ミネラル第6回 植物と鉄
マジ鉄というアミノ酸キレート総合微量要素の発売を記念して、ミネラルについて書いています。今回は、早くも第6回。いよいよ、一つ一つのミネラルの働きに注目して、より深く考察していきます。
『マジ鉄』の鉄!!
マジ鉄に含まれているミネラルの役割を見ると、その多様さに驚くかもしれません。ミネラルは、かくも生命に重要な役割を果たしているということが分かります。
その一つ一つには、物語があります。これから、私たちの「いのち」を支えているミネラルを、そして植物生理にとって重要なミネラルについて、順番にひも解いていくこととします。
まずは、『マジ鉄』に最も含有量の多いミネラル、「鉄」です!!
<鉄(化学式:Fe)>
マジ鉄の含有量 1.50%=15,000mg/kg(15,000ppm)
(植物内での働き)
・葉緑素(クロロフィル)の生成に関与
・呼吸によるエネルギー物質(ATP)の生成(電子伝達系)
・細胞分裂に関与(アミノ酸の合成、代謝)
(欠乏症の要因)
・土壌pHの上昇
・リン酸、銅、マンガン等の過剰(またはEDTA資材の多用)
・可溶性鉄の不足(20mg/100g以下)
・過乾燥、過湿、低温等による根系活力の低下
いのちのミネラル 人にとっての鉄の重要な働き
鉄は「いのちのミネラル」と言われています。動物や人にとっては、血液に含まれていますから、もっとも重要なミネラルであることは間違いありません。特に、成長期の子どもや、妊娠・出産、月経などで多くの鉄を消費する女性は、鉄をもっと積極的に摂取する必要があります。
現在、日本人女性の2割は鉄欠乏で貧血症状を持っていて、約半数は潜在的鉄欠乏(かくれ鉄不足)だそうです。
昔に比べ、現代人の鉄の摂取が不足する原因は、
・調理器具が鉄でなくなったこと
・加工食品(加工肉)に含まれる添加物が鉄の吸収を阻害していること
が大きな要因と言われています。
また、野菜に含まれる鉄も、50年前と比較すると1/5程度に減っており、化学肥料主体での栽培に問題があると指摘する人もいます。
鉄が不足すると非常に重大な影響があり、とても「元氣」に生活することはできませんね。
貧血は最も有名な症状ですが、原因不明の症状が、鉄の摂取で治ることも医療現場ではよくあるそうです。意外なところでは、「知覚過敏」は、ヘム鉄とナイアシン(VB3)の摂取でほとんどが改善するそうです。また、「不眠症」も、鉄が関与していて、鉄の摂取で睡眠ホルモンであるメラトニンの生成がスムーズになり、改善することがあるそうです。
そのほか、寝起きが悪い、疲れやすい、うつ病、肩こり、腱鞘炎、湿疹、頭痛、脱毛、イライラ、注意力不足、食欲不振、神経過敏、あざ、胸が痛い、動機、息切れ、むくみ、歯茎の出血、口角炎、口唇炎など、鉄不足の症状は実に多いです。「あ、私のことだ!」と思う人も多いでしょう。鉄の摂取が足りているか、きちんと考えてみる必要がありそうです。
特に鉄が不足しがちな女性にとって、鉄不足は、本人の問題だけでなく、子どもに影響する可能性があることも知ってほしいことだと思います。たとえば、カルシウムについてですが、一般的に女性は、一回の出産で体に持っているカルシウムの半分を失うと言われていますが、その影響で子どもの胎児に供給されるカルシウム量は大きく左右し、第1子よりも、第2子の方が、歯並びが悪くなる傾向があるというのです。本当に、ミネラルの摂取については、その影響の大きさに驚かされます。
ちなみに、人の鉄の吸収を考えるとき、効率の良い鉄の形態は、「ヘム鉄」というものです。これは、動物や魚の血肉に含まれるたんぱく質と結合した鉄で、吸収の良さに優れています。ヘモグロビンやミオグロビンなどがその代表です。思い込みから、女性は肉より野菜を好むように思うかもしれませんが、意外に肉食女子が多いことには驚かされます。女性は、本能的に肉から鉄を摂取する必要性を感じているのかもしれません。
それに対して、野菜などに含まれる植物性の鉄は吸収が劣ります。野菜、海藻にふくまれる鉄は「非ヘム鉄」と言われる形態です。ピロリン酸鉄やクエン酸鉄などが代表的と思われますが、これは三価鉄の状態となっており、ビタミンや酵素の働きで二価鉄に変化してから体に吸収されます。
肉・魚に含まれる「ヘム鉄」は、野菜などに含まれる「非ヘム鉄」の5~6倍もの吸収率があるとされています。つまり、「非ヘム鉄」では、あまり鉄が吸収されないという事です。鉄分が豊富とされるホウレンソウや大根葉や、プルーンなどを食べるのは、もちろん良いことですが、やはり吸収率の点で、肉・魚の「ヘム鉄」には敵いません。
私が調査したところ、市販のサプリメントに使用されている鉄は、ほとんどが「非ヘム鉄」でした。原料として安いからでしょう。鉄を積極的に摂取したいかたは、「ヘム鉄」と記載のあるサプリメントを選ぶことが重要です。
ミネラルの必要量を考えるとき、「欠乏でなければ、足りている」というのは誤った考え方といえます。人も、植物も、ミネラルは最低限やるというよりも、適正水準の上限値に近づける意識が大切です。
植物の生育にとって欠かせない「鉄」の働き
さて、植物の生育にとっても、鉄は非常に重要です。植物生理の要である光合成や呼吸は、鉄がなければできません。植物では、鉄は緑色の濃い野菜に多く含まれています。ホウレンソウや高菜、キャベツ、大根葉などは鉄分が豊富で、子どもや女性に食べさせたい野菜です。
鉄の働きにはまだ、未知の部分があり、すべてが分かっているわけではありませんが、鉄の重要な働きの一つは、光合成の主役である葉緑素(クロロフィル)の生成に関わっていることです。鉄がなければ葉緑素が作られないため、鉄欠乏のとき新葉は白く色が抜けてしまいます(クロロシスといいます)。緑の濃い葉に鉄が多いというのは、盛んに葉緑素を作る必要があるからです。
葉緑素の生成において、鉄は、葉緑素の中心構造体である「ポルフィリン」の前駆物質の合成に関わっています。ポルフィリンができなければ、葉緑素は当然できませんから、鉄は大変重要です。
これは、余談ですが、実は、マジ鉄に含まれている特別なアミノ酸は、葉緑素の材料「ポルフィリン」の材料そのものなんです。そういうわけで、マジ鉄によって葉緑素の生成は一層促進されます。
鉄のもう一つの役割は、エネルギーの貯蔵庫であるATPの生成です。植物も、好気呼吸(酸素呼吸)することによってエネルギーを生み出しているわけですが、その中心的な役割を担っているのが「電子伝達系」です。
中学の理科で習ったように、生き物がエネルギーを作り出すとき、糖(グルコース)を分解してエネルギーを取り出す「解糖系」という働きがあります。これはATPというエネルギー物質、核酸物質を2個作ることができます。つまり解糖系は、1つのグルコースから2個のATPを作る活動です。
解糖系によってグルコースが、ピルビン酸という物質に変わりますが、この物質からエネルギーを取り出すのが「クエン酸回路」と「電子伝達系」です。これだけで分厚い本が1冊かけるほどの大変複雑な、そして巧妙な反応なのですが、この部分で主にATPを作り出すのが電子伝達系です。電子伝達系では、実に最大34個ものATPを作り出します。電子伝達系では、解糖系の15倍以上ものパフォーマンスを発揮するんですね。
この、ミトコンドリアの中で行われる「電子伝達系」で、主役を演じているのが、鉄を含むたんぱく質である「シトクロム」です。だから、鉄がなければ、植物はATPを作れず、急速に活力を失っていくことになります。
好気性と嫌気性の圧倒的なパフォーマンスの違いの理由
余談となりますが、解糖系は酸素が無くても動かすことのできるエネルギー生産方法です。人も、瞬発的に全力疾走などをするときは、筋肉内で解糖系を働かせ、ATPを作っています。しかし、ATPの生産能力が非常に低いので、すぐにエネルギー不足となってしまします。息もできないほどの全力疾走が、長くは続かない理由です。
それに対して、電子伝達系は、「酸素」を必要とします。有酸素運動では、長く走れるのはそのためです。
微生物にも、酸素を必要とする「好気性微生物」と、無酸素でも生きられる「嫌気性微生物」がいるのはご存じでしょう。嫌気性微生物に対して、好気性微生物が、圧倒的なエネルギーを持っていることは、上記の説明を聞くと、だれでも理解できることだと思います。エネルギー生産能力が高いという事は、増えるスピード、有機物を分解するスピード、そして有用物質、代謝物を生産するスピードが圧倒的であるということです。
「二価鉄」とはなにか
植物は、根から「二価鉄」の状態で鉄を吸収しています。二価鉄というのは、酸化していない鉄、と言えばいいでしょうか。鉄は空気(酸素)に触れるとすぐに酸化して錆びてしまい、三価鉄という水に溶けにくい状態となってしまいます。鉄クギについた赤さびを、水に浸けてみてください。まったく溶けないと思います。酸化鉄は、水に非常に溶けにくいのです。(ちなみに、ステンレスというのは、特殊な割合でつくった、鉄とクロムの合金ですが、それにより酸化されない特殊な金属となっています。)
畑土壌は当然ながら空気と常に触れ合っているため、土壌には二価鉄が非常に少なく、植物は通常、土壌中に含まれている三価鉄を還元し、二価鉄にして吸収しています。
根から根酸をだして三価鉄を還元するのですが、それには、多大なエネルギーを必要とします。だから、光合成が不足したり、着果負担がかかって根が弱っているときには、鉄の吸収が難しくなります。
果樹や果菜類が肥大しているとき、根に配分できるエネルギーは少なくなりますから、鉄が必要なのに土壌の鉄を還元できず、鉄の吸収が悪くなり、その結果として果実が十分に甘くならない、着色が悪いということが起こるわけです。成り疲れの一つの症状であると言えます。
以前、ある先生に、果樹を甘くするにはどうしたらいいですか?と聞いたとき、「鉄をやったらいい」と端的に答えられたことを鮮明に覚えています。当時は、私にとっては植物に「鉄」をやる=甘くなる、のイメージはありませんでした。
また、リン酸過剰も鉄不足の原因となります。黒ぼく土など、リン酸を固定しやすい土壌では、多量のリン酸を施用することが多いですが、リン酸と鉄は強固に結びつく性質があり、大切な鉄は「リン酸鉄」となってしまいます。「リン酸鉄」は、石のように固く結びつき、根から吸うことはできません。トマトやキュウリ、メロンなどのリン酸過剰のハウス栽培で、時おり見られる現象です。
土壌の可給態鉄(可溶性鉄)が、知らぬ間に減少していることもよくあります。特に有機肥料や堆肥を豊富に施用している畑では、有機物が多いために鉄やマンガンが酸化しやすく、不溶性となり、逆に吸収が難しくなるという側面があります。土づくりにこだわる人ほど、ミネラルが吸えていないことがあるという事に、特に注意しなければなりません。
鉄を施用する際の注意
先述の通り、鉄は酸化しやすいという注意点があります。鉄を施用すれば、果実は甘く、品質が良くなる可能性がありますが、たとえば手に入りやすい鉄資材として、「硫酸鉄」があります。
硫酸鉄を作物の周りに撒けば、鉄を吸収してくれるでしょうか。または、硫酸鉄を水に溶かして潅水すれば、作物は鉄を吸収してくれるでしょうか。
それは、第3回のマーティンの鉄仮説の話で書いたように、一時的な鉄の吸収はしてくれるかもしれませんが、おそらく数時間で鉄は酸化して、不溶性になってしまいます。不溶化した酸化鉄は、エネルギーを使って二価鉄にして吸収する必要があり、着果負担や根が疲れているときには、植物にとっては負担の大きい方法となる、という訳です。
そこで登場するのが酸化されにくい状態に加工され、そしてキレート化された鉄資材です。できるだけ植物への負担が軽く吸収でき、二価鉄の状態が長期間持続するような鉄資材を利用することが、効率の良い鉄の施用につながりますね。
ちなみに、「非ヘム鉄」のところで話したように、クエン酸鉄の状態はキレートされていますが、酸化され三価鉄の状態になりやすいものと考えています。単純にクエン酸液に鉄を溶かしただけでは、二価鉄とは呼びにくいものになっています。鉄の扱いは、なかなか難しいのですね。
そのようなとき、マジ鉄のキレート二価鉄の威力は、素晴らしいものがあります。アミノ酸でキレートされた二価鉄は、酸化反応を受けにくく、しかも「ヘム鉄」のような吸収性の良さを持っています。
キレート二価鉄は、根が疲れているときでも、容易に吸収することができます。さらには、キレート鉄は体内の移行が優れていて、生長点など必要な場所に届きやすくなります。
マジ鉄は、主成分が二価鉄となっており、その含有量は1.5%(15,000ppm)と、市販のキレート鉄資材(液体)と比較しても、最高クラスの成分含有量となっています。
光合成を高め、植物の持っているポテンシャルを引き出すために、ぜひお使いいただきたい資材です。細胞分裂と茎葉形成の盛んな栄養生長期はもちろん、果実の肥大期など根の活性が低下する生殖生長期にもお勧めです。