します。細胞の中の鉄が酸化するという事は、とても危険なことなんですね。生命誕生のころから、「酸化」は生命にとっての脅威です。細胞の中は常に「酸化」から守る必要がある、ということです。

酸化や還元は、pHが変動する現象でもありますから、逆説的に言えば、pHの維持は、生き物にとっての重要な仕事ということにもなります。

私たちの健康と、体液のpHとの関係

たとえば私たち、人の体のpHをご存じでしょうか?健康な人の血液のpHは、7.4の弱アルカリ性だそうです。それは、なんと±0.05以内で厳密にコントロールされているそうです。±0.05ですよ?それは、もうpH計でいえば、誤差の範囲でしょう。

でも人の体は、「誤差の範囲でした」では死んでしまうほど、精密に作られ、働いています。

人の血液のpHの調整を担っているのは腎臓です。腎臓では、余分な酸を尿と一緒に排出し、必要なアルカリは血液に取り込みます。ですから、腎臓の機能が悪化すると、私たちは非常に危険な状態に陥ることになります。

たとえば、pHが7.5に上がると呼吸が苦しくなり、手足や唇がしびれたり、けいれんを発症したりして命の危険が生じます。逆にpHが7.3に下がると意識障害や昏睡状態に陥ります。これは糖尿病が進行した場合に見られる症状です。血液のpHは精神にも影響し、少し酸性に傾くだけで、気持ちは陰気になり、アルカリに傾くと陽気になるといわれています。

体のpHを変える要因の一つは、もちろん食べ物です。たとえば、肉や魚などのたんぱく質には、窒素(N)やリン(P)、硫黄(S)などのマイナス(−)イオンが多く、それを中和するために水素(H+)イオンを体内に増やして、酸性に傾きます。(水素イオンが増えるとpHは下がる=酸性となります)

私は海藻が大好きなのですが、海藻や果実や野菜に多いカリウム(K)や、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)などは、プラス(+)イオンです。プラス(+)イオンが多くなると、体液は逆に、アルカリ性になりやすくなります。鉄(Fe)やマグネシウム(Mg)や亜鉛(Zn)も同様です。だから、肉や魚を食べたら、野菜や海藻を食べないとバランスが取れないんですね。このように、pHを調整しているということが、ミネラルの大切な役割というわけです。

土壌のpHと、植物の健康

pH(H2O)による土壌酸性度の区分

土壌について考えましょう。人と同じように、土壌にも窒素やリン酸ばかりをやっていると、pHは酸性に傾きます。そこで、カルシウム(石灰)やマグネシウム(苦土)、その他のミネラルを供給してあげなければ、バランスが取れないというわけです。

土壌のpHが崩れると、実はそこに根付いている植物も、バランスを崩してしまいます。例えば、土壌のpHが5.5以下になると、窒素・リン・カリや、硫黄、カルシウム、マグネシウムなどの栄養素は吸収されにくく、6.7より高くなると鉄やマンガンの吸収が悪くなり、7.5以上になると、亜鉛、銅、ホウ素の吸収が悪くなります。pHが崩れると、すべての歯車が、うまく回らなくなってきてしまいます。

このように、pHは、健康な状態を計測する最もシンプルな指標の一つです。土壌だけでなく、植物の樹液のpHを日頃から検査して、生育診断の指標にするやり方も実用化されています。

植物のミネラル吸収ということを考えるときは、まず初めに土壌のpHを確認するべきですね。土壌分析では、細かい項目の前に、pHを見る習慣が必要です。簡易のpH計は、農業者の必須アイテムです。雨が降った時と、からからに乾いているときのpHも違います。pHを知ると、植物がどんな状況に置かれているかを想像することができます。

土壌には、緩衝作用がありますから、そんなに簡単にはpHは崩れません。それでもなお、土壌のpHが崩れてしまったときは、やはり投入している資材のバランスを考えたほうが良いでしょう。

窒素肥料やリン酸肥料が多すぎるとき、また石灰資材が多すぎるとき、土壌のpHは崩れ、ミネラルの吸収が悪くなってしまいます。マジ鉄を使う前に、もう一度、土壌のpHを測り、バランスが崩れてしまった原因を考えることは、とても大切なことです。それくらい、pHはとても大切なことです。

すこし、大胆に言うと、土壌のpHが適正(作物による)で、土壌微生物が豊かであれば、栽培はうまくいきます。そのためには、もちろん物理的な排水性を整備(明渠や暗渠や、高畝)することも大切ですね。

ミネラルとpH、もう一度見直して取り組んでみませんか?